第4話 記憶

「そうですね」

 こちらもつられて笑う。

「じゃあな。お互い生きて帰ろう」

「死なない程度に頑張りなさい」

 スチューザンの一団はそう言って離れていった。

 そのまましばらく上空を警戒していると、攻撃隊からの通信が入ってきた。

「敵ラ・マルドー港敵艦隊あり。これより攻撃に移る。ザー」

「ザー、敵迎撃騎と交戦中」

「潜水艦撃沈」

「ウッ、どうやら戻れそうにない。エリス、さようなら。俺の事は忘れてくれ」

(軍港を攻撃したからには敵の第二派が来るかもしれない)

 気を張り詰めて警戒するも敵は来ず、そのうち攻撃隊がポツポツ戻ってきた。

 出撃した人数から見ると、かなり少なく感じる。

(隊長も三上も行方知らずだしな)

 海は小さなため息をついた。

 戻ってきた攻撃隊がよろよろと着艦していく。

 太陽は地平を登り切り、赤から黄色い光に代わっていた。

 任務を終えて雲鳳に戻ってみると、行方が分からなかった三上が、松葉杖を突きながらこちらに近づいてきた。

「おい、どうしたんだ」

 驚いてそう聞く海に対し、三上は恥ずかしそうに頭を掻いて乾いた笑いを浮かべ、「やられた」と小さく答えた。

 三上は、命には別状なく、足を撃ち抜かれたことによるケガで数週間ほど治療が必要らしいと淡々と答えた。

「ところで三上、隊長はどうなったか知らないか」

 聞いてみるも、三上は無言でかぶりを振った。

「......そうか」

 海は隊長の姿を思い返して視線を上げた。

 自分のホウキを担当の整備兵に引き渡し、休憩所へ向かう途中、不意に館内放送が聞こえてきた。

「湾口入り口の輸送船撃沈のためしばらく使用不可。湾内の潜水艦ほぼ撃沈。敵飛行場魔銃掃射にて撃破多数。味方の損害大なれど作戦は成功である」

「ばんざ―い、ばんざ―い」

 遠くから威勢のいい声が聞こえてくる。

 休憩所に入ると、興奮気味に戦果を話すもの、コクリコクリと眠っているもの、仲間がやられたのか沈んでいるもの様々な人間がおり、酒の匂いと混じりむわっとした空気を醸し出していた。

 空いている席を探し、部屋隅の席に腰を掛けた。

 ギィ

 軽くきしむ音が響いた。

 飛行帽を顔の上に乗せ目を瞑ると、つい先日隊長と話した内容が頭の奥から湧き上がってきた。

「あれ、隊長......その人は」

 食堂に入ると一枚の写真に優しい視線を注いでいる隊長に声をかけた。

「ああ、家内だ。身籠って体調が悪いとの連絡を受けて心配していたのだがな、先日無事に生まれたらしい」

「おめでとうございます」

「ありがとう」

 隊長は半身をこちらに向け微笑む。

「我が子に早く会いたいものだ」

「男の子ですか、それとも女の子」

「わからん。家内としては手紙で教えるのではなく、戻ってきてから私に確認して欲しいみたいなのだ」

「寄港が楽しみですね」

「ああ、そうだな」

 帽子を掴み机に置く。

 机の上に置いてあるサイダーの瓶を引き寄せる。

 シュポ

 備え付きの栓抜きで王冠を飛ばし、渇き切った喉にサイダーを流し込む。

「ふう」

 今日起こった様々な出来事を思い返した。

(荻野隊長)

 色々と思いを巡らしている内に疲れからか段々と瞼が下がってきた。

 そしてそのまま深い眠りにいざなわれた。

「ウーン」

 目を覚ますと、あれだけいた天空騎士たちは自室に戻ったのか周囲は閑散としており、遠くから食器を洗うカチャカチャという音だけが聞こえてくる。

「んんー」

 ゆっくりと一伸びをして、やかんに入ったお茶をコップに注いだ。

「ふう」

 ゆっくりとお茶を飲んでいる間に徐々に頭が覚醒してきた。

「甲板に行くか」

 席から立ち上がると体の節々からの鈍い痛みが伝わってきた。

「椅子で寝たからな」

 軽く腕を回しながら歩き出した。

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