さらばNTR世界線 ~七つの願いが叶う神アプリで真っ当なラブコメを~

桜井正宗

第1話 幼馴染を寝取られた

 あれは幼稚園の時だった。

 布袋ほてい 南海みなみは、将来は俺――西垣にしがき 了介りょうすけと結婚してくれると約束してくれていた。


 小学校の頃も、中学に上がってもその想いは変わらずいた。

 そして、高校生になった今もその気持ちは変わらなかった――ハズだった。



『……了介くん……ごめんね』

『おいおい、南海。彼氏でもない男の名前を今言うなよ』



 南海の部屋に訪れてみれば、学校の先輩と二人きりで“ナニカ”している様子だった。……いや、これはナニカではない。


 明らかに着衣が乱れていた。


 そして妙な音も廊下まで響いていた。

 家族が不在だと思っているらしい。

 だが、俺は幼馴染として、いつもの習慣で南海の家に上がり込んでいた。

 彼女の家族も公認で、俺は出入りを許されていた。そもそも、結婚を前提に付き合っているようなものだったから……問題はなかった。


 だが。


 だけど。



 …………ああ、そんな。こんなことって…………!



 あまりにも残酷な光景がそこにはあった。


 南海とイケメン先輩が絡み合っていたんだ。なんで、どうして…………!



 俺と結婚したいって何度も、何十回も、何百回も――耳にタコができるくらい言ってくれていたのに。


 二人はキスを交わしていた。


 ……カンベンしてくれ。

 俺はまだファーストキスすらしていないんだぞ。……なのに、なのにッ!



 手を繋いだことくらいしかなかったのに、なんであんな野郎が数日足らずで……!

 あんなに股を開いて……!


 俺の南海がけがされていく光景に耐えられない。



 ちくしょう、ちくしょおおおおおおおおお…………!!



 ・

 ・

 ・



 その日から俺は“不登校”になった。

 南海が心配になって連絡をしてきても、自宅を訪れてきても無視した。……もうなにも信じられない。信じたくない。


 俺に生きる気力はない。もう疲れた……。



 無気力に生きる日々。

 まるでゾンビみたいに俺は毎日を過ごしていた。



 ――どれほど日数が過ぎ去ったか分からない。そんなある日。



 ふとスマホを覗く。

 なにか面白いゲームアプリがないかとスクロールしていると『七つの願いが叶う神アプリ』などという、ふざけた名前のアプリが目に入った。


 なんだこれ。


 誰だよ、こんな詐欺っぽいアプリを作ったバカ。

 バカだけど、なんか気になった。


 ダウンロード数もゼロだったし。


 なら、俺が第一号になってやろうじゃないか。どうせヒマだし。



 ……なになに?



 七つの願いが叶います?


 へえ、実にアホっぽいな。



【七つの願いが叶う神アプリ】【各1回のみ使用可能】

 ①過去・現在・未来ひとつだけ変えます

 ②電子マネーの残高を1億円にします(使用者の寿命が半分になる)

 ③対象の好感度を+100%にします

 ④対象の好感度を-100%にします

 ⑤人間をひとりだけ消し去ります(使用者の寿命が半分になる)

 ⑥一度だけ死んでも蘇ります(自動発動)

 ⑦シークレット(六つ叶えると解放)



 おいおい、冗談だろう?

 ……てか、なんでも叶うってわけじゃないんだな。この七つの選択式なんだ。どうせなら、自由に叶えさせてもらいたいものだけど、十分すぎるな。


 特に①は今の俺に魅力的に映った。


 過去を変えられるのなら……南海とやり直せるかもしれない。そう思ったからだ。



 どうせ、ジョークアプリだろうと俺は微塵も信じちゃいなかった。



 試しに①をポチッとタップ



 ――その瞬間。




 ぐわぁんと視界が歪んで、俺は視界がブラックアウト。真っ暗闇に包まれ、身動きができなくなった。まるで死んだみたいに……。


 え、ウソだろ……? あのアプリは本物だったのか!?



 ◆



「うあああああああああああああ!?


「!? ど、どうしたの了介くん!?」



 そばには、学生服の姿の南海。え……あれ、なんで公園にいるんだ?


 え、ええ……?



「いや、俺たち……どうして」

「どうしてって、了介くんがデートしたいっていうから」


「俺が!?」


「うん。すっごく嬉しかったんだ。誘ってくれて」



 まてまて。俺は南海をデートに誘ったことなんて一度もないぞ。……てか、こうして二人でいるのも久しぶりだ。


 いや、おかしい。


 南海はイケメン先輩に寝取られたはず。

 この光景は明らかに不自然だ。


 俺は悪い夢でも見ていたのか?



 頬をつねってみるが……痛い。



 これは“現実”だ!



 俺は『過去』に戻ったのか……。

 スマホで日付を確認すると【2025年9月7日】とあった。



 ……ウソだろ!!



 寝取られた日が【2025年9月21日】だから……マジで過去だ!



 そ、そうか……!


 七つの願いが叶う神アプリは本物だったんだ!!



 俺はやり直せるかもしれない!!

 いや、今度こそ寝取られない!!


 真のハッピーエンドを目指す。そうだ、これは神様がくれた最後のチャンス。だから、俺は……今度こそ南海を寝取られないようにしなければならない。



 やってやるさ……!



 気合いを入れていると、公園の奥から見覚えのある男が向かってきていた。……あれは、まさか!

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