第3話 スライム討伐作戦

取り敢えず病院には自分の足で行った。普通に内臓が出血してたわ。いや、普通のスライムで?強すぎん?


「取り敢えず...もう無茶な運転はしない事。次は本当に出血だけじゃ済まないかも知れないよ」


病院の先生には自転車でスピードを出して電柱に当たったと誤魔化しておいた。多分スライムに突進されましたなんて言ったら別の病院へ行くことになる。


「はい。ありがとうございました」


痛み止めで今は痛くないが、夜になるとまた傷んでくるみたいだ。そのため痛み止めを少し処方してもらった。


はぁ...また出費か...。早く稼げるようになりたいもんだ。



「もう絶対ダンジョンになんか行かねぇ!......絶対」


だが俺の心にはまだ少年心が残っているのか、少し気になってしまう。幼い時からドラ〇エを遊んできた俺からすると...ダンジョンなんて攻略しなければ、男の恥みたいなものだ。

だが、命は惜しい。


「ならば...勝てるように作戦を立てて、強くなれば良いだけだ」


筋トレ、ランニング。自身を鍛え、あのスライムを討伐する。それが今の俺の目標だ。

先程までダンジョンに行かないと宣った男のあまりにも早い気変わりに、鳥もうるさく囀っている。


「取り敢えず...ジムの入会と...格闘技...は辞めておこう」


モンスターにはモンスターの戦いがある。対人向きの格闘技はダンジョンには向いていないだろう。取り敢えず、スライムを想定して脳内シミュレーションだ。


腹減ったな...今日はコンビニで良いか。手料理の気分でもないしなぁ...。



「作戦は...」


スライムに向けての作戦。

スライムはあの突進が攻撃手段だと仮定しよう。ならば...突進中に曲がったり、方向転換するのは出来ないのではないだろうか。勿論、魔法とかがあるならばその限りでもないが、今は未知の力を考えるのはナンセンスと言える。命が掛かっているのだからそんな事言ってられないと言う意見も分かる。だが、俺はスライムを討伐する事に...命を注ぐくらいは今、闘志に燃えている。


あの突進を避ける瞬発力が必要だ。ならば...反復横跳び...それに壁に打ったボールを避けるトレーニングだ。対策に対策を重ねるぞ。初期スキルがあるとかなんとか言っていたが、次転移した時目の前にスライムが居る可能性がある。初期スキルに頼って居られないだろう。


「今日から暫く...スライム討伐に向けて鍛えてやるか」


そして来るスライム戦へ向け、フリーターの筋トレが始まったのだった。



「ふっ...ふっ...」


「おはようございます~」


「おはようございます」


ここ数日。ジムや、ランニングを続けているお陰か、人と会話する事が増えた。今挨拶したのは大学生の女の子。ダイエットの為にジムに通っているらしいが、どう見てもダイエットする程太っていない。もしかしたら彼女も何かスライムみたいな目標を討伐するために日々努力しているのかも知れない。


「凄いですね...反復横跳びなんて...高校の体力テスト以来やって無いですよ」


俺もそうだったが...今はこれが最適なトレーニングだ。素早く横に移動することが...スライム戦では重要になってくる。俺の脳内シミュレーションでは奴はスピードはあっても、機動力は無い。ならばこちらが機動力を付けるだけだ。


「そうですよね。俺も久しぶりですよ。勿論筋トレもしてますよ」


ここで反復横跳びだけしているならばそれは不審者だ。カモフラージュの為に一応筋トレをしてはいる。握力、そして背筋のトレーニング。鍛えて損することは無いからな。将来の為だと思って、頑張ろう。


「あ、友達から連絡が来ちゃいました、それじゃあお疲れ様です!」


そう言って少女...大学生がトレーニングルームから出て行った。この時間帯は彼女か俺位なもんだ。平日の昼にジムに居るなんて普通無いからな。


「ふっ...ふっ...」


熱心に反復横跳びをしている男が、ジムの外から密かに話題になっている事をまだ知らないのだった。



「最終チェックだ」


武器はホームセンターで買ったノコギリ。盾も一応用意した。重すぎると機動力が損なわれる為、直撃を少しでも和らげる低反発まくらを組み合わせた物。

そして、一応殺虫剤。もしかしたらこの毒がスライムに有効な可能性もある。希望的観測でしかないが。


「にしても...このちくわ...腐らねぇ...」


あれから一か月程経ったと言うのに...未だにちくわは袋を開けた時と変わらない状態だ。


「行くか...冒険に」


心の中で願う。ダンジョンへと繋がるゲートを...。



「っていきなりかよ...っ!」


転移した目の前に既にスライムが居た。多分...あれから時間が経ってなかったのだろう。まだスライムが目の前に居た。


「行くぞ...俺の努力を見せてやるよっ!!」


「ピギィイイイ」


そ、そんな力強い鳴き声でしたっけ...?


「どわっ!?お、俺の三千円ー!!!」


低反発枕を組み合わせた俺の盾はスライムの突進により見事に散って言った。...一撃でも止めてくれたのなら上々だ!


「せいっ!やぁっ!!」


ただ只管にノコギリで斬りつける。素人の剣筋...がむしゃらに振り回すだけの攻撃。


「クソっ...刃が通らねぇ」


ノコギリの刃はスライムのその粘性のある体液...?らしきものに止められ、全くダメージを与えた形跡がない。


「うおっ...!!!あ、危ねぇ」


スライムの突進は見てから避けるには相当な反射神経が必要だ。予測して動かないと...いずれ当たる。いくら反復横跳びをしていたからと言って、人間の範疇だ。奴の突進は言わば車が突っ込んでくるのと同じ。


「だが...俺の予想通り、突進中に方向転換は出来ねぇみたいだ」


猪突猛進。正にその言葉通り。


「ここからは俺の反撃だ」


今まで脳内でシミュレーションした時の事を思い出す。そして...至った結論。それは...奴のコアを取る事。


「ノコギリは要らないな。やっぱ効かねぇよな」


想定通りだ。スライムは斬撃、或いは物理ダメージに強かったりする。そして、スライムと言えば...核だ。その核さえ破壊、もしくは奪い取れば...死ぬ。それがスライム...俺のイメージでしかないが。


「だが、見えるぜ...お前の核、そこだろ?」


奴の巨体に少し光る謎の結晶。初めて見た時は気が付かなかったが...今ならば、見える。あれがスライムの核で間違いなさそうだ。


「さぁ...俺とお前の全力...やり合おうぜ」


自身、或いは過信。そう呼ばれる類のものが、俺の中で渦巻いている。行ける...俺の想定と全く同じだ。

後は...シミュレーション通り動けばいい。


愉しくなってきたな...っ!!

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