024-ペイラック練習

「これが...訓練施設なんですか?」

「そうなるわね」


僕の目の前にあったのは、見慣れた飛行機械...ペイラックを模した訓練機だった。

周囲には黒い空間が広がっている。


「起動すると周囲に風景の表示が出るから、暫くこれで練習するといいわ」

「ありがとうございます」


僕は帰るなり早速飛行機械の練習をしようと思ったんだけど...

起動した瞬間に高高度にすっ飛んで、そのまま30mくらいのスカイダイビング...いや、垂直落下を経験した。

ジガスさんとロームさんは大笑いして、僕に訓練を勧めた。

その結果、レイシェさんは笑いを堪えながら僕にここを案内してくれたのだ。


「まずは、足を固定してっと...」


僕が中に足を入れるとロックが掛かり、周囲が明るくなる。

そして次の瞬間。

僕は、森の中に立っていた。

...違う、風が無い...つまりは、これが仮想環境なんだ...


「起動!」


直後、僕は空に飛ばされていた。

地上が遥か遠くに見える。


「うわっ...大丈夫!」


肌に当たる風もリアルだけど、これは訓練。

なら、乗りこなせる...と思う。


「バランスを取ることが重要なのかな...」


この飛行機械は、地球の方式で揚力を得てるわけじゃないと思う。

だから、この機械は飛びたいと思う限りはずっと僕に追随してくれる。


「...この感覚、もしかして」


人間の乗り物で、似たものがあったはず。

そう、確か.........


「セグウェイだ」


乗った経験はない。

でも、乗り心地は多分そっくりだと思う。

僕は数時間練習を繰り返して、安定に力を入れる努力をする。

速度を出すとすぐ暴走しちゃうけど、都市部でない限り僕に怪我はないから、実践の時にやってみよう。


「よう坊主、ペイラックには乗れるようになったか?」


お昼の時間になって、総督府に戻ってきた僕にジガスさんが話しかけてきた。


「まだちょっと、尻尾をどうするか悩んでて...」

「尻尾は専用の収納場所があるぞ、訓練機にはなかったかもしれないけどな」

「ありがとうございます」


レイシェさんが作ってくれたバーガーを口にしながら、僕は脳内で反省会を行う。

ペイラックに乗れないのは、ひとえに僕のハードではなく、ソフトの問題なのだ。

体の動かし方はすぐに学んだ。

可動域が広いから、どんな動きだってできる。

でも、僕の記憶が....人間は脆いという記憶のせいで、どうしても無茶ができない。

人間に戻るために捨ててはいけないんだけど、捨てなくちゃいけない時もあるんだよね....


「ん?」


その時、僕は外出しようとしているらしいロームさんの姿を捉えた。

ペイラックに乗って、しばらく助走をつけた後に上昇していった。


「ああすれば....多分できるかも」


加速する時、平行移動すれば怖くないかもしれない。

次のアイデアを見つけ、僕は立ち上がる。


「やってみよう」


これでダメなら、また明日頑張ればいい。

そんな思いで。

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