クロ・サエキ④
「始まるね」
リックは背に自身と同じくらいの大きさの大剣を背負い意気揚々とやってきた。対するシャルロッテは腰に剣を携え、凛とした佇まいでリックと対峙している。
リックは身長190㎝で、シャルロッテは150㎝あるかどうかで、魔力なしの戦いなら間違いなくリックが勝つと断言できるが、魔法使いの戦いには身長差なんて関係ないのだろう。
『始め!』
決闘の合図が出ると、リックが目にも留まらぬ速さで距離を詰めていき大剣を振り下ろした。シャルロッテが斬られたかと思い焦ったが後ろに飛んで回避しており、加えてその滞空時間で魔力弾を放っている。
『ちっ』
大剣を盾にして魔力弾を受け止めながら直進してきた。それを見たシャルロッテは地面に着地した後も数発の魔力弾を放つと同時に走り出し、リックの大剣に向かって飛び蹴りをする。
『なあっ!?』
これにはリックも想定外だったようで大剣と共に数メートル吹っ飛ばされる。観客から歓声が上がるが、リックが一睨みするとすぐに静かになった。その直後には互いに攻撃を仕掛けることはなく一旦仕切り直しのようだ。今の一瞬の攻防でもレベルの高さが窺える。まだ俺では相手にならないほどの実力差があるのだと実感する。
『くっくっくっ』
『どうしましたか?』
『いやなに、皇女のくせに随分とお転婆だと思ってな。勝った後の調教が楽しみになったんだよ』
『……まだ私に勝てると思っているのですか。今のやりとりで実力差が分からなかった訳ではないですよね?』
『ああ。強化魔法だけならお前の方が上だろう。強化魔法だけならな!』
リックはその場で大剣を後ろに引き、勢いよく薙ぎ払おうとするが、シャルロッテとは距離があり何の意味があるのかと思っていると…。
『っ!』
大剣の剣身が伸びてシャルロッテの元まで届き、彼女は避けきれず腕に切り傷がついた。それに驚いた俺は隣にいる2人に聞く。
「今の魔法使いって強化魔法だけしか使わないじゃなかったのか!?」
「は?そんなわけないでしょ」
「序列上位は強化魔法の他に、1つか2つ自分の得意な魔法を使うよ」
後で詳しく聞いてみたところと、確かに強化魔法が発達したせいで他の魔法が効かなくなり、ほとんどの人が強化魔法一辺倒になっているとのこと。しかし、それだけでは魔力量や近接戦闘の才などの埋められない才能の差がある相手と戦っても勝ち目がない。だから一流と呼ばれる魔法使いは、強化魔法をも貫く強力な魔法をいくつか扱っているらしい。最初の模擬戦の時にも使っている生徒がいたらしいが俺はあまりちゃんと見ていなかった。
「そうなのか。俺のクラスだとみんな強化魔法だけしか使わないから誤解してたな。キースとスノウも得意な魔法を持っているのか?」
「当たり前でしょ。まあ、私はまだ制御が甘いから実戦では使ってないけど」
「オレもあるよ」
2人とも持っているみたいだ。思っていたより俺と2人の差は大きいのではないかと不安が過ぎる。
「まじかぁ。俺も考えとかないとな」
「……アンタも持ってるでしょ」
「ん?」
「それで、今の魔法は何だと思う?」
キースがリックの魔法はどんなものなのか聞くと、スノウが答えようとする。
「恐らく……」
『伸縮魔法ですか』
『ご名答』
俺たちがリックの魔法を予想していると、シャルロッテとリックが話をしているがこちらまで声は届かない。もしかしたらリックの魔法について喋っているのかもしれない。
『俺は触れている物を自由に伸縮することができる。あ?どこ見てんだお前』
シャルロッテはリックが話している途中にも関わらず観客席のどこかへ視線を向けた。
『…………興味がないみたいですね』
『は?』
視線をリックの方へ戻し口を開く。
『貴方の魔法はそれだけですか?今のうちに全部披露しておくことをお勧めします』
冷たい表情をして喋っているようで内容が気になる。
『もうその魔法で攻撃が当たることはないです。なので、他の魔法がなければ貴方の見せ場はここまでとなってしまうのですが…」
俺でも分かる。絶対リックを挑発した言葉をかけている。
『馬鹿にすんじゃねぇ!!』
シャルロッテは激昂したリックの攻撃を最小限の動きで躱す。そしてゆっくりとリックの方へと歩いていった。リックは攻撃を躱された事実に目を見開き驚いているが、すぐに気を取り直し大剣を振るっていく。だが、まるで次に攻撃する箇所が分かっているかのような無駄のない動きで全て躱され一歩、また一歩と迫ってこられる。
『はぁ、はぁ』
2人の距離が3メートルほどに近づいた。疲れ果てたリックは膝をつきシャルロッテを見上げる。
『クソっ、どうなってんだ!』
攻撃をし続けたが一回も当てることができず、苛立った表情を見せる。勝敗の結果は誰が見ても明らかだった。
『その魔法、まだ使いこなせていないようですね。伸び縮みする速度が遅くて簡単に避けられます』
シャルロッテはここで初めて鞘から剣を抜く。
『ここで止めてもいいですが、被害者の方達の為に一撃入れさせて貰います』
『ふざけんな--』
まだ諦めてなかったようでリックは大剣を振るが、それよりも速くシャルロッテの剣がリックに届き、上半身を大きく斬られ後ろに倒れる。
『止め。勝者シャルロッテ・ディラン!』
ロベルト先輩の声に観客席から大きく歓声が上がった。
「シャルロッテさん…結局魔法を使わなかったわね」
スノウが何故か悔しげにしている。キースにこっそり聞いてみると、恐らく序列10位に自分の魔法を使わないで勝ってみせたことが、同じ学年のスノウにとって大きな差に感じたようだ。
「オレも鳥肌が立ったよ。あれを全て避けるなんて凄すぎる」
「これで序列10位以内に1年生が2人になるのか。俺たちも頑張んないとな」
「ええ。私も必ず入ってみせる」
すると歓声を上げるばかりの観客だったが、リックに罵声やゴミ、石を投げつける人が出てきた。
「お、おい。いいのかあれ?」
「ん?負けたんだから当然ああなるでしょ」
「アイツはずっと好き放題してたんだから自業自得よ」
ほっといて早く帰ろうとしている2人。この学院じゃこれが当たり前なのか。確かに物を投げつけられても仕方ない行為をしていたが、これは違うんじゃないか?そう思った俺は2人に先に帰ってくれと言い、投げつける人たちの所に向かった。
「止めとけよ。アイツはクズだけど、頑張って戦ってたんだからこれ以上傷つけてやるな」
投げつける人たちに忠告すると、一斉に俺の方へ鋭い目つきを向けてくる。
「なに言ってんだお前?」 「邪魔するなよ」「アイツがこれまでどれだけのことしでかしたと思ってんだ?」 「消えろ!」
リックへの恨みが強いのか止めることなく俺にも罵声や物を投げる人が出てきた。駄目か。
「それまでにしなさい!」
凛とした声がすると俺が言っても聞かなかった行為がすぐ止まる。先ほどまでリックと戦っていたシャルロッテが俺を庇い前に出て言った。
「これ以上の行いは序列10位シャルロッテ・ディランが禁じます。もしまだやるというのならば私が相手になりましょう」
リックに物を投げつけていた人たちは名残惜しそうにしながらも次々とこの場から去っていく。残ったのが俺とシャルロッテだけになると、俺は彼女にお礼を言う。
「助けてくれてありがとう。俺じゃあいつらを止められなかったからすごい助かった」
俺の方を振り向き、ジッと見てくるシャルロッテ。美人に見つめられると何だか照れるな。
「何故あのような行動を起こしたのですか?リック・ザゴイルは庇うほどに人間では無いはずです」
「あ、ああ。だからって弱っているやつを集団でいじめるのは間違ってると思ったからやめさせたかったんだ」
自分の考えを素直に答えたのだがジッとこちらを見てくるだけで何の返事もこない。
「…………変な人」
シャルロッテがポツリと何か言った後、止める間もなくどこかへ行ってしまった。少し後ろ髪引かれるよ思いがあるが、決闘後にマリア先輩に呼ばれているので切り替え、指定された場所まで赴いた。
指定された部屋の前まで来て、そこのドアをノックすると部屋の中から「どうぞ」と声がしたので入る。
「来ましたね」
部屋の中にいたのはマリア先輩が1人だけで、何か仕事をしていたようだ。聞くと、ここは序列10位以内が与えられる先輩専用の執務室で、学院運営の仕事をしていたらしい。お疲れ様です。
「格上同士の戦いを見てどうでしたか?」
「……まだ俺じゃ手も足も出ないと思い知らされました」
俺がシャルロッテの立場だったら決闘開始の最初の一撃で倒れていたと思う。強化魔法を極めればあんな速度も出せるのかと驚いたし、それを軽々躱してみせたシャルロッテもバケモノのように思えた。
「そうでしょう。強化魔法が今の魔法使いにとって必須の魔法であることが分かって頂けたようで安心しました」
「ああ」
「では、強化魔法を見せてください」
先輩は俺に笑顔を向け言う。なんか凄いプレッシャーを感じる笑顔だ。先輩に言われた30分以上強化魔法を維持することは、もう出来るようになっていたから良かったが、出来ていなかったら今の状況は冷や汗ものだったな。
強化魔法を発動する。これを一目見たマリア先輩は、
「うん、いいでしょう。もう解除して構いません」
あっさり合格を出し、魔法を解くように言う。
「え?あの、30分維持しなくていいんですか?」
これから俺の特訓の成果を見せようと張り切っていたのに何だか拍子抜けだ。
「見れば分かります。維持できるようになったみたいで何よりです」
「はい!次は何をやるんですか?」
先輩は今回の課題をクリアした後に、俺を強くしてくれると約束をした。序列9位直々に教えてもらえるなんて俺は幸運だ。ワクワクしている俺にマリア先輩は言い放った。
「そうですね。では、半年以内に序列100位以内に入りなさい。これが次の課題です」
半年以内に100位以内…。今、俺の序列は初めと変わらず833位である。決闘を申し込むことができる相手は、序列の差が100位以内であること。俺の場合、申し込めるのは733位の相手までとなる。だから序列100位以内になるには、最低でも8人に勝たなくてはならない。結構厳しい気がする。というか、それはいいんだけど……
「……先輩が直接指導してくれるんじゃないのか」
てっきり俺は課題を出されるとかじゃなくて、先輩が手取り足取り教えてくれるもんだと勘違いしていた。
「そんな暇ありません。それに現段階では、強化魔法を発動しての実戦経験を積んでいけば自然と強くなれると思います」
まぁ、導いてくれるだけ有難いし先輩の言う通りやっていこう。
「これを達成した次は、序列10位以内の誰かに挑みましょう」
「!」
この学院の頂点に挑む!?血が沸騰するような感覚が全身に伝わってくる。今のままじゃ勝負にならないことは分かっているが、絶対成長して勝てるぐらいまで強くなってやろうと思った。
「挑む相手はクロさん自身で決めてもらいますから考えておいてくださいね」
「はい!」
やってやる!半年なんて言わず3ヶ月で課題をクリアして頂点に挑んでやろう。
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