引退した元極道のおっさん、竜人少女とダンジョン配信者になる

渡 歩駆

第1話 竜人の少女を助ける

「おいっ! さっさと片付けろよなおっさんっ!」

「ええ、はい」


 護衛の探索者に怒鳴られながら、俺たち清掃員は魔物の死体を片付ける。


 死体は放って置けばダンジョン内がとんでもない悪臭に塗れる。

 なので俺たちのようなダンジョン清掃員が毎日、護衛を連れて片付けに回るのだ。


「ったく、清掃の護衛とかめんどくせーなー。A級の俺がなんでこんなことしなきゃならねーんだよ」

「しょうがないじゃん。探索者になったら順番で清掃の護衛当番が回って来るんだから」

「魔物の死体を片付けるのなんてみんな魔人にやらせればいいんだよ。魔物なんてあいつらの仲間みたいなもんだろーがよ」


 探索者たちは面倒くさそうな声でそんな話をしていた。


 ダンジョンが現れたのは今から30年前。この人間の世界と異世界が融合してからで、その異世界を支配していたのが魔人という種族だ。

 魔人は魔物から進化した存在で、知能は人間と同じだが見た目には魔物の特徴もある。角があったり、尻尾が映えていたりするのが主な例だ。


 人間と魔人は決して仲が良いとは言えず、厳格ではないが住む場所もほとんどの地域で分かれている。


「まだ終わんねーのかよおっさん?」

「はい。ここはもうすぐ終わりますので」

「早くしろよな。ったくトロい連中だな。おれはA級探索者だぞ。お前ら如きが俺の時間を無駄にするんじゃねーよ」

「あんまりモタモタしてっとお前ら置いて帰っちまうぞ。そしたらお前らは魔物のエサだ。そうされたくなけりゃ早く終わらせな」

「わかりました。なるべく急ぎますので」


 そう言って俺は死体の片づけを進める。


山王さんのうさん、そんなにペコペコすること無いですよ。俺たち別にあいつらの部下ってわけじゃないんですから」

「ええ。けどもめてもしょうがないですからね」

「それはそうですけど、こっちを見下してきてムカつきますよ」

「気にしてもしかたありません。早く終わらせましょう」


 そう若い同僚へ声をかけて俺は清掃を続けた。……と、そこへ、


「うん?」


 誰かがこちらへ歩いて来る。

 小柄で胸の大きな赤髪サイドテールの女性。恐らく探索者だと思ったが、


「あれは……」


 撮影用のドローンカメラを飛ばしているので、ダンジョン配信者というやつだろう。それよりも探索者……彼女の外見が気になった。


「おいあれ魔人だぜ」

「ああ、しかも竜人だ」


 竜人とは竜の特徴を持つ魔人のことだ。

 額には角があり、腰のあたりから尻尾が生えている。彼女はまさにその姿をした、まごうことなき竜人だった。


 額に2本の角を生やしたまだ少女と呼べるような若いその竜人は、周囲を見回しながらこちらへと歩いて来ていた。


「竜人の角は高く売れるんだよな」

「まさかやるつもり?」

「獲物がいるんだぜ? やるしかないだろ?」

「けど、あれ撮影してるぜ? やったらマズい」

「なーに、こういうときのためにこれを持って来たんだ」


 と、男は懐から妙な機械を取り出す。


「なにそれ?」

「これはカメラの通信を妨害する電波妨害装置だ。これを使えば配信は中断できる」

「なんでそんなもん持ってんだよ?」

「決まってんだろ。こういうときのためだよ。魔人の一部ってのは裏で高く取引されてんだ。狙わない手はねぇよ」

「ふふ、確かに」


 5人の探索者たちが不気味な笑顔を見せ始める。


「けど、掃除の連中に見られるぜ?」

「ダンジョンには魔物がいっぱいだ。不幸な事故も起きる。だろ?」

「なるほど。ふふふ……」


 ……なんだか不穏な空気になってきたな。


 探索者たちの思惑など知らず、竜人の少女をこちらへと歩いて来ていた。


「あ、すいませーん。ちょっと迷っちゃって、上に戻る階段ってどっちにあるかわかりますか?」

「ああ。もう上に戻る必要は無いぜ」

「えっ?」


 竜人の少女を囲んで探索者たちは武器を手に取る。


「な、なんですか?」

「へっへっへっ、お前を殺して角をもらうんだよ」

「こ、殺すって……」

「覚悟しな」


 舌なめずりをしながら男は少女へ近づく。


「は、配信してるんですよっ! 危害を加えて来たら捕まりますからっ!」

「配信出来てるか確かめてみろよ」

「えっ? あ、あれ? どうして……?」


 少女は手に持っているスマホを見下ろしながら焦りの表情をする。


「配信は中断させてもらったぜ。まあ、再開することはねーけどな」

「あ、ああ……くっ」


 少女は腰の剣を抜いて構えるが、足は震えていた。


 戦い慣れていない。


 剣を構える少女の様子からそれを察した。


「な、なんか大変なことになっちゃいましたね山王さん」

「ああ」


 そう返事をしつつ、俺は探索者たちのほうへ向かう。


「えっ? ちょ、さ、山王さん?」


 声をかけてくる同僚を背に、俺は探索者たちへ近づきつつ棒飴を咥えた。


「そういうことはやめたほうがいいですよ」

「ああ?」


 俺が声をかけると、先ほどA級を自称していた探索者が不機嫌そうな表情でこちらを振り返る。


「その子は魔物じゃないんです。殺したりしたらダメですよ」

「うるせえなおっさん。俺に説教する気か?」


 首元へ剣が向けられる。


「黙ってろよ掃除のおっさん。てめえから殺されてーか?」

「はあ……。イキがってんじゃねぇぞ小僧」

「あ? なんだコラ?」


 俺の言った言葉に探索者は眉根をひそませた。


「そんな年端もいかねぇ少女を殺すだ? てめえらそれでも人間か? 血も涙もねぇ外道じゃねぇかそんなの。魔物のほうがまだマシだ」

「言うじゃねーかおっさん」


 首元の刃が肌へと触れる。


「俺がちょっと力を入れりゃあてめえの首は落っこちるんだぜ? それがわかっててそんな舐めた口、利いてやがるのか?」

「じゃあやってみろよ。小僧のてめえに俺が殺せんならよぉ」

「ああっ? じゃあ望み通りやってやるよっ!」


 額に青筋を立てた探索者の剣がグッと首の肌を押した。瞬間、


「がはぁっ!?」


 俺の拳が鎧を突き破って探索者の腹へ沈み込まれた。


「あ、あが……あがが……っ」


 探索者は腹を抱えて蹲る。


「なっ!?」

「えっ!?」


 それを見た他の探索者たちが目を剥く。


「こんなおもちゃ使いやがって」


 蹲る男の手から電波妨害装置を取り上げて握り潰す。


「やる気か? 痛い目を見たくないならな失せろ」

「くっ……な、舐めんなこらぁっ! 掃除屋如きがぁっ!」


 4人の探索者が一斉に俺へ襲い掛かって来る。が、


 ドカ!

 バシ!

 ゲシ!

 ズガ!


「んが……がはぁ……」


 俺の拳を受けて、全員とも地へ伏した。


 やっちまったなぁ。


 引退して喧嘩はもうしないって決めてたんだけど。

 まあしかたないかと、俺は仲間の元へ戻る。


「あ、あのっ!」


 その俺に背後から声がかかった。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 現代と異世界が融合した世界で、元極道のおっさんと竜人の少女がダンジョンで動画配信をしたり魔物と戦ったり極道と争ったりするお話です。


 作品を気に入っていただけた方、続きが気になるという方はぜひフォローをよろしくお願いいたします。


 執筆の活力に☆、応援もいただけたら嬉しいです。感想もお待ちしております。投稿は1日1話を予定しています。


 ※6話までは毎日2話投稿します。

 

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