002-変異

人生とは、いつ何が起こるか分かったものではない。

それを僕は、この身で実感した。


「はぁ~あ.....」


僕は、一人オフィス街を帰っていた。

駅前の飲食店でアルバイトをしている僕は、遅くまで勤務した後、通学定期が有効な駅まで歩いて帰るのだ。

たった数百円の浪費も、天涯孤独の僕にはもったいないからだ。


「明日は帰って寝るだけかぁ」


親戚のおかげで、僕は何とか援助を受けつつ大学に通っている。

だけど、大学に行って家に、家からバイト先に、バイト先から家にと単調な生活になりかけている。


「こんな人生、意味なんて........」


僕はそう思いつつ、路地に入る。

こっちが駅に一番近い道なのだ。


「ん?」


だけど、僕はそれ以上先に進めなかった。

路地の奥に、蠢く何かが居たからだ。


「......!」


逃げようとしたが、足がすくんで動けない。

ソレは、何かを食べているようだった。

ツンとした臭いが鼻を突く。


「..........అవునా?」

「っ!」


その時。

ソレが、こっちを向いた。

暗闇で輝く四つの目が、こちらを向いた次の瞬間、ソレは僕に襲い掛かってきた。


「うわぁああああああああああああっ!!」


そして、僕はあっけなく意識を失ったのだった。







それからの事は、自分でも訳が分からなかった。

目が覚めて、近くのコンビニに行ってチキンを買おうとしたら通報されて、その時初めて、僕の身体が人間のモノではない身体に変化してしまっていることに気付いた。

目も四つあるし、肌も空色の鱗に覆われてしまっていた。

店員さんと話をしようとしたが、なぜか話が通じなかったし........本当に訳が分からない。


「不法移民か?」

「ふ...ほう?」


そして今、僕は二体のバケモノ......アディブ人に質問攻めに遭っていた。

アディブ人というのは、僕が生まれるずっと前から地球に住んでいる、遥か遠い星からやってきた友好的な種族だ。

何故か、今は僕も同じアディブ人なんだけど.....


「惚けてもムダだぞ、今は外出禁止時間だからなっ!」


そして、もう一つ不思議なことがあった。

僕はアディブ語なんか勉強したこともないのに、相手のアディブ人が喋ってることがすらすらと頭に入ってくるのだ。


「ほ、ほんとに....わからないんです」

「ウーム......どうする、ジガス」

「オレは四番警備隊長だぞ、ローム」


僕がそう伝えると、急に相手の雰囲気が和らいだ。

何が起きたんだろう?


「そもそもこいつ、ガキだろ?」

「確かにな、図体はデカいが、まだガキだ」

「親がいるはずだ、どこにいる? 吐け」

「お、おや....?」


僕は二体に詰め寄られ、壁際に追い詰められた。


「親なら、死にました....」

「嘘をついているようには見えないな、ローム、どうする?」

「ウーム....」


どうしたんだろう?

アディブ人は、嘘がつけないとか?


「オレ達では身に余る! 総督の所に連れて行こう!」

「ああ! 付いてこい!」

「は、はい」


僕は慣れない体で、建物の中を移動する。

無理やり連れてこられたので分からなかったけれど、宇宙船の中のような光景が部屋の外にはあった。


「あ、あの」

「何だ!」


僕はさっきから気になっていることを正直に話す。


「尻尾が重いんですが、どうすればいいですか?」

「おい、どうする?」

「ケツに力を入れて浮かせろ!」


言われたとおりにやってみると、お尻の方から振動が伝わってきた。

後ろを見ると、ぴょこんと尻尾が立っていた。

ちょっと辛いけど、これで引きずって歩くことはないから大丈夫だと思う。

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