第11話平民街⑦


ユナが外に出て、すぐ動けなくなったのに気づいたジェロは僕に訴える。


「アルさん、やっぱりまだ早かったんだよ!ユナを助けにいってくれ!」


服を引っ張って必死な様子のジェロに言い聞かせる。


「まだピンチじゃないよ。もうちょっと待ちなよ」

「けど、ユナが!」


他の子供達も僕に助けを求めてきた。言い聞かせるのも段々と面倒くさくなってきた僕だが、ふとある考えに至った。


「なら君達が助けにいってあげな」

「え?で、でも俺達じゃ足手まといって言ってたじゃないか」

「うん。彼らにボコられるだけだろうね。でも、多分君達が傷つけばユナは動けるようになるんじゃないかな?」


ユナは今、大人達を怖がって動けなくなっているみたいだけど、恐怖よりも子供達を守りたいという気持ちが上回っているのなら動けるようになるはず。いい考えだ。


なのに何故か唖然としているジェロ達。そうだ、これを言わなければ心配だよね。


「ああ。死なない限り傷ついた身体は僕が回復魔法で全部治してあげるから安心して」




ジェロ達はユナを助けにいった。

予想通り、男達に殴られ続ける。これでもユナは動かない。

うーん、そろそろ助けないと死んじゃいそうだなぁ。

別に平民の子供が死のうがどうでもいい事だが、今後のユナとの関係が崩れてしまうわけにはいかない。あと数秒でユナが動かなければ助けに行こう。


ユナが頭を下げてジェロ達にしている仕打ちをやめてほしいとお願いするが、男達は下品な笑い声を上げて断った。


「はぁ。駄目か」


これ以上は危険と判断した僕は助けに行こうとするのだが…。


「?」


願いを断られたユナの雰囲気が変わった!?

すると、彼女は今までが何だったのかと言いたくなるほどスムーズに男達へ魔力弾を撃ちこんだ。


倒れた男達には一切見向きをせずジェロ達4人のもとまでやってくる。

そこで僕は今日一番の驚きがあった。

ユナの魔力が4人を覆う。

ユナは彼らに未知の魔法をかけ始めたのだ。

回復魔法ではないはずなのに傷が治っていく…?僕は即座に解析魔法を発動する。


「え、凄い」


ユナ自身の魔力をジェロ達に分け与え、彼らも魔力持ちになっていた。

魔力持ちになったことで自然治癒力が飛躍的に向上し、傷が治っていったのだろう。

こんな魔法を咄嗟に発明したのか。才能があると思っていたがここまでとは予想外。


痛みが引いたことでジェロ達が起き上がり、今の自分たちの状態に驚いている。ユナはというと初めての戦闘と魔法で疲労困憊の様子。

ジェロもすぐ気づいてユナの心配をしている。


「おいおい。本当にやられてんじゃねぇか」

「へ、へい。みんな突然倒れてしまって…」


新たに数十人の男達がやってきた。倒さなかった5人が援軍を呼んできたようだ。


「そんな…まだいるの!?」

「私が、またやっつけるよ…」

「おいっ、ユナ、無茶だ!」


ユナはフラつきながら立ち上がり男達の相手をしようとする。だが、もう十分だろう。僕はユナ達の元へ行き、声を掛ける。


「凄かったよ、ユナ。あとは僕に任せて」

「アルさん……」


男達には感謝だ。これでさっき助けに行かなかったことで僕への不信感を持ったかもしれないが多少は緩和してくれるはず。


僕はユナや魔力を見えるようになったジェロ達に手本を見せるつもりで魔力弾を放つ。


あっという間に男達は倒れていき、立っているのは僕達だけとなった。


「さあ、後片付けは僕がやるから君達はもう寝なさい。今日はよく頑張ったね」


家に戻っていく子供達を見送り終えると、倒れている男達を見渡す。


「さて」


考えていたプランを変更する必要があるな。まさか魔力持ちが5人に増えるとは思いもしなかった。僕はリーダーっぽい人に回復魔法をかける。


「うっ、な、なにが…?」


裏組織といっても平民の組織。魔力持ちを相手にすればすぐ壊滅してしまうだろう。だけどあの子達にもちょっとは苦労してもらいたいし組織に手を加えておこう。


「あ、起きた。ねえ、君達のアジトに案内してもらえないかな?」







翌日。ユナ、ジェロ、カイ、レオ、スゥの5人と話をする。


「昨日はお疲れ様。体調はどう?」

「ばっちりです。昨夜はありがとうございました」

「ちょっと待ってユナ姉。何でそいつにお礼言うの?そいつユナが辛そうだったのに助けなかったんだぞ!」


僕を睨みつけ文句を言っているのは……確かカイ君かな?


「レオ……」


レオ君だった。その彼の隣にいた少女が彼の頭をパシリと叩いた。


「馬鹿レオ!最後には助けてくれたでしょ!?それにアルさんが昨日いなかったら家族全員大人達に捕まってたんだからね!」

「いってーなスゥ!だからって…」

「止めて」


レオ君とスゥさんの言い合いをジェロが止めた。


「レオ。もともと俺のお礼のために家に来てくれたんだ。なのにこれだけ面倒を見てくれて感謝こそしても文句を言う事なんてしちゃいけない」

「……うん。ごめんなさい」

「アルさん、ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって。だけどもう少しだけ俺達に力を貸してくれないか?」


ジェロは両手を合わせ眼を瞑り僕に頼み込む。


「いいよ。今日中だけだけど5人とも教えてあげる。その前に君達っていくつ?」


魔力量的に5人ともディラン魔法学院に入学することになるだろうから年齢を確認しておきたかった。


ユナとジェロが14歳、カイが13歳、レオとスゥが11歳らしい。


僕は15歳になったら学院に強制的に入学されてしまい、この家に居られなくなることを説明した。


「で、でもこっそり抜け出していけば…」

「絶対に無理だよ」

「じゃあ、なんでアルさんはここにいるの?」


それは序列1位だけの特権で出てきているのだが、これは秘密事項で話すことができないので曖昧に答えた。


「それよりユナ。昨日ジェロ達に使った魔法は今でも使える?」

「は、はい。多分使えます」


レオとスゥが入学するのはユナが卒業した後であまり入学する意味がない。


「ユナが使った魔法は自分の魔力を他人に分け与える魔法なんだけど、その分け与えた魔力をまた自分の中に戻すこともできるはずなんだ。これができればカイとレオとスゥは入学しないで済む」

「!やってみます。スゥ、いい?」

「うん」


ユナは目を閉じ集中して魔法を発動している。しかし一向にスゥの体内から魔力が消えない。まだできないか。


「もういいよ。まだ時間があるからゆっくりできるようにしよう。それでユナは確定として、ジェロにもユナの護衛として学院に入ってもらいたいのだけどいいかな?」

「ああ、勿論」


了承してくれるとは思っていたけど、即答とは頼もしい。あとはカイの意見も聞いておきたい。


「カイはどうする?ユナが学院に行ってからは会いにいけないから魔力を持っておいて学院に来るか、持たずに家に残るかの2つの選択になる。勿論この一年でユナが魔法を完成させなかったら1択だけど」

「うっ、頑張ります…」


カイは少し考えて答えを出した。


「俺は…学院に行きたい。行って色んなことを学んで家族の力になりたい」

「カイ…」


ジェロ達がカイの方を見て嬉しそうにしている。


「うん、分かったよ。これで話は終わり。じゃあ魔力の扱い方を教えるから外に出ようか!」


僕は一日中、5人に付き合い魔力の扱いの特訓をした。ユナと同じやり方で教えて、今日魔力を集めることが出来たのはカイとスゥの2人。ジェロとレオはやる気はあるのだけど、あまり才能はないみたい。ユナには強化魔法と防御魔法を習得させることが出来た。


「それじゃあ僕は帰るけど、毎日特訓するんだよ」

「はい、ありがとうございました!」


日も暮れて僕は学院へ帰ることにする。流石に学院を3日も休むのは駄目だろうと思った。


「そうだ、次来れるのはいつになるか分からないし目標を決めとこうか」

「お、いいな。アルさん結構高くてもいいぜ」


すっかり懐いたレオが得意げに言う。


「みんな魔力弾が撃てるようになっていることと、裏組織を壊滅させていることにしようか」

「「はあ!?」」

「出来てなかったら罰ゲームね」


僕はそう言い残し、呼び止める声を聞こえないふりをしながら学院に帰っていった。

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