まもなく次の駅は人生
刀也の思い
まもなく次の駅は人生
いくつ目の駅だったか、もう忘れた。
数えるのをやめたのは、たぶんずっと前。
始発だったのか、途中から乗ったのかすら思い出せない。
ただ、ずっと走ってる。
景色は、もう…見えない。
---
「まもなく、次の駅は……」
アナウンスがそう告げるたび、
胸が少しだけ持ち上がる。
息を止めて、待つ。
今度こそ、と思って。
でも扉は、開かない。
---
この列車は、何を運んでるんだろう。
夢?希望?…それとも、諦めの予備軍か。
次の駅はいつも"大切な何か"のはずなのに、
到着しても誰も降りない。
いや、降りられないんだ。
まるで、見えない手に背中を押され続けているみたいに。
---
そもそも、「次」ってなんだろう。
今はいつ終わるの?
「次」に届けば、「今」は救われるの?
じゃあ、「今」はなんのためにある?
誰か答えをくれるって思ってた。
駅に着けば、
誰かが待っててくれるって。
でもそこには、いつも無人のホームと、
沈黙だけがある。
---
窓に映る自分の顔が、だんだん他人になっていく。
笑ってるフリをして、泣いてることにも気づかなくなって、
気がつけば、
“ちゃんと生きてるフリ”が板についてしまった。
---
かつては「この次こそ」と願っていた。
でも今では、
「この次もどうせ…」としか思えない。
もし本当に“何か”がある駅があるなら、
なぜこんなに扉は閉じたままなんだろう。
---
誰かが一度だけ降りたのを見た。
立ち上がって、迷いもなく。
でもその駅名、聞こえなかった。
彼女の目は、まるで
「私はここでいい」と言っていた。
私は立ち上がれなかった。
足が重いんじゃない。
選ぶ勇気が、ないんだ。
---
もしかしてこの列車、
どこにも向かってないんじゃないか。
動いてるフリをして、実は…
同じ場所をぐるぐる回ってるだけじゃないか。
希望という名の録音テープで、
私たちを眠らせているだけじゃないか。
---
「まもなく、次の駅は——」
また声が響く。
でも今では、それが
「まだじゃない」と言われているようにしか聞こえない。
---
このまま、
扉が開かぬまま、
誰にも呼ばれず、
誰にも届かず、
ただ走り続けるのだろうか。
それとも…
本当はこの車両こそが最終駅で、
私はそれに気づかぬまま、
何かを待ち続けているだけ?
---
誰か、教えてほしい。
この列車は本当に進んでるのか。
それとも、
「次」という言葉に麻酔をかけられたまま、
同じ景色を見せられているだけなのか。
---
そしてまた、機械のような声が言う。
「まもなく、次の駅は……」
私は目を閉じる。
そしてそっと、心の中でつぶやく。
「……どうせ、開かないんだろ。」
まもなく次の駅は人生 刀也の思い @Yeswan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます