第15話 歓迎会

 何気ない会話を繰り返しながら、なだらかな坂道を上っている最中、ふとした疑問が浮かんできた。

「そういえば、クィーンエレインが修理中だけれども、その間の給金は誰から貰えばいいんだ」

 スカーレットは顎に手をやり、視線を上に泳がせる。

「基地の経理担当者か、いや......うーん」

「ノワルドさんに聞いてみたら」

 ミアが無邪気に言葉を引き継ぐ。

「たしかに、あのおっちゃんなら知ってそうだ」

 そういってスカーレットは軽く笑った。

「ところでそんなにお金が無いのか」

「いや、俺じゃなくてミアのお金だよ」

 驚く表情を浮かべるスカーレットにこれまでのいきさつを掻い摘んで話した。

「ああ、そういうことか」

「とりあえず、あとでノアルドさんに聞いてみるよ」

 キィー

「いらっしゃいませ」 

 ペンキの剥げかかったトビラを開けて店に入ると、作業をしていた中年の女性が顔を上げて挨拶を投げかけた。

「こんにちは」

 店内を見回す。

 戦争前は観光客目当ての土産物屋だったのだろう名残りが埃をかぶった置物などから推察できた。

「隊長、あの二人は何が好きだと思う」

「うーん」

 スカーレットの質問に海は言葉を窮した。

 当たり前だが、この小さな雑貨屋には翔陽

のものなど置いてはいない。

(とりあえず、どんなものが置いてあるのか見てみないことには......)

 プロイデンベルグの潜水艦が流通を阻害しているせいなのか、店内には缶詰や瓶詰のものが多い。

 翔陽とスチューザンの食文化はかなり異なり、例えば同じ漬物と言っても、翔陽は糠や味噌、醤油などに漬けるのに対してスチューザンは酢や塩に漬けるものが多い。

 お酒も、米やイモなどを使った清酒や焼酎と麦やサトウキビと使ったウィスキーやラムなどの違いがある。

 両国とも島国なので魚を食べる共通点があるが、焼くか揚げるか煮るか生で食べるかなどで微妙に変わる。

「海魚を買おう、それと野菜と鶏肉を買って鍋にするのはどうか」

「大根などの根菜類やキャベツなどの葉物それに鶏肉だな」

「パスタとかどうですか」

「いいんじゃない。 コンソメスープにしよう」

「パスタというよりマカロニみたいだな」

「パスタは麺だけじゃないぞ」

「ウィスキーとブランデーも買ってこうか」

「ジュースも欲しい」

「チョコはいいのか」

「チョコはお姉さんたちからいっぱい貰ったの」

「はは、通信兵や魔探管理は女性が多いからな」

「俺はすれ違うたびに笑われるぞ」

「ククッ、気にするなよ」

「りんごは食べたい」

「よし、買おう」

 賑やかに会話をしながら、バスケットに物を詰めているといつの間にかパンパンに膨れ上がった。

「ちょっと買いすぎかも」

「まあ、いいじゃん記念だし」

 スカーレットにそう促されて、店の主の元へ品を持っていく。

(紙が無いのか)

 中年の店主が色々書かれたノートの隙間に数字を書き連ねて計算している姿を眺めながら、品物が不足していることを肌で感じていた。

 買った素材を抱えて湖畔に向け歩み続ける途中、色々雑談を重ねている中、スカーレットは姉のことに触れてきた。

「うちの姉?」

「そう不快そうな声を上げないでくれよ。 純粋に気になるんだ、どんな人なのかと」

 スカーレットは微笑みながら口にしたが、海の今までの付き合いの中でこのような態度を見せたことが無かったため多少驚いた。

(彼女にとって姉は特別らしい)

 海はそう悟り、心の中で襟を正して歩幅を縮めてスカーレットに顔を向けた。

「姉は、小さなころから優秀だった」

 海は視線をミアに向ける。

「とても負けず嫌いで......テストの結果、運動の勝敗......あらゆることで負けるのを嫌がった人だった」

 ミアが重そうな荷物を必死に抱えている。

「ミア、持とうか」

 見かねたスカーレットが声をかける。

「うんしょ、うんしょ、大丈夫」

 ミアは首を横に振った。

「姉は出来ないことをそのまま受け入れるのを嫌い、出来るまで努力し克服してきたからなのか、天真爛漫であるがままの自分を受け入れる母や無理なことを諦める俺には厳しくあたることが多く、正直仲は良くなかった」

 海は視線を遠くの山々に移す。

「姉は爺さまを尊敬していて戦術問答などを行い、負けず嫌いな姉はしばしば爺さまを打ち負かすことがあった」

「それは、すごいんじゃないのか」

 興奮するスカーレットに海は静かに首を振り言葉を続ける。

「周りの反応も皆そうだった」

「が、爺さまはそんな姉を苦々しく思い、その度に苦言を言い、警告を繰り返したんだ」

「なぜ?」

 スカーレットは釈然としない思いを言葉に乗せてぶつけてきた。

「爺さまにとって姉はとても危うかった」

 海はため息をつきつつ言葉を続ける。

「一点目は実戦を行ったことが無いのにも関わらず、机上の理論で分かったような口ぶりで語る事、二点目は周りの助言や苦言を受け入れないこと」

「それは、イエスマンばかり周りに配置するということか?」

「いや、姉はゴマをする人間を蛇蝎のように嫌うし天狗になる人間じゃない」

 海の顔がどんどんと険しくなる。

「姉はさっき言ったように自分は努力を惜しまない分努力をしない、出来ない人間に厳しすぎるんだ......でも人間ってさ、そんなに強い人間ばかりじゃないだろう」

「反発するわけか」

「そう、出来ない人間が反感をもつだろうって......それが三点目」

「そうは言っても実戦形式の演習の成績は良かったんだろう」

「ああ、良かったとのことだよ」

「なら」

「演習はチェスや将棋のようなもので、敵味方の現状――天候・補給・地形・兵士の士気や訓練度・感染症などを想定しきれていないし、下手をすると兵器の質の上下さえも想定にいれていなかったりするから」

「それがあなたのお爺さんの答え?」

「そう、その上周りを黙らせようと背伸びをしてしまうところが危ういって」

「そういわれるとたしかにな」

 スカーレットは神妙そうな面持ちをする。

「別に姉が嫌いで失敗して欲しいなどではないのでそこは勘違いしないでほしい」

「大丈夫、隊長の性格が悪くないことは分かっているから」

 そう言って不敵な笑いを浮かべた。

「今回は相手が悪いから」

「コヨーテ、エルウィンだろ」

「なんせ相手は、ボナレオーネ一世以来の天才だって人間だし」

 カール王国の名戦術家の王の名前を出す。

 話しながら歩いていると湖畔のテーブルが見えてきた。

「おおーい、買ってきたぞ」

 座って雑談していたケイトと夏子が反応し手を大きく振ってきた。

「お待たせ」

「何買ってきたの」

 二人は興味津々にバケットを覗き込んだ。

「魚に、野菜、パスタにコンソメ......スープにするの?」

「魚は焼こうと思って」

「ふーん、あっジュースだ!」

 かごからひったくるようにオレンジとアップルのジュースを取り出しテーブルの方へ駆け出した。

「おい、転ぶぞ」

「だいじょーぶ」

 スカーレットの忠告をケイトは聞き流し、テーブルまで一直線に駆け抜ける。

「ふふん」

 ケイトと夏子は各々のコップにジュースを注いでいるのが見え、それをミアが少しばかり不満そうに見ていた。

「ミア、荷物を貸して」

「いい、自分が持っていく」

 海が心情を察して声をかけるも、そこは頑として譲らずに最後まで荷物を持っていくつもりのようだ。

「一人前だと認めてもらいたいんだよ」

 スカーレットは微笑みながら海に語り掛けた。

「遅いですよ」

 ダリーが悪戯っぽい口調で文句を言う。

「悪い悪い」

 小さなかまどには金属の鍋が置かれ、中には沸騰したお湯が材料を今か今かと待ち構えていた。

「もう、焦って薪をくべたんですよ」

「じゃあ、急いで材料を調理するか」

「あ、包丁はテーブルの所、水もそこにあります」

「おおぉ」

 ダリーの手際の良さにスカーレットは驚いていた。

「魚の内蔵抜いて、終わったやつから串を刺していって」

「わかったやってみる」

「包丁をいれて、出すだけだよ。 大したことじゃない」

「私も手伝います」

「いいって、今日の歓迎会の主役なんだから座って待ってて」

「そうですよ、僕たちがやりますから」

 手持無沙汰で日本人形のようにちょこんと座っていた佐那が立ち上がり手伝おうとするも、スカーレットとダリーから止められてバツが悪そうに座りなおした。

「コンソメのブイヨンキューブを適当に入れといて」

「おりゃー」

 ケイトが勢いよくキューブを放り込んでいく。

「ちょ、おま、入れすぎ」

「何でそんな大量に入れるのですか? 加減を考えてください」

「夏子ウルサイ」

「ケンカするなよ」

 トントントントン

 テーブルではまな板と包丁が奏でるリズミカルな音が響いてくる。

「おたまでとれるかなぁ」

「無理でしょう」

「やってみる」

 ケイト、夏子、ダリーでわいのわいの騒いでいる所にスカーレットが首を突っ込む。

「とりあえず、アクを取って」

「よいしょ、よいしょ」

「ミアはおりこうさんだね」

 嬉しそうにミアが笑う。

「ダリー、鶏肉を炒めるからフライパンとって」

「はい、了解」

 サッと油をひき、トングを使って一口大に切った鶏肉を炒め始める」

「魚を火の周りに刺しといて」

「まっかせて」

「肉がきつね色をまとってくるころ、鍋から段々とコンソメの匂いが漂ってきた。

「はいはーい、炒めた鶏肉から入れていくからね」

「スカーレットは手際がいいね」

「料理屋の娘だからね。 親の手伝いが鍛錬だっただけだよ」

 たまねぎ、にんじんなどの根菜類を入れ、アクを取りながらしばらく煮込み、マカロニみたいなパスタを放り込む。

「そろそろかな」

 スカーレットはそういうとキャベツなどの葉物を入れていく。

 そのころには、鍋からとても香ばしいにおいが溢れ出て嗅覚を通じ各々の空腹を自覚させられた。

 鍋からおたまでスープをちょいとすくいあげ、小皿に落とす。

「......」

 スカーレットは目を閉じながら小皿の中身を軽く口に含み、ゆっくりと目を開け「まあこんなもんか」と小さな声を出した。

「わぁ」

 スカーレットの言葉を合図に周囲は創作物を器に収める最終工程に乗り出す。

「さあてと完成だ」

 セッティングを終えて、各自椅子に腰かける。

 テーブルにはナイフとフォーク、それにコンソメスープの入った大皿に焼き魚の乗った中皿、最後に各自が注いだ飲み物が所狭しと並べられた。

「いただきます」

 一同誰が言ったでもなく自然に口にあがった。

 しばらく雑談を交えながら食事を取っている中、酔いが回り始めたのもありスカーレットが海に問いかけてきた。

「どうしたんだい」

「この大戦がさ、分からないことだらけだから教えて欲しいと思ってね」

「あっ聞いてみたい」

 ケイトが声を上げる。

「それで、何を聞きたいの」

「まず、カール王国が滅ぼされたあたりからいいかな」

 そう言ってスカーレットは照れ隠しに鼻を掻いた。

「カール王国は民主制が一番進んだ国だったことは知っているよね」

「それは、知ってるぞ」

 潤太郎が頷きながら口を開いた。

「だからこそ、財政赤字のために軍事予算が取れず、装備が若干古くその装備すら数が足りなかった」

「......」

「数が足りないなら夏子ならどうする」

「それは、守る場所を絞りますわ」

 いきなり話を振られた夏子は驚きながらもそう答えた。

「そうだね、だからプロイデンベルグはヴィナーレ山脈沿いに軍を進め、カールの平野に出た時には周りに敵はいなかった......カール軍はそれぞれの前線にいたからね」

「カール軍はどうなったの」

「国王が逃げて、カールが占領されたあと、貴族、民衆かかわりなく国の再興のためにスチューザンの援軍を得て戦っていたのだが、集中と迅速さに勝ったプロイデンベルグ軍にカール軍、スチューザン軍とも各個撃破されるにいたって、降伏した者もいれば同盟国のスチューザンに逃げた者もいたとのことだ」

「カール王国の生き残りならあったことがあります」

 佐那が落ち着いた口調で話す。

「その後しばらくプロイデンベルグは周りの従わない貴族達や自由都市群を攻め落としつつ、他国の不穏分子に援助をしていたのとことだ」

「援助?」

 ケイトが不思議そうに首を傾げた。

「そう、翔陽でも、西 孝輝にそれとなく接近し上手く扇動した形跡がある」

「その西さんという人はどうなったのです」

「反乱の首謀者容疑で銃殺刑になったはず」

 ケイトの問いを夏子がしたり顔で答えた。

「まあ、本当の反乱が起こったのは翔陽ではないけれども」

「反乱?」

 ダリーが不思議そうな声を上げた。

「そう、スーズルカ公国でカイヤノフとボリツキーが革命戦争を起こすと、プロイデンベルグはこれを軍事的に援助して革命軍を一時的に勝たせたんだ」

「何で革命なんて起こしたの」

「貧困、思想、権力欲など色々あるけど、一番は民主制が一番遅れていたからだと思う」

 海は喉を潤すためウィスキーが入ったグラスを口元へもっていった。

「その後、スーズルカ公国のニコラエヴィッチ一族を殺害したことを理由にプロイデンベルグは軍事介入をした。 カイヤノフとボリツキーは逃亡したとか殺されたとか言われているが真相は分からないそうだ」

「たしか、プロイデンベルグはスーズルカの公位に親族を入れたんでしたっけ」

「そう、元々ニコラエヴィッチ公とルードヴィッヒ皇帝は遠い親戚だから、シックルグルーパー候というルードヴィッヒ皇帝の親族を送り込んだんだ」

「だが、ここで少々誤算が起きる」

「誤算?」

 ケイトが聞き返してくる。

「そう、ニコラエヴィッチ公の娘が生きていたんだ」

「レクタシア公女。 警備兵の決死の働きで

城を脱出したのち、駆けつけた騎兵隊隊長のヴァルコフに遭遇して守られながらプロイデンベルグの手の届いてない東に逃げたんだ」

「逃げてきた公女を保護したのが、バハロストック辺境伯アレクサンドル、公女が公国を継ぐべきだとして直ちに挙兵、周囲の貴族や地主も呼応し、公国は二つに分かれたることになった」

「バハロストック辺境伯ってどんな人」

 何かが彼女の中で引っ掛かったのだろうかケイトの突然の問いが飛び出した。

「雪国育ちからなのか我慢強く手堅いと聞いたことがある」

「へえ~そうなんだ」

「その後、冬が訪れたこともあって、ルードヴィッヒ皇帝はスチューザン領の砂漠の国ビリアとラムセスに目をつけてエルウィンに第七・十五・二十一装甲師団をつけて向かわせた」

「流砂のコヨーテですね」

「ああ、旧カール王国領のナイジェに上陸したあと、ウルージ・ハイレディン・アイディンの諸都市を抜いてビリアに突入、港町のポリトリを取るとオコンヨー大将の籠るブルクドを包囲、スチューザンのリッキー中将の援軍で撃退されるもポリトリまで下がりアエネアス十師団、魔導車師団と本国から送られてきた四号魔動歩兵を加えキレナイヨでの野戦で勝利してブルクドを突破した」

「何で直接ブルクドに上陸しなかったのでしょうか」

 夏子が首をかしげた。

「敵全上陸は反撃を受けて危険だからね」

 海の回答に合点が行ったようで夏子が深く頷いた。

「ラムセスに入りそのままエル・アライメントまで進出するも、ヘラクレンドリアのパイソン軍団長は、メリアン連合国からレントリースで得た新型の機動歩兵M4テムカセと少量のM5クロウフォードを表に出しホープ第一・二歩兵師団やムグル第五・十歩兵師団などかき集めた師団と共に、数と兵器の質で圧倒し押し返した」

 何か思い出したのだろう、先ほどまで視線をこちらに合わせていたケイトが、いつの間にか遠い目で空を眺めていた。

「それを知った皇帝ルードヴィッヒはエルウィンに詫びを入れ、新型のヤグアル重魔導歩兵とヴィルトカッツェ中魔導歩兵を雪解けの後バハロストックに向かわせようとしていた部隊から半数を引き抜きラムセスへ回し、残りの半数は当初の予定を変更して、マイシャタイン司令官の元、新たに加わったスーズルカの機甲師団のバグロフ、ウラチェンコ、ドルーヒンを加え、背後を突くべく南下させ、結果的にエルウィンによって釣りだされ手薄になっていたパールサに侵入しティーフラリス川を越えてパルサポリスを占領し背後を脅かすことに成功した」

「本当に隙を突かれた形だったな」

「そうですね、あまりにも早く展開するものだから正直着いていけませんでしたよ」

 スカーレットとダリーがお互い困った笑いを浮かべて言い合った。

「このままでは補給が滞ることと挟撃されることを危惧したパイソン大将は物資が有るうちに、再びエル・アライメントでエルウィンを叩き、返す刀でパルサポリスの敵を叩く作戦を立ててエル・アライメントまで進出したものの、すでにエルウィンは地雷や魔法壁などで陣地を固め持久戦の構えを見せ、正面より攻撃してきたパイソン将軍の部隊を五十二ミリ砲の集中運用で魔導歩兵を撃破しつづけた」

 ケイトが寂しそうな表情を見せる。

「パイソン大将は現状を打開しようと左右より側面を突かんと四つの連隊を出すも、エルウィンに読まれてそれぞれが不利な形で攻撃を受けることとなった」

 海はウィスキーで一息入れて再び会話に戻る。

「二日後、今度は逆にエルウィンが温存していた三部隊を迂回して背後を突くよう動かして一隊はムグル師団に見つかり足止めを食うも残りの二部隊は回り込みことに成功して補給線を遮断しつつ攻撃を開始した」

「このままではすべてを失うと考えたパイソン将軍はヘラクレンドリアにいるスチューザン人および関係諸国の非戦闘員を船に乗せ出向させた後、守備部隊をすべて呼び寄せて背後の二部隊を挟撃して蹴散らすと同時に前線から部隊を徐々に下げ、海沿いにホープ方面に退却を開始して、ドラゴンサンダー山脈沿いを要塞化して待ち構えたものの、エルウィンはヘラクレンドリアを占領したのみで南下してこなかった」

「どうして追撃してこなかったのです?」

 佐那が目を丸くして海に尋ねた。

「それは、新たに出されたアレク大王作戦のために東に兵を進展させたからだよ」

「アレク大王?」

 潤太郎が声を上げる。

「作戦名となったアレク大王は古代アテルタやスパイヤなどを従えたカチドニア王国の王でアエネアスからパールサ、ラムセス、ムグルの一部まで版図を広げた英雄だな」

「ルードヴィッヒ皇帝にとってもカチドニアは文明の祖である意識が働いているのもあって熱意が相当入っていたんだろうね、自然その熱意が下に伝わり純度の高いアルコールのようにプロイデンベルグの群衆を酔わせたのだろう」

 海はすっかり冷めてしまったスープを胃へ流し込んだ。

 それを見た周りもつられてスープに手を付けた。

「だが、そのおかげで雪解けしても侵攻する兵力が整わず、バハロストック辺境伯は時間を稼ぐことができ、翔陽に援軍を要請して、山上元帥指揮の七個師団を派遣してもらうとともにメリアンからレントリースで武器を送ってもらい迎撃態勢を整えられた」

「スチューザンにとっては不幸でもバハロストックにとっては幸運だったのですね」

 佐那が微妙な笑いを作った。

「その後、アレク大王作戦がそれなりに成功し、意気揚々とバハロストックに侵攻するもバンガラ湖からレナセイ川沿いに築かれたいくつもの砦を突破できずに膠着状態に陥ったんだ」

「シロパトキンとヴァルコフそれにトールキンですね」

「その様子を見たエルウィンはすかさず皇帝にコービー砂漠を突破し背後を突く作戦を献策したんだ」

「本当に抜け目の無いヤツだよね、エルウィンって」

 ケイトが元気に悪態をついた。

「皇帝としてもビリアの砂漠で勝利した実績を鑑みてエルウィンに作戦に許可を出した」

「そこでお姉さんの登場ですね」

 ダリーが珍しく冷やかしを入れてきた。

「まあ、そうなるかな、メアリー女王の鶴の一声で大抜擢されたわけだから」

「何でなんでしょうか?」

「権力闘争の一環の様で、女王としては女性の指令官を増やしたいのと、スチューザンとしては恩を売って翔陽の中にコントロールできる人間を作りたいと言うことらしい」

「色々あるんですね」

「そうだね」

 その後、しばらくみなの会話に花が咲いたのち、日が落ちるころにはお開きとなった。

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