008-お仕事

「アナタは非力だし、警備任務には向かないわ」

「そうですよね....」

「でも、ここは総督府....つまりこの地方のアディブ人を管理する場所だわ、そこでアナタには、荷物運びをやってもらうわよ」

「荷物運び.....」

「アナタなら、ニンゲンの地理に明るいでしょう?」

「はい」


少なくとも、アディブ人よりは明るいと思う。

元現地人だし。


「そんなに大した用事じゃないわ、アナタ、ニホン語は読める?」

「はい、書けませんが」

「じゃあ簡単ね、期日は特に決まってないから、倉庫のものを配達して頂戴。移動に使ったお金はアタシに請求してくれればいいわ」

「はい!」


僕は頷いて、部屋を後にした。

廊下に出ると、待っていたらしいジガスさんが話しかけてきた。


「よお、坊主」

「こんにちは」

「おう」


ジガスさんは、ロームさんと一緒にいないときは無口だ。


「あの......第四倉庫って、どこですか?」

「エレベーターホールは分かるな? あそこから六階まで行って、左から二番目のドアの先だ」

「ありがとうございます」

「構わねぇよ」


ジガスさんは歯をカチカチと鳴らした。

この動作は、手をひらひらさせたり、肩を竦める時と同じみたいだ。


「第四って事は、俺たちが忙しくて処理できない配達案件か」

「はい.....あれって、何なんですか?」

「アディブ人同士の配達物さ、道中で盗まれたら面倒だろ?」

「あ....成程」


人間がアディブ人の技術を利用し出したら、最終的にアディブ軍が動くことになってしまう。

それは、レイシェさんの監督不行き届きになってしまうので避けたいところのようだ。


「それにしてもお前、良い名前を貰ったな」

「そうですか?」

「クルスって言ったらな、アディブ人の神話の英雄、アークルスエイジから取った名前なんだぞ!」

「そうなんですか.....」

「仮名にはもったいないが、総督にしちゃあいい名前のセンスだよ」


普段はそんなに悪いのか。

僕は少しだけ呆れたけれど、同時に英雄から名前を取って来てくれたレイシェさんに、感謝したのだった。







第四倉庫に着くと、そこは大量の箱が雑多に置かれた場所だった。

適当な箱を手に取って、表面のボタンに触れる。


『ジージェ 内容物:飲料』


人物の顔と名前が空中に表示されて、内容物の情報も出た。

人間用の健康ドリンクで、数本分ある。


「これを届ければいいのかな....」


電車を使って届ければいいらしいので、僕は黙って箱を抱える。

今度は失敗しないためにも、駅員さんからもらったメモを持ち、僕は外へと出たのだった。

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