043-殺し合いの果てに

「分が悪いか」

「逃がさんぜ」


そんな声が聞こえた次の瞬間には、大きな音と共に二人の姿がその場から消え去り、沿線にあった民家がジオラマが壊れるみたいに破壊されたのが見えた。


「......ジガスさん、あれは....?」

「分からんな....だが、ドラムは分かるぜ、イナクシスの上位執行官だ」

「上位.....?」

「正当な理由があれば、アディブ人を殺しても罪に問われない――――そういうヤツだから、俺らなんかよりよっぽど強いのさ」

「ありがとうございます....」


怖かった。

本当に死んでしまうかと思った。

もう治りかけているけれど、顎の骨が砕けている。

痛みは殆どなかった。

だけど.....人間だった時の感覚なら、死の予感を感じていたかもしれなかった。


「ん? 何がだ?」

「ジガスさんが割り込んでくれなかったら、死んでいました」

「ハッハッハ、そう簡単にアディブ人は死なないぜ? まあ、気絶させてから攫うつもりだったんだろ」

「.......」


アディブ人は死なないわけじゃない。

じゃないと、ドラムさんが上位執行官である理由が分からない。

僕は意を決して、聞いてみる事にした。


「アディブ人は、どうしたら死ぬんですか?」

「ああ、それは――――」


ジガスさんが口を開こうとしたとき、客車の先頭車が急に陥没した。

え....?


「まさか、死ん......」

「大丈夫なはずだ、全員後ろの方に下がってる」


ならよかった。

二人の戦闘に巻き込まれたら、いくら列車の中に居ても死人が出そうだ。

僕の動体視力が低いのかは分からないけれど、本当にどこにいるのか、何をしているのかが見えない。

まるで時間が止まった中で動いているように、唐突に周囲のものが壊れたり、地面がえぐれたりする。


「あん? あ、そうだけど....あ~了解っす」


その時、ジガスさんがクジェレンで会話を始めた。

二言三言会話をして、ジガスさんがこっちを見る。


「来るぜ、救援がよ」

「やりましたね....」


ジガスさんが言うには、事件を受けて急行しようとしたところ、イナクシス本部に襲撃があり、救援が遅れたということだった。


「計画犯だな」


戻ってきたロームさんがそう言う。

ロームさんは先頭車両がビルに突っ込む前に横転させて停めたらしい。

多分廃車確定だと思う....


「そんな感じはしてたな、だいいちこのインフラの制御は俺たち側の管轄だろ?」

「ああ。ニンゲン程度に乗っ取れるものじゃないぜ」


ずいぶん雑に思えたけど、何が何でも新幹線を事故らせて、それを使って何かしようとしていたのかもしれない。


「お、見えてきたな」

「え?」


もう着いたの?

そう思って振り返ると、空に巨大な何かが浮かんでいた。

飛行機のようにも見えるけど、翼がない。

そこから、大量のペイラックとそれに乗ったアディブ人がこちらに向かってくるのが見えた。

もう大丈夫...なのかな?


『こちら第八十二管区警備母艦! 直ちに投降せよ、さもなければ殺害する!』


流石に今回は事が事だっただけに、警告も乱暴だった。

ボクは複数人のアディブ人に囲まれ、飛行型らしい数人がドラムの援護に入った。

これなら...


「面倒になったが」

「え?」


流石のあのアディブ人も。

そう思った僕の体が、宙に攫われていた。


「事が済めばそれでいい」

「...ック!」


すごい速度で飛んでいる。

慌てて自分の体をがっちりと固定する腕を引っ張るけど、びくともしない。


「案ずるな、母なるアディブの盟約を果たすだけだ」

「何を...っ!」


皆がどんどん遠くなっていく。

僕は速度を上げつつある腕の中で、意識が薄れるのを感じた。

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