010-老人との会話

「わしの名前はオーガンじゃ」

「ボクは、クルスです」


適当な自己紹介の後、オーガンさんは僕に質問をしてきた。


「ときに.....配達業務で来たということは、レイシェの所からかね?」

「あ、はい.........」


僕は頷いて、緑に濁ったお茶を飲んでみた。


「.............」

「おや、口に合わなかったかね?」

「いえ.....思ったより、しょっぱくて.....」


お茶は苦いイメージがあった。


「フム....変じゃなぁ....少し塩を足してみるかのう」

「えっ?」


塩辛いって言ってるのに、どうして塩を足すんだろう?

だけど、突っ込むことも出来ずに僕のコップに塩が入った。

顔をしかめないように、僕はその中身を飲んで.....


「どうじゃ? 好みは分からんが、甘くはなったじゃろ?」

「........はい」


なんで?

塩を入れたのに、なんで甘くなる?

僕は混乱する。


「(もしかして.......)」


今までもそうだ。

僕はこの体になってから、レイシェさんの用意したものしか食べてない。

だから.....気付かなかったのかもしれない。


「(アディブ人の味覚は、地球人と違うんだ.....)」


もしあの時、コンビニでチキンを注文できていたら、もっと早く気付けていたのかもしれない。

じゃあ、アディブ人は皆、緑茶を塩味だと思ってるのかな?


「...すまんな、勘違いをさせたなら悪かったのう...長く生きとるとな、違った刺激を求めるのじゃ....すまんな、若者には少々奇異な味だったようじゃ」

「だ、大丈夫です......」

「若者が好きな菓子も少しは持っとる、口直しにどうじゃ」

「頂きます....」


流石にそういう訳ではなくて、この人が特殊だったみたいだ。

オーガンさんは再び空中のモニターを操作し、机の真ん中に更に乗った謎の固形物が現れる。

なんだか、擬製豆腐を固めたようなものだ。

口に入れてみると、その途端に溶けて奥に消えていった。

味は........甘い....のかな?

薄味なので分かりづらい。


「....美味しいです」

「そうかそうか......良かった」


オーガンさんは自分の分の...なんだろう、スルメみたいなものを取り出すと、それを肴にお茶を飲み始めた。


「話が逸れたのう」

「すみません....」

「構わんよ、儂も驚くとは思わなんだ」


オーガンさんは、話がずれたことに気付き、話の続きを始める。


「レイシェの所から来たんじゃな?」

「はい」

「......見覚えがないところを見ると、新人かね? それとも――――不法入国者かね?」


最後の言葉に、僕は震える。

まるで、これから僕を殺すかのような威圧感のある口調だったからだ。


「違いますよ、ボクは.....その」

「試しただけじゃよ、不法滞在者などがレイシェのもとで働けるはずがない」


やつらは食糧を求めて町で騒ぎを起こすのが得意じゃからな、とオーガンさんは吐き捨てる。

不法入国者というのは、何度か聞いたけれど......地球に降りるのにも許可がいるんだろうか?


「レイシェはのう――――」


オーガンさんが話し始めた所で、聞きなれない音が鳴り響く。


「この音は?」

「時報じゃな、もう夜のようじゃ......後二時間で外出禁止時間じゃから、もう帰った方がいい」


オーガンさんは寂しそうに言った。

僕も、コップの中身を飲み干して、席を立った。


「....色々、ありがとうございました」

「こっちもじゃな、また来とくれよ」


こうして、僕はオーガンさんの家から出た。


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