第3枝 第一異世界人発見?

〈本日の豆知識【TIPS:2】〉

 女神ノラはチョコアイスよりもチョコミントアイスが好き。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 巨大樹の麓まで来たは良いものの、特にやることはない。巨大な目印があったから来ただけだし、走りたかったから来た。それだけだ。


「ははっ、まるで走るのが楽しくてやめられない子供だな」


 まぁ身体は若返ってる事だし、今はそれも良しとしよう。それにこんな開放的な大自然なのだ。そういう事だってある。現実離れした巨木が存在するくらいなんだからな。


「まぁでも、そろそろ現実的に考えないとな」


 問題は多い。日本に帰ることも十分に大きな問題なのだが、それよりも喫緊の問題がある。それは――


「――水と食料、そして火が必要だ」


 いつかテレビで見た気がする。水は3日、食料は3週間摂取しなければ死ぬと。そして火も無ければ低体温症で最悪死に至るだろう。


「飲んでも平気な綺麗な水と、食べることの出来る食料……ここら辺なら木の実とかか? 動物を狩るのはハードルが高いよなぁ……」


 贅沢を言うなら肉を食べたいけれど、狩りなんて現代社会を生きてきた人間には無理だ。銃も無いし罠を張るくらいしか出来ないけれど、その肝心な罠の作り方すら知らない。

 猪? 鹿? そんなの狩る前にこっちが狩られるか、あっという間に逃げられる事だろう。……誰が『馬鹿』だ! なんて。


「幸い迷子になる心配はないからな。何処に行ってもこの巨大樹が見える。ここを拠点にしよう」


 そう考えて俺は耳を澄ませる。さっきから何処かから水の流れる音が聞こえているんだ。この音の発生源へ向かえば水があるだろう。


「うぅ、寒い。早く行こう」


 日も傾きかけているというのに、俺の格好は薄布1枚だ。真っ白で右肩だけ出てる服。肌触りは悪くないもののペッラペラで防御力は皆無。

 んーなんかどっかで見たことが……あぁ、そうか。何かしらの物語で出てくる天使とかが着てる服だこれ。ってことはこの服を着せたのはあの女神だろうな。


「せめてもうちょっと温かい服を着せてくれよ。てかそもそも天使じゃねぇだろ俺」


 そんな愚痴を言いつつも、水を求める足は止まらない。

 最悪命の危機だからな。日が傾きかけていると言ってもまだまだ夜にはなりそうにないから凍える心配はないだろう。それに水を欲する理由がある。


「走らなきゃ良かったなぁ……」


 


 ◆◆  ◆◆




 あれから音の方へ歩くこと30分。ようやく目的地に到着した。


「おぉ! これは……!」


 眼の前には俺が想像したまんまの川が流れていた。白く綺麗な石に囲まれ、所々には鮮やかな緑色の苔が生えている。

 清く透き通った水が程良い早さで流れているのを見て、サラサラと心地の良い音色を耳で堪能すると、夏に異様に増えるキャンプ番組を思い出す。

 これなら水浴びをしても流されるなんてことはなさそうだな。


「果たして飲んでも問題が無いかだけど……」


 自然界の水を飲む方法として確実なのは煮沸消毒だろう。だが、今のところ火を手に入れる方法が思い付かない。それに容器もない。となるとこのまま飲めるかどうかを確認した方が良いだろう。


 確か綺麗な水の判断方法は『見た目』『温度』『苔』だったか? 泥とかゴミが浮いてないか、しっかりと冷たいか、苔が生えてるか。見た目と温度は分かるけど苔!? って驚いた記憶がある。


「えっと……綺麗だし、うん、冷たいな」


 流れる川の水に手を触れれば、起伏の激しい森を歩いて火照った身体を冷やしてくれる。川に飛び込むのを躊躇するくらいにはキンキンに冷えている。


「苔も多少は生えてるし行けそうではある。行けそうではあるけど……」


 やはり少し抵抗はある。この状況で下痢なんてしたら絶体絶命だ。どうしたものか……。


「どうしたの?」

「ん? いや、ここの水が飲めるかなって思ってさ」


 飲めたらばんばんざ……え?

 

「ここの水は飲まない方が良いよ!」

「え……えっ、え?」

「じゃあね! 僕行くところがあるんだ!」


 あまりにも敵意の無い声だったから反射的に返事をしたけど、ここに話せる人が居るなんて!? 人が居るなら色々と問題を解決できるかも知れない!


 と思い、謎の声の方へ振り向いた。けれど、そこには誰もいなかった。

 人の影は一切ない。ここから森までは数メートルあるからもう森の中に消えたとは思えないし、透明人間というわけでも無いだろう。……透明……幽霊?


「えっ、普通に怖い」

「何が?」

「また声したぁ!?」


 おおお、お化けなのか!? 異世界にはお化け居るのか!?


「何驚いてるの? おーい」

「おお、俺を襲っても何も無いぞ!!」

「え? 僕は君を襲ったりはしないけど……?」


 お化けは本気で困惑したように言う。まるで『コイツ何を言ってるんだ?』とでも言いたそうだ。


「何を言ってるの?」


 あ、言われた。


「お、お化けなんだろ! 敵意がないって言うなら姿を見せてみろよ!」

「お化け……? お化けってなんだろう。僕はただの『木の実』なんだけどな」

「え?」


 木の実。それは木になる実の事で、食用になるものやナッツなんかの中の種の部分を食べるものを指したりする。


「いやいや、木の実って……木の実なわけ無いだろ。木の実が話すなんて……」


 待てよ? 確かによくよく考えたら声は下から聞こえてきている。もし本当に謎の存在が木の実だとしたら、俺の視界に入らなくても納得だよな。

 それにここは未知の世界なのだ。地球じゃ考えられない事が起こっても否定は出来ない。否定は出来ないけど……本当にそんなことがありえるのか?

 いや、確認してみれば良いんだ。本当に木の実だと言うなら…………居た。下を見たら本当に居た。直径10cmくらいの硬い殻に覆われた木の実が。左右にコロコロ揺れている。


「……お前なのか? 俺が今見てるお前が声の主なのか?」

「そうだよ! もうずっと僕の方見ないんだもん!」


 まじかよ……これは、異世界だなぁ……。


「いや、すまん。俺の常識だと木の実は話さないからさ。うん」

「ふぅん、変だね」


 変ッ!? 木の実が話さないのは変なのか……。


「そ、それで! ここの水を飲まない方が良いってのは?」


 もう何が来ても驚かない! 夜になりそうなのだ、切り替えて本題に入るに限る!


「ここの川はね、上の方に『スケルトンリバードラゴン』が居るから飲まない方が良いんだ!」

「スケルトンリバードラゴン……?」


 直訳すると半透明の川の龍か? え、龍ってバケモンじゃん。


「それってヤバい感じの生き物だったり?」

だからね! ものすっっっごく強いんだよ! 身体から流れ出る魔力が水に染み渡ってるから、そんなの飲んだら僕達みたいな弱い魔物だと死んじゃうよ!」

「死……?」


 驚かないって言葉は撤回しよう。これで驚かないのは無理があるだろ。意味分かんないって。木の実は話すし、龍が居るし、水を飲んだら死ぬ?? それに俺が弱い魔物って……こちとら正真正銘の人間だよ!


「はぁ……分かった。分かってないけど取り敢えずは分かった。それで飲める水がある方って分かるか?」

「んー多分分かるよ!」

「どっちの方だ?」

「えーっとね、近くだとあっち!」


 そう言った木の実はコロコロと転がって方向を示す。


「俺が来た方だな。そんな飲めそうな水ってあったか?」

「あるよ! 多分岩の隙間から流れ出てるかな!」

「そんなのも分かるのか」


 植物だから分かるのか? 植物って呼んで良いのか分かんないけど。

 んーどうするか。正直言って俺はこの広大で迷子になりそうな森の中で、そんな水場を見つけられる気はしない。だから案内してもらいたいのだけど……行く所あるって言ってたんだよな。この木の実。


「なぁ、行くとこってどこなんだ? 良ければ水場まで案内して欲しいんだけど……」

「良いよ!」


 おぉ、そんな二つ返事で了承してくれるか。良い植物だなこの木の実。


「本当に良いのか?」

「うん! 困ってる進化体が居たら助けるのは当然だよ! 僕が行く方も丁度そっち方向だしね!」

「お、なら良かった、助かるよ。それでお前は何処に行くんだ?」

「進化の樹!」

「ふぅん、そんな木があるんだな」


 まぁ龍とか意味分からん巨大樹が存在する世界だ。そんな名前の木もあるだろう。

 そう考え、俺達は歩き出したのだった。人間と話すし動く木の実、変な組み合わせだ。それでも悪い奴じゃ無さそうだし、寂しくもない。なんだかんだ言って1人は寂しかったからな。


 これで楽しく歩いて……歩いて…………。


「歩くのおっっっそいな!?」


 そうだよな、ちっちゃい木の実だもんな……。

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