第9話平民街⑤

まずは前回と同じように基礎練習。手に魔力を集めてからそれを放つという単純な練習だ。

しかしユナは魔力を集めるのに苦労しており、放つまでいけていない。

幼少期から魔法の練習をさせられてきた貴族と違い、彼女はこれまで魔力をコントロールしたことがないから勝手が分からないのだろう。

僕がコツを教えたくても無意識にやっている事だからあまり参考にならないと思うし。


「ちょっといいかな」


だけど、こんな基礎で時間は掛けてられない。なんとなく思いついた方法で教えてみる。


「はい?」


ユナの手を取る。


「あまり口で言っても分からないと思うから身体で覚えてもらうよ」

「えっ、えっ?」


なんかユナの顔が赤くなっているが気にせず準備をする。


「目を閉じて」

「は、はい」


ギュッと目を瞑ったユナを確認し魔法を使うために集中する。


「『発動』」


僕はユナに教えるのに便利そうな魔法を発動した。覚えてから一度も使ったことないから今まで忘れていた魔法だ。


「今、ユナは僕と感覚を共有している状態だ。僕が魔力を手に集めるからその感覚をちゃんと覚えておいてね」


身体を覆っている魔力をユナの手を握っている右手に集める。そして握っている右手の人差し指だけを立てて、その上に丸く固めた魔力弾を作り放った。狙った場所は20メートル先の地面だが結構えぐれてしまっていた。

魔法を解き、目を開けていいと言う。


目を開けたユナは少し僕を責めるような目をしていた。


「アルさん……」

「あ、あれ?僕何か悪いことやった?」


そう言うとユナの目つきがさらに鋭くなってしまったが、ため息をつくと素の顔に戻って諭すような声で言った。


「教えてもらっている立場で失礼ですけど、ウチの近くの地面えぐられると子供達が怪我しちゃうかもしれないので今後はもう少し威力低めの魔法でお願いします」

「あっ、はいごめんなさい」


そこまで気が回ってなかったな。あと魔力弾は魔法ではないのだが、今訂正すべきではないのは僕でも分かる。


「あと……いえ、何でもないです。生意気言ってすみません」

「全然いいよ。また言いたい事があったら遠慮なく言ってね」


コホンと一旦仕切り直すために咳をした後、練習を再開する。


「それで、魔力を集める感覚はなんとなく掴んだと思うからやってみようか」

「分かりました」


早速ユナは魔力を手に集めようとする。前は集めようとしても全然出来ていなかったのに今回は少しではあるが確かに魔力が手に集まってきている。ただ、まだ集めるだけで精一杯のようで集中が途切れると集めた魔力が霧散してしまった。

だけど今までどう足掻いても出来ていなかったのが出来たことでユナは喜び一色となっていた。


「アルさんアルさん!見ました?ちょっと出来ましたよ!」

「うんうん、そうだね。あとは練習あるのみだよ」

「はい!」


まさか共有後すぐに魔力を集められるようになるとは驚きだ。今回のやり方で他人に教えるのは初めてだが、有効そうでなによりだ。次回も教えたい魔法があったら同じやり方で教えてみよう。


「だけど少し休憩しようか」

「え、でも……」

「すぐやりたいのは分かるけど、集中力のいる練習だから一回ごとに短時間でも休憩したほうが効率がいいんだ」


ユナは続きを行いたそうにしていたが僕の言葉を素直に聞いてくれた。そして休憩中、ユナと話をした。他愛のない話をしたかったのに、凄く重い話を持ってこられた。


「攫われた子はまだ2人とも5歳だったんです。家の前で2人で遊んでた所を攫われました。私は家の中にいたのに全然気づかなかったんです」

「うん」

「ジェロは買い出し中で、家の中で最年長だったのは私。私の不注意が原因です。だから私の力で2人を取り戻すんです」


まだユナだって子供なのに責任感があってとても立派だと思う。だけどそれ以上に心配になるな。


「うん、ユナにならできると思う。けど、1人でなんでもしようとしちゃいけないよ。1人だとどうしても限界はあるんだ。ジェロや他の子供達、ついでに僕もいるからちゃんと頼るんだ」

「はい……」


今回もそれらしいことを言えた気がする。暗い話は苦手だ。話をされたら慰めたり助言を求められたりするから。

僕は他人にあまり興味がない。

暗い話をされても正直、へーそうなんだとしか思えない。

だけどそれじゃ周囲から顰蹙を買うから普通ならどうするかを考え抜いて乗り切っているに過ぎない。

だからそんな尊敬したような目で見られると罪悪感を感じるからやめてくれユナ!


「よ、よし!そろそろ始めようか」

「そうですね。頑張ります!」


練習を再開し、手に魔力を集めるユナ。苦労していたのが嘘みたいにみるみる集まってくる。ユナは結構な量の魔力を手に集め、そのまま手を振り下ろし魔力を遠くの方へ放った。ちょっ、何やってんだ。


「あっ!」


やっぱり何も考えず放ったのだろう。地面や建物に着弾すればさっき僕が放ったものより大惨事になると思うので、僕も魔力弾を飛ばしユナの魔力弾へぶつけて相殺した。


「す、すみませんアルさん」


僕に注意しといて自分も同じ事をしちゃったからかとてもバツの悪そうな顔をしている。


「今度からは気をつけてね。それより、魔力弾出来たじゃん」

「あっはい!ようやく出来ました。アルさんのおかげです」


ユナは満面の笑みを浮かべて喜んでいる。コロコロ表情が変わるから面白いな。


「これで魔力の溜まりすぎによる体調不良もなくなると思う」

「!そうでした。初めはその為に教えて貰ってたんでしたね」


ユナに最低限のことは教えられて一先ずホッとする。

体調不良がなくなり、彼女が健康体にさえなれれば平民なんて容易く倒せるだろう。


そしてここから教えるのは、ディラン魔法学院で生き抜くために必要な魔法だ。

今何歳か知らないが15歳になれば間違いなくユナは入学することになるから恥をかかない為にも教えておくべきだろう。


ふと、僕は現在の時刻を確認する。特訓開始して40分ほどか。


「そろそろ夕飯の支度が出来る頃合いだし、次の魔法を教えるより魔力弾の精度を上げることにしようか」

「了解です。あっ、そうだアルさん。今日はどれくらい居られるんですか?」

「ああ、明日も暇だから遅くなっても平気だよ」

「なら、良ければ今日は泊まっていってください!みんなも喜んでくれると思いますし」


期待した目で僕を見てきて断りづらいし了承することにした。


「それじゃあお言葉に甘えて泊まらせてもらうよ」


明日の分の仕事もロベルト先輩にやらせるとしよう。あとで魔法でメッセージを送っとかないと。


「やった!これでもっとお話しできます!」


テンションが上がってるユナに軽く注意する。


「ほら、喜んでないで練習するよ。夕飯後は違う魔法を教えるから魔力弾は今だけだから」

「はーい!」


それからジェロに呼ばれるまでユナは真面目に練習に取り組んだ。







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