第18話伝授
あれから仕事が終わったのは夜の8時。
まさかこんなにも時間が掛かるとは思いもしなかった。めちゃくちゃ疲れた。
明日は休みだし、一日中寝て過ごすことを決意する。
手伝ってくれたイリアに礼を言い、早く帰ろうとしたところでイリアから話しかけてきた。
「アルスさん、お疲れ様でした。今日遅くなってしまったので明日のお出かけは少し遅い時間に待ち合わせしましょう」
???明日の予定なんてあったかな?
もう心の中で明日の予定は一日中寝て過ごすと決めていたのだけど…。
僕は心当たりがなかったので素直にイリアに聞いた。
するとイリアは少し不機嫌そうにしながらも答えてくれる。なんでも今日、仕事を始める前に仕事をやりたくない一心で僕がイリアへ買い物に誘ったのだが、それが明日行くことになっているらしい。
確かに彼女が明日行きましょうと言っていたことを思い出す。発端は僕が誘ったことだし、やっぱ無しでとは言えないな。
「そ、そうだったね。じゃあ午後から行こうか。今日はありがとう、助かったよ」
まあ午前中だけでもゆっくり出来るから良しとしよう。
別にイリアと出かけるのは嫌ではないし、切り替えて楽しむ為に何処に行こうか考えながら帰宅の準備をした。
数分後、帰る準備を終え、先に準備を終えて待ってくれていたイリアと一緒に寮へ帰った。
翌日、僕は9時に一度目が覚めたが二度寝を敢行し午前中いっぱいは自堕落に過ごそうとしていた。
しかし僕の予定を狂わせる音が聞こえてきた。誰かが僕の部屋のドアを叩いている。居留守を使うが叩く音が全然止まず諦めてくれない。大声で僕の名前を呼んできた。
その声には聞き覚えがあり、居留守を使い続けるわけにはいかない相手だった。僕は急いで着替えドアを開ける。
ドアの前に立っていたのはディラン帝国の皇子ジーク・ディランと皇女シャルロッテ・ディランだった。
「おう、アルス!部屋に居ないかと思ったぞ」
居ないと思ったのならドアを叩くのをやめてください……とは言えない。言っても聞いちゃくれないだろうし。
「ごめんごめん。昨日遅くまで起きてたからさっきまで寝てたんだ」
「そうか!夜更かしは程々にしろよ」
少しだけ皮肉を交えたつもりだったのだけど分かっているのかいないのか全然気にしてないジークとは対照的にシャルロッテは僕に謝ってくる。
「お疲れのところ申し訳ありません。やはり日を改めたほうが良かったでしょうか?」
シャルロッテは他の皇族とは違い、立場が下の者に対しても気遣いを忘れず接してくれるから人気が高い。皇族の方々は人の都合などお構い無しで自分の気分に忠実な人が多いのだ。ジークも皇族の中ではマシな方ではあるのだけど。
僕はシャルロッテに少しなら大丈夫であることを告げ、今日はどんな用件で来たのか尋ねるとジークが彼女の代わりに答えてくれる。
「新しい魔法を教えてもらいたいんだ。戦闘用じゃなくてもいいから便利なやつを頼む!」
最近の魔法使いの傾向では、強い魔法をいくつ持っているかが重要になっており、生活の中で便利な魔法の習得は不要な産物となっている。
だけどこの2人は僕が学院に入学する前、いろんな魔法を見せていた影響で流行ではない魔法も習得したがるようになっていた。
今日でなかったら快く承諾したのだが、生憎午後からイリアと買い物に行くことになっている。今の時刻は午前10時過ぎ、イリアとの待ち合わせ時刻は午後1時だ。短時間しかない。
「分かった。今日は少ししか時間が取れないから僕の部屋で教えるよ。さ、上がって」
移動する時間も勿体ないし、寮の最上階全てが僕の部屋であることから結構広いのでここで教えることを決め、2人を招き入れる
「ええ!?いいのですか?」
「ん?うん、何も問題ないよ」
シャルロッテが顔を赤くして聞いてきたのには疑問に思ったがすぐその理由に見当がつき、自分の配慮が足りていなかった事に内心頭を抱える。
皇女が婚約者でもない男の部屋に入るのは2人きりでないにしても避けるべきことだ。
シャルロッテは僕の部屋をキョロキョロ見渡しており警戒しているのかもしれない。
もう部屋に招き入れてしまって手遅れだが謝っておくのが賢明だろう。
「ごめん、シャルロッテ。知り合いといっても婚約者でもない男の部屋に招き入れるのは良くないことだったよね。今からでも別の場所に移動しようか?」
「いいえ!私とアルス様の仲ではありませんか。そこまで気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
食い気味にシャルロッテは気にしてないと言ってくれて僕も一安心。
「そうそう。アルスと2人きりだったらシャルは暴走するかもしれないけど、俺もいるし問題ねぇよ」
「…ジーク?」
「痛っ!二の腕を抓るなって!」
双子でじゃれ合っている姿を眺めながら僕は今日教える魔法を考える。どんなものが良いか?
これでも僕は、ディラン帝国の中で習得している魔法の数は1番であることを自負している。
便利な魔法をご所望なら望み通り教えなくては自分の矜持に関わる。悩み向いた
末、結構難しいが使えたら便利な魔法を思い出す。習得難易度で言ったらAランクとなるだろう。
普通に教えたら半年は余裕で掛かるだろうが、僕には平民街でユナ達に教えた方法がある。その方法でやれば1カ月で習得出来るのではないかと期待している。
今日は使える時間も少ないので早速始めよう。今回の魔法は部屋が壊れたり汚れたりする心配がないのでリビングで行う。じゃれ合っていた2人はすでに大人しく教えを乞う姿勢になっていて助かる。
「今回教える魔法は収納魔法だ」
収納魔法。物を異空間に仕舞いこむことが出来る魔法である。
この魔法さえあれば荷物を持つことなく手ぶらで歩けてとっても便利なので僕はよく使う。
実際に僕は異空間を出し、そこへペンを放り投げてから異空間を消して、もう一度出してペンを取り出してみせた。
「どう?いい魔法でしょ?」
2人は僕が実演してみせた魔法を真剣な表情で観察していた。声を掛けると、集中していたからか反応が遅いけどちゃんと返事を返してくれた。
「……ええ。それよりこの魔法って空間魔法に似てますよね」
シャルロッテは前回の序列10位以内の会議で空間魔法について教えてもらったのだろう。よく似ていると気づいたものだ。
「まあね。収納魔法は空間魔法の下位互換のようなものだから」
収納魔法と空間魔法は異空間を生み出す点は同じで、異空間の規模と生物を入れられるか否かの2つの違いだけで区別されている。
空間魔法の異空間のスペースは、魔力が持つ限り上限はない。
収納魔法の異空間のスペースは、個人差はあるが最大で小さな部屋の広さまでである。
「ちょっと難易度高くないか?」
僕が収納魔法の習得難易度のレベルを教えてあげると2人とも難しい顔になった。才能を必要とせず努力さえすれば習得出来る難易度のE〜Aランクの中で、最高レベルに当たるAランク。
気軽に魔法を教えて貰おうとしたら、年単位で習得する魔法を薦められたんだからそりゃあそんな顔にもなるだろう。
「大丈夫。最近、新しい方法で魔法を教えることを覚えたんだ。そのやり方だと上手くすれば1、2ヶ月で習得出来るかもしれないよ」
うまい話には裏があるとでも思ったのか、ジークが部屋から逃げ出そうとするが僕は彼の腕を掴み逃がさない。
別に危険とかないから安心してほしいのだけど…。ジークは嫌そうにしているし先にシャルロッテから教えてあげることにしよう。
「じゃあシャルから始めようか」
「あ、あの私もちょっと…「まず僕の手を握って」はい!」
シャルロッテと僕の声が重なってしまったが、彼女は僕の声を聞き取れたみたいで手を握ってくれた。目を閉じてもらい準備が整ったので、僕は感覚を共有する魔法を発動する。
「ッ!」
共有魔法を発動し、知らない感覚に陥っているであろうシャルロッテに説明する。
「今、共有魔法っていう魔法で僕とシャルロッテの感覚を一部共有しているんだ。この状態で僕が収納魔法を発動するから何となくコツを掴んで」
「は、はい!」
その後ジークにも同じように教えて、またシャルロッテに教えてと繰り返して1時間、今日の特訓はお開きとなった。
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