045-凱旋と食事

数時間後。

僕は何とか、レイシェさん達のもとに戻っていた。

なぜか変化した部分が元に戻ってしまって、ドラムさんはそれを秘密にしてくれた。


「どうやら、無事に帰れたようでよかったわ....だけど、ちょっと気になるわね」

「はい....」


何が起きたのか、僕にもわからない。

背中にあったエンジンみたいなごつい排気口も、翼も無くなっていた。

凄い力を発揮できたはずなのに、元の細い腕になっていた。


「まあいいわ、お手柄ね......時間はあるかしら?」

「は....はい!」


一瞬カスミが脳裏に浮かんだ。

だけど、彼女も混乱していて、怖いはず。

僕はクジェレンを起動して、彼女に向けて「大丈夫?」と「帰る」のスタンプを送信しておいた。


「じゃあ、何か食べに行きましょう」

「はい!」


僕たちはペイラックに乗り、春川駅に向かう。

駅から少し離れた路地に入り込み、そこで秘密の入り口から地下へと入った。


「ここに何があるんですか?」

「そうねぇ...ニンゲンで言う、ファミリーレストランみたいなものかしら」

「誰の奢りなんだ?」

「まさか俺らじゃないよな...」


ジガスさんは戦闘で活躍したし、ロームさんは先頭車両とビルの損壊を防いだから、奢りってことはないと思うけど...

そう思っていると、レイシェさんが言った。


「心配しないで、今回の報酬から天引きよ。直接受け取るとニンゲン側が煩いもの」

「そうですか...」


いわゆる、反対派の人たちの事だろうか?

人間だった頃、議会や駅の前でアディブ人の危険性を訴えかけていた。

でも、別にアディブ人って有害な事はほとんどしてないような...

勿論同族同士での争いで街が壊れたりはしてるけど。


「この扉の先ね、一応通るには上位IDが必要だけど...今日は私が許可するわ」


上位IDが必要ってことは、ただのファミレスじゃないって事かな?

僕らはセキュリティ扉を通過して、多くのアディブ人が食事をしている場に出た。

漂ってきた匂いを嗅ぐと、不思議とお腹が減ってくるような気分を覚えた。

レイシェさんは店員と話し、僕らは店中央部寄りの席に案内された。


「何か食べたいものはあるかしら?」

「お肉でお願いします」

「俺も!」

「俺も俺も」


アディブ人はマルセア肉をよく好む。

どういう動物の肉かは知らないけど、地球上でも生きられるって事は、アディブ人みたいな強力な再生能力とか適応能力があるんだろうか。

レイシェさんは料理を注文し、三分程度で料理が出てきた。

宙に浮くドローンみたいなもので運ばれてきたのは、鉄板の上で焼ける音を立てるステーキだった。

今まで食べたマルセア肉は、ハムくらいの薄さだったけれど、こんな肉厚なものも食べられるんだ...


「うまいな」

「本国産じゃねーか? 地球じゃこんなに脂肪つけさせられねえからな」


本国産もあるんだ。

むしろ、ここだからそっちを出しているのかもしれない。

本来支払われるはずだった大量のアーク報酬のうちの4割ほどを食事に費やした僕らは、お弁当を買って帰路についた。


「ペイラックって便利ですね、遠隔で操作できますし」

「そういうものよ」


ペイラックは自力で飛翔できるから、僕らが呼べば紐づけられているペイラックが近づいてくる。

だから、どこに行ってもどこからでもペイラックで飛んでいけるらしい。

地球人側には提供されてないのは、これに掴まって飛べるのがアディブ人だからなんだろうな...


「お、あれ何だ?」

「お祭りじゃないですか?」


ペイラックで僕らは帰る。

その道中、通った都市でお祭りをやっているのが見えた。

もうすぐ夏なのかな、この身体と寒暖差がわかりにくい。


「もうすぐ着くぞ〜」

「あっ、はい!」


僕はすぐに前に視線を向けて、その時にはすでにお祭りのことは頭から抜けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る