第4話
雲より濃い土煙の中で選手達がたじろったり、闇雲に相手と戦ったりしていた。その中でウラミー達に身体中をズタボロにされて拘束されてしまったラクザンガは鎖を引きちぎろうと抗っていた。
「ハァ...ハァ...ぎ、ぎぎぃ!こんな...こんな所で終わって堪るかよッ...!アタシはまだ、死ぬわけには...!」
「何度も言うが、獣人風情なお前が人間の貴族令嬢を好きになること事自体、間違ってたんだよ。全てはクソみたいな性格なお前が悪かったんだ。諦めろ」
鎖を引きちぎろうと必死に暴れるラクザンガを見ながらウラミーは見下す。そして、他の二人がラクザンガを見下したまま武器を構えた。
「これからオレらはお前の息の根を止める。どれだけ暴れても構わないがお前はもう終わりだ。」
ウラミーはそう言いながらラクザンガの頭を踏みつけ、見下す。そして、他の二人もラクザンガの息の根を止めようと武器を振りかざそうとするが、その時だった。
「おい、貴様等。そこで何をしている?女子相手に寄って集ってイジメとは感心しないなぁ。」
突然現れたマスクを着け、フリンジ付きポンチョを着たエルフの女に呼び止められ、ウラミー達はエルフに振り返った。
「あ?誰だよお前?オレらは今、取り込み中なんだよ」
ウラミー達はそうエルフに言うが、エルフは無視してラクザンガに近づこうとした。
「お……おいッ!何勝手に近づいてんだッ!それ以上近付いたらてめぇも一緒に...!」
ウラミーは叫んで言おうとしたが突然、三人の姿が小さな竜巻に包まれた。
「ぐ、うぅ……!な、なんだ!?何しやがったあの女ッ!?」
突然現れた竜巻にウラミー達は動揺するが、そんな時だ。その竜巻の外からあのエルフの声が聞こえた。
「この程度で狼狽えるとは...所詮は童だなぁ。」
竜巻が徐々に弱まっていく中、何とか竜巻から出たウラミー達は驚愕した。
「な、何ぃ!?お、おいやべぇぞ!あのリス女とエルフ女がいねぇッ!」
「お、落ち着けお主らッ!エルフはともかくあのリスは儂らの攻撃を受けて重症じゃッ!仮に反撃しようとしても出来ない筈じゃッ!」
「クソッ!とにかく探せッ!いくら逃げてもこの闘技場の広さならそう遠くに行けない筈だッ!早く始末しねぇと煙幕が晴れてしまうッ!それに折角の金儲けがパッーだッ!」
ウラミー達は慌ててラクザンガ達が逃げたと思う土煙が立ち込む方にバラバラに散った。それを土煙に潜んで聞き耳を立ててたエルフは土煙と同じ色に魔法で同化していた二人に手で払うようにして魔法を解くと土煙の色が消えていった。そして、中からしゃがんでたラクザンガと女剣士がスゥーッと現れた。
「す、すまない……助けてもらって……ケガまで治してもらって...」
「ムフフッ、いいってことじゃ。ワタシは只、そこの嬢ちゃんの依頼でお前さんを助けただけじゃ。」
ラクザンガはエルフ女にお礼を言ったが、女剣士はラクザンガをジッと見つめてた。そんな女剣士の視線に気付いたラクザンガは少し顔を引きつった。そして、エルフは服をパッパと叩きながら何処かへ行こうとした。
「ま、待て!アンタ何処行く気だ!まさかアイツらを追いかけるつもりじゃ...」
「ん?まぁのぉ...折角の祭りじゃ、暇潰しにあの童共とチョイと遊んでくるわ。それにワタシが居ると“決闘”の邪魔になるからなぁ。なぁに心配する事は無い。ワタシ、結構強いからな。」
ラクザンガの質問にエルフはまるで年寄りが孫に話すようなほのぼのとした台詞で返した。そうしてエルフはウラミー達を追って土煙の中に消えて行った。ラクザンガはそのエルフの後ろ姿を只々見送る事しか出来なかった。
(あのエルフ、魔法使いだったのか...。エルフは他の種族と違って魔力が桁違いに強いからそうなのだけれど...。にしてもあの瞬時に竜巻や周りの色を変えたり、アタシの傷を一瞬で治しやがッた...只の魔法使いって感じじゃ無さそうだ。それにさっき、“決闘”とか言っていたが、あれはどういう事だ?)
ラクザンガはエルフの事を考えていると女剣士がいきなりにズイッとラクザンガの顔に近付いた。そんな女剣士に驚いたラクザンガは頭を上げて少し後ずさった。
「ウワッ!?……な、何だよ?何か言いたいのか?それともアタシの顔に何か付いてるか?」
「……」
「え……と……?」
(な、何だよ...何とか言えば良いのに、まさかこれが俗に言うコミュ障って奴なのか?だとしたらこれはコイツにとってはハードル高過ぎじゃねぇのか……?)
ラクザンガは女剣士が何にも言わないから少し額に汗を滲ませていた。すると女剣士がようやく口を開き、
「...ようやく...ようやく、あなたに会えた...この日をどれだけ待ち望んだか...」
と女剣士はボソボソと言っていた。
「へ……?ようやく?一体どういう事だ?アンタ誰だ...」
「....あ、いえッ!こちらの話です...!そ、それよりもラックさん!ケガはもう大丈夫ですか?」
「あ?ケガ?あぁ……大丈夫だけど……アンタホントに何者だ?」
ラクザンガは女剣士のはぐらかす言動に少々呆れつつ、質問したが何故か女剣士は答えられなかった。
「すみません、今はまだ言えないんです....。そ、それよりもラックさん!ケガが治りましたのなら、私との...け、け、決闘を申し込ませて下さいッ!」
なんと女剣士は完治したラクザンガに対して突然、決闘を頼み込んだ。勿論ラクザンガは驚きキョトンとしていた。
「……へ……?い、今なんて...?」
「で、ですから!私との決闘をお願いします!」
「い、いや!だからなんでアタシと決闘したいんだ!?そもそもアンタは一体誰なんだ?それにその剣……ただの剣じゃないだろ。」
ラクザンガは女剣士が持っている剣を指差した。その剣は柄に赤い宝石が埋め込まれており、刃の部分が黒かった。そう、まるで“魔剣”の様な見た目をしていたのだ。そんなラクザンガの質問に女剣士は少し間を開けて答えた。
「……私はこの“剣”と“剣術”であなたと戦いたいのです。私が誰なのか、そして目的は何なのか、それは全て終わってから話します。」
女剣士はそう言うと立ち上がってラクザンガに剣先を向けた。そんな女剣士に少し違和感を感じたラクザンガは同じく立ち上がって臨戦態勢に入った。
「...ハァ、何が何だか分かんねぇが、戦いを挑まれたのなら、例え恩人だろうとも望み通り受けてやるよ。...来な、相手してやる。」
女剣士とラクザンガはお互いにいつでも行けるような雰囲気を出し、火ぶたを斬らんばかりに研ぎ澄ませた。そしてお互いの間に緊張感が走る。
(とりあえず、まずはコイツを制圧して色々と話を聞かねぇとな......そう言えばコイツ、さっきアタシの事“ラック”って言ってたな...?何故そのあだ名を知ってるんだ?)
ラクザンガは考えつつも、相手の出方を見つつ戦おうと考えた。それを知ってか知らずか女剣士はラクザンガに向かって駆け出した。そして両手に持つ剣を横に構えて振り斬ろうとしていた。その行動を見たラクザンガも後づさって距離を取ろうとしたが、思った以上にその動きが鈍く、女剣士に距離を詰められてしまった。
(ッ!チィ…コイツ速ぇ!こうなりゃやるしかねぇ……!)
ラクザンガは鉄板の入った片足を振り上げて、女剣士の剣を受け止めた。
キンッ!! 剣と足が重なり合う音が辺りに鳴り響くと二人は鍔迫り合いになった。最初は均衡してた二人だったが、徐々にラクザンガが押され始めていた。
「クッ……!コイツ、やりやがるッ.....!」
(あの細い腕でよくこんな動きが出せるもんだ......いや、と言うよりかはコイツがまるでアタシの動きを知っているかのように立ち回ってやがる....!)
ラクザンガと女剣士は互いに攻防戦を強いられ、戦っていた。それをモノクル越しで土煙の中を様子見していたエルフが居た。
「おぉ~お!やっとるやっとる。やはり若いってのはいいのぉ。.....さぁて、向こうも始めた事だし...ワタシも楽しむかぁ。」
エルフはそう言って人差し指で円を描き、そこからキラキラと魔方陣のようなものが現れた。土煙の中を慎重に進みながらウラミーの仲間の一人であるウミーはラクザンガ達を探していた。
「奴めぇ.....リス女を連れて逃げやがって...!見つけ次第、儂の刀の錆びにしてくれるわい!」
「ワタシはそんな棒きれじゃ斬れんぞ?」
ラクザンガを探し回ってるウミーの真上から長髪の髪と金色の瞳を持つエルフが突風を浴びせ、おちょくるように空から落ちてきた。突然の出来事に驚いたウミーは“おぉ!?”と声を上げながら咄嗟に間一髪でバックステップをとるが体勢を崩してしまい、膝ま付いてしまった。
「ぐっ……やはり隠れていたのはおったか!」
「おぉ~!探そうとしてすぐに見つけれるとは....!幸運だねぇ……」
エルフは指を広げ、空気の塊のような玉を乱射したが、ウミーはすかさず刀を振り、斬撃を飛ばして相殺した。
「おみゃあさん…儂らの邪魔をして只で済むと思うとりゃせんか?」
「いやいや、そんなつもりは毛頭無いさぁ?ただ、ワタシの遊び相手になってくれるかねぇ?」
エルフのふざけた態度にウミーは怒りを露わにし、刀を構えてエルフに斬りかかった。エルフは余裕で斬撃を避けようとせず、刀が体に触れる直前に人差し指と中指だけで刃先を挟んで止めた。その行動にウミーは驚愕した。
「なっ!?儂の刀を指二本で止めおった!?」
「お前さんらが誰かの命令であの娘を襲おうが知ったことじゃないが、ワタシも依頼であの娘を守ってるからなぁ。遊びとは言え加減はせぬぞ?」
エルフの両足に金色の魔力が纏い、バチバチと音を鳴らしてると今までゆったりとした口調だったエルフの声質も急に低く変わった。
「受け身取りな童....死ぬぞ」
ダァンッ!という音と共に一瞬にしてウミーの背後に回ったエルフは手を組んでそれを振り下ろし、ウミーの頭に鈍い衝撃を与えた。
“ウギャアッ!!!”っと言う断末魔を叫んだ後、ウミーは一切の抵抗も出来ずに伸びてしまった。
「フゥム、もう少し楽しめると思ったのだが.....所詮は童か。さて、次は誰とやろうか?」
エルフがそう呟きながら歩いてるのを気配を消しながら見ていた奴が居た。ウラミーの仲間の一人であるウラーだった。
(ま、まさかウミーがやられるなんて....!何なんだあのエルフ女ッ!?いくらエルフが魔術に長けてるとは言え、あんな素早く魔方陣を展開出来るのか....!?)
ウラーは蛇腹鎌を構えながらゆっくりと後退りしていた。だが、エルフはゆっくりと後ろを振り向きこっちに聞こえるように言った。
「んむ?もう一人居おったか……気配は殺しきったつもりみたいだが、完全に消すとまでは言ってないようじゃな。」
(ぐぅっ!?な、何故バレたッ!?)
エルフに背中を見せ、その場から去ろうとしたら後頭部を見えない何かでガッ!と押さえ付けられて身動きが取れなくなった。エルフはそのままウラーに近付いて来た。
(畜生……女如きにオレがやられるなんて……!!)
「さてと……お前さんはどんな風に遊んでくれるのやら……」
「ぐぬぬ……!舐めんなよ耳長ッ!!!」
ウラーは蛇腹鎌を振り回しながらエルフに攻撃するが“ほっ、およ、と”っと言ってその鎌を軽い身のこなしでまるで草がそよ風を避けるかのようにヒラリと避けていた。
「その鎌は中々の代物だが、扱いが雑じゃなぁ?そんなんじゃ儂には当てれんぞ?」
「うるせぇ!!ならこれならどうだッ!!」
ウラーは蛇腹鎌を自分を中心に大回転させて襲い掛かって来たが、エルフはそれすらも余裕で避けていた。
(なんじゃ、珍しい物持ってるから期待してたのにこの程度か……)
「な~んだ!もう終わりかい?なら今度はこっちの番だよ」
エルフは指をパチンと鳴らすとウラーの足元から岩がウラーの腹目掛けて突き出てきた。
「なッ!?ぐあぁ!!」
「ほれほれ、まだまだ行くぞ?」
エルフは岩に貫かれたウラーの腹に蹴りを入れ、そのまま回し蹴りで吹っ飛ばした。そして吹っ飛んで行った先にあった壁に激突して気を失った。その一連の流れをウラミーは見ていた。
「なっ……あ、アイツらが手も足も出ないだと……!?お、おいエルフ女ッ!ラクザンガはどうしたッ!」
「……ん?あぁ~あの娘ならもう回復させてある。今頃、嬢ちゃんと楽しくやっとるわい。」
「こ、このアマぁ!ぶっ殺してやるぞ!エルフ女がぁッ!!!」
ウラミーは怒り任せに叫んで鎖鎌をブンブンと回していた。エルフはそれを見て耳をホジりながら面倒くさそうに言った。
「うるさいのぉ童がぁ。レディ相手にもう少し綺麗な言葉遣いをせんか。それにワタシはエルフ女ではないわ。ちゃんと名前があるんじゃ。“シュンラン”と言う立派な名がなぁ。」
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