ガチャスキルで攻略したいんです!

@kuantamuman

第1話 初めてのスキルは...ガチャだった。

「……まだか、まだなのか……」


手を必死に握り、少しニヤニヤとした表情で待つ男がいた。側から見れば不審者に過ぎないだろう。しかし他の人でもそうしただろう。周りを見れば自分と同じ者もおり、仲間同士で楽しそうに談話をする者もいる。


何故か?それは今日がまさに、スキルを発表される日なのだ。試験を合格し魔法の適性を得た者こそが一番楽しめる日なのだ。


「え〜……ミノキヤさん。」

「はっ、はい!」

(ようやく来た!何かな〜…ここは思いっきり炎!いや氷もいいな……闇も光だって!待て……ここはあえて土!?それも良いな……)


ミノキヤは昔からアニメが好きだった。魔法を使い、敵を倒し無双する。そう…まるで異世界のような。彼はそんな異世界の主人公になりたく、『冒険者』という職業の試験を死ぬ気で合格したのだ。


「それで...僕のスキルってなんですか!?」

「その…別室に案内するので、ついてきてください。」


ミノキヤは自分のスキルがどんな物かひたすら考えていたから気づいていなかったのだろう。ミノキヤを呼んだ彼女は不思議な表情をしていたのだ。好奇心や、懐疑心を含んだ表情を。


そうしてついた場所は会議室だった。流石のミノキヤも不思議に思った。こんな大きな場所でスキルを発表するものなのか?そう思った瞬間、押されるように部屋に入った。


「...来たようだな。君がミノキヤか?」

「はっ…はい!」

(嘘だろ!?テレビや雑誌で見た有名な冒険者いる!!サインとか貰いてぇ〜〜〜……)



「さて……呼んだ理由は一つ。君のスキルの話だ。」

(まさか...俺のスキルってあれか?強過ぎて会議にもなるぐらいのやつとか!?)

「単刀直入に言おう。君のスキルは『ガチャ』だ。」

「………………え?」


ここが俺の大冒険の始まりだった。辛くて、苦しいけど...最高の冒険の始まり。



そうして数日後、俺は先輩と共にダンジョンに潜る事になった。『ガチャ』という不確定なスキルを見極めるために一緒に潜るらしい。


(初めてダンジョンに潜るのに…いや、仲間は必要だよ?でも……せっかくなら1人で潜りたいよ…!)


ダンジョンは本当にダンジョンなのだ。みんなが思うような物と同じなのだ。興奮しない訳がない!モンスターだっているし、トラップだってある!そんな後悔をしていると、先輩は優しそうに話しかけてきた。


「ミノキヤ君。せっかくだし...ここでスキルを使おうよ。出口からも近いし、ここなら人も来ないよ。」

「分かりました!さて、何がでるんだ...?」


心の中でイメージを作る。火の魔法なら燃えたがるような火を。氷なら鋭い氷柱を。だが俺は…ガチャガチャをイメージする。ガチャを回し…蓋を開ける。


「来た!これは....コンパス?」

「...え?必死に思ったのに?結果がこれ!?」

(いやいや……嘘だろ?魔力を使って…これ!?出たのがコンパス!?冗談じゃない…)


魔力を使うと不思議と疲れたような感じがする。今は一回ガチャをしたから、15秒間だけマラソンをしたような疲れを感じた。しかし使い過ぎれば全力疾走をしたような疲れを感じる事もある。


「その〜……君のスキルは面白いね!危険性もなさそうだ。」

「はい……すみません。」

(どうして……炎とか欲しかった…。俺のスキルはこんなもんなのか…。)


そうして何度もガチャを使うが、出てきたのはゴミだらけ。ティッシュや小さな扇風機...。先輩は危険性は無いと思う報告をし、俺の初めてのダンジョン探索は終わったのだ……。




数日後、ようやく1人でダンジョン探索が出来るようになり今絶賛ダンジョンを堪能している。


「おお…凄い。本物のスライムだ!!しかも本当に雑魚!!!」


スライムに剣を振れば真っ二つに割れ、プルプルとした液体は水のように広がる。そして中央にはモンスターの核が出てくる。これがお金となり、俺たち『冒険者』の収入源になるのだ。まぁ…スライムだから500円ぐらいだけど。


「にしても……良いのでないなぁ。」


ちょくちょく俺はガチャを回し、ゴミを量産している。ちょうど今出たのは爪楊枝だ。何か食べてる訳でもないのに…。本当にゴミなのだ。ポイ捨てするのも申し訳ないのでポケットに爪楊枝をしまう。


「……はぁ。なんか...ガッカリだな。せっかく努力したのに、スキルがガチャなんて。」


俺は異世界のようなスキルを望んでた。カッコよく敵を倒し、魔法を使う。主人公になりたかった。そんな事を思いつつ、俺はダンジョンの奥深くに入っていく。すると、大きな地震がなった。



「なんだ...地震!?大きすぎだろ…!?」


咄嗟に体を丸め、しゃがむ。少し立ては地震は止まり支給されたスマホにメールが鳴る。


「救助要請!?………行くしかない。」


モンスターを無視しつつ走ると、大きな部屋についた。そこには危険度4のモンスター。キュプロクスがいた。一眼の視線は地に伏していた女性を見ていた。


「ひっ……や、やばっ…助けて…」

(.....震えるな、行くんだ。行くしかないだろ!!)


勇気を振り絞り、俺はキュプロクスの足を剣で突き刺す。だが...キュプロクスはどんな事もないようにニヤリと笑い、拳を振る。俺の横腹全体を殴り、骨が砕け吹き飛ばされる。確かに思った。


(こ...これ...死ぬ?いやだ...せっかく努力してここまで来たのに...)


ここで死ぬなんてごめんだ。何もできなくて…女性も救えないなんて。俺は...嫌だ。俺はひたすらにガチャを回す。意味があるとは思ってなかった。ただ...最後の抵抗として、体が勝手にスキルを使ったのだろう。



「これが...全ての始まりなのです。まだ死なないでください。」

(な……傷が治った?)


白髪の美しい女性は、俺の肩をそっと触るだけで傷は元に戻っていく。そして、白い蝶が俺のそばを舞っていく。心地良いような、安心感を感じた。


「あ、ありがとう...あっ!キュプロクス!?」


キュプロクスは調子に乗り、俺と白髪の女性ごと拳で潰そうと腕を高く上げる。だが女性は白く冷たい目で見つめ、黒い蝶が舞う。そして、黒の蝶はキュプロクスの肩に乗る。


「私達に手を出さないでください。貴方も...壊れてしまいます。」


キュプロクスは粉が舞うように静かに消えていった。そして、彼女は俺に目を向ける。その目は温かく、慈愛の気持ちもあった。


「私を...呼んでくださりありがとうございます。ミノキヤ様。」

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