種死をうえる
ウヅキサク
壱
「えー、なに? 次の要望書は……蝋燭、針と……縛って吊す……ダハハ、なにこれ! SM のプレイみてーじゃん!」
「せっかくだしあれしようぜ、あれ! 何だっけ、亀甲縛りってやつ!」
「は? てめー出来んのかよ! 変態じゃん」
「いやできねーっすよ。なんかてきとーに縛れば、っぽくなんじゃねっすか?」
「発想が変態すぎんだろおめーよー!」
粗野な笑い声が朽ちかけた廃工場の冷たいコンクリートに響く。崩れてあいた屋根の穴からは月が覗いているが、廃工場の一角に持ち込まれた大形のライト、が月の光をかき消して、場違いなほどに眩く僕たちを照らしている。
「……おい! てめえ、ちんたらしてんじゃねーぞ! ったく、使えねーなァおい!」
ほんの少し前まで仲間達と笑い合っていた先輩が、急に僕の方を振り向いてドスの利いた声を飛ばす。僕はその声にビクリと身体を跳ねさせた。その拍子に、手にしていた『それ』が暴れ、僕の手に傷をつける。
「なあ、逃がしたらしょうちしねーぞコラ。商品調達すんのも簡単じゃねーんだよ! そいつ仕入れるために、保護猫がどーのってとこで、俺ァ着たくもねースーツ着て髪こーやって撫でつけてよ」
先輩が派手な金色に染められた髪をぺたりと両手で七三に押さえつけると、背後から笑い声が弾ける。
「に、似合わねー! マジでサイコーに笑えるっすよ、それ!」
「うるせーんだよコラ。次はてめーの番だかンな!」
先程まで僕を脅していたのが嘘のように、先輩はゲラゲラと笑いながら集団の中に戻っていく。
「さっさとそいつ吊してカメラの準備しとけよ!」
「……は、はい」
僕の喉からは掠れたような声しか出ない。ぎゅっと力の入った僕の手の中で、「それ」が――白黒の小柄な猫が暴れ、怯えた様な目で僕を見上げた。
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