求有生命(きゅうあるこーど)

菜乃花 月

求有生命(きゅうあるこーど)

「求有生命(きゅうあるこーど)」


勇者(女):色々あるけど病まない。病まないから色々あるのかも

占い師(女):話を聞いてくれる優しい人


タイトルは「きゅうあるこーど」って読みます


―本編―


勇者:「ねぇ、『占い師さん』。聞いてくださいよ」


占い師:「・・・なんですか『勇者』。またSSRを引いたんですか?」


勇者:「そうなんですよ~!この気持ちを占い師さんにも共有したいと思って今日呼んだんです」


占い師:「そんなことだろうとは思いました。あなたは無料ガチャでSSRを引く女ですから」


勇者:「親切設計ですよねえ。こんなにも最上級レアが出るのもどうかも思うんですよ」


占い師:「私に対してでさえ、敬語になるくらいですからね。相当のレアなもんだったんでしょう」


勇者:「あー、うん。そう、なんだよ」


占い師:「今回は何を引いたんですか」


勇者:「えっとね、前に魔法使いの話をしたでしょ」


占い師:「魔法使い」


勇者:「ほら、一人で森に行った」


占い師:「あー、行動力のネジが他人と違うと噂の」


勇者:「そうそう。この前、魔法使いの家に行ったらたくさんのポーションあってさ。まぁ、魔法使いだから当たり前なのかなぁ、なんて思いながら座ってたら、魔法使いに言われたの。「それ、気になる?」って」


占い師:「同人誌ならいけない展開になりかねない流れですね」


勇者:「先に言っておくと襲われてないから安心して」


占い師:「あぁ、よかった。これから勇者の初体験の話を聞く流れかとヒヤヒヤしました」


勇者:「これから話すことはある意味、初体験ではあるんだけど・・・」


占い師:「えっちなやつなんですか?!」


勇者:「違うよ!!まだだよ!!!」


占い師:「ふむ、解釈一致です。勇者は好きな人に愛されてほしいですからね。もうでろでろに愛されてほしい」


勇者:「あんたそういうキャラだっけ?」


占い師:「だって!!あまりにもあんたがSSRばかり引くから!!私はあんたに幸せになってほしいんだよ!!ほんとに!!」


勇者:「う、うん。ありがとう」


占い師:「(咳払い)すみません、思わず素が出てしまいました。なんでしたっけ、勇者の幸せな結婚式の話でしたっけ」


勇者:「そうそう、せっかくなら占い師さんにスピーチ頼みたくって、って違うよ」


占い師:「違うんですか。じゃあ魔法使いが結婚する話ですか」


勇者:「それも違う」


占い師:「じゃあ私と結婚したいって話ですか?!」


勇者:「どうして?!」


占い師:「やだなぁ、それなら言ってくださいよぉ。真面目に考えるのでお返事には2週間ください」


勇者:「期限が本気だ。違う違う、あんたとなら幸せな時間過ごせる自信あるけど、今日はそうじゃなくって!」


占い師:「今さらっと口説かれました?もー!そういうとこですよ勇者!」


勇者:「全然話聞いてくれないなぁ?!私の話聞きたくないの??」


占い師:「いや、その、勇者のSSRって本当に激レアだから先に空気を和ませようかなと思いまして・・・」


勇者:「あー、うん。いつもありがとうね」


占い師:「こっちも聞いてもらってるのでお互い様です。それで、魔法使いがどうかしたんです?」


勇者:「えっと、「それ、気になる?」って聞かれて「はい」って答えたら「私って鬱病なんだ」って言われて」


占い師:「なるほど」


勇者:「どうやらたくさんのポーションは鬱を治すための薬みたいで、「いつも飲んでるんだぁ」っていつもと変わらない調子で言われたの」


占い師:「魔法ではどうにもできないですもんね」


勇者:「うん。鬱ってわかる前、自殺しようとしたんだって。1回目は包丁で自分を刺そうとしてできなくて、2回目は餓死で死のうとしたらしい。それで思ったよね、森に行ったのも終わらせるためだったんだって」


占い師:「今、魔法使いは」


勇者:「元気にしてるよ」


占い師:「そうですか」


勇者:「で、本当に話したいことはここからなんだけど」


占い師:「今のじゃないんですか?!しかも絶対これよりレア度高めのやつ来るじゃん!!」


勇者:「まぁ、そう・・・かな」


占い師:「怖い怖い怖い。あなたのその感じ本当に怖い。やめてくださいね、その魔法使いに心中しようと言われたから実行しようと思うんだとかやめてくださいね?!」


勇者:「そうなったらあんたには言わないで死ぬよ」


占い師:「まず死なないでほしいんですよ。あなたと老後まで一緒に過ごすって決めてるんですから」


勇者:「プロポーズ?」


占い師:「本気で思ってますよ」


勇者:「うん、知ってる」


占い師:「なんなら私より長生きしてほしいまであります」


勇者:「それはどうかなぁ」


占い師:「えぇ!?何でそんな不安になる事言うんですか!?」


勇者:「人っていつ死ぬかわからないじゃん」


占い師:「・・・そうですね」


勇者:「生きてるだけで奇跡、とかよく言うけど本当にその通りだなぁって」


占い師:「・・・何があったんですか」


勇者:「遊び人が人を殺した」


占い師:「・・・っ!」


勇者:「遊び人なのかな・・・、盗賊か?僧侶とかではないから・・・。やっぱ遊び人かな」


占い師:「遊び人が人を殺したってどういう・・・」


勇者:「最近掲示板に大きく貼られてる事件あるでしょ」


占い師:「・・・あ、学校のやつ?ニュースにもなってた」


勇者:「そう、あれの犯人捕まったじゃん」


占い師:「捕まりましたね」


勇者:「それ」


占い師:「は?」


勇者:「その事件の犯人、遊び人だった」


占い師:「・・・はぁーーー。あなたって人はどうしてそんなに斜め上のSSRを引くんだ」


勇者:「私だって驚いたよ!事件が起きたんだなーくらいに思ってたら、同じパーティーの遊び人が犯人だって知ってさ」


占い師:「魔法使いは自殺未遂して、遊び人は殺人を犯して。人生のビンゴカードの難易度Sを選んだんですか?」


勇者:「これで私が自殺か殺人すればビンゴかな」


占い師:「笑えないよ」


勇者:「ごめん」


占い師:「えーーっと、待ってくださいね。覚悟はしていたつもりですが、想像以上の衝撃なものが来たので戸惑ってます。とりあえず話を聞いてもよいですか。聞きながら理解します」


勇者:「わかった。事件のことは知ってたけど、犯人のことは何も知らなかったんだ。知ってる場所で起きてるなーくらいだったの」


占い師:「はい」


勇者:「昨日、同期と飲んでたらその話になって犯人が遊び人だって知ったんだけど、実感なくて。人を殺した?あの遊び人が?って。調べたら知ってる顔と名前が出てきてさ、あー・・・本当なんだって思った。そっから何をするにも気が重くて」


占い師:「そりゃあそうでしょうね」


勇者:「自分は何もしてないし、被害者の顔も知らないのに胸が苦しいんだ。遊び人が殺人犯になったって事実だけが抜けなくて、考える度に黒い靄が広がって吐きそうになる」


占い師:「私の予想が正しければ、あの事件って結構エグめでしたよね。遺体は全裸で片腕はない状態で見つかったっていう・・・」


勇者:「そうだよ」


占い師:「うわー・・・」


勇者:「その事件きっかけに色々考えちゃってさ。どうして遊び人は殺しちゃったのかなとか、私に何かできることはあったのかなとか色々。何かできたってもう遅いんだけど」


占い師:「・・・」


勇者:「そしたら先輩、じゃないや魔法使いが自殺未遂をしたって教えてくれた後に言われたことを思い出したの。「死ぬのって難しいね」って。困った顔で笑いながら言うんだよ。でも、一方で遊び人は人を殺した。一人の命を奪った」


占い師:「・・・人は死ぬ時は死ぬからね」


勇者:「わかってたつもりだったんだけどなぁ。人の死って触れるとこんなに怖いんだって思った」


占い師:「わかりますよ。私も色んな人を見てきましたから」


勇者:「職業的にそうだよね」


占い師:「えぇ。産声が上がってる横で、星になってしまい泣いてる方がいるっていう状況を見た時、生と死って紙一重なんだって実感しました」


勇者:「考えただけでしんどい。そうだよ、生まれることすら奇跡なんだよなぁ」


占い師:「生きてると辛い事が起きますし、思わぬ形で命を落とすことだってあります。当たり前が当たり前じゃなくなることだってある。そうわかってても、いざ自分がそこにぶつかれば不安定になるのは、誰しもそうだと思います」


勇者:「・・・遊び人が人を殺したことが思ってるより自分に刺さってるんだよね。刺さって抜けないの」


占い師:「でしょうね」


勇者:「一生抜けないんだろうなって予感がしてる」


占い師:「・・・占い師的に言いますと」


勇者:「ん?」


占い師:「その予感を言葉にしてるあなたは強いんだと思います。普通ならのまれてもおかしくない出来事に対して向き合おうとしている。そういうとこが好きだよ」


勇者:「へへ、ありがと。こうして話を聞いてくれる占い師さんがいるからなんとか向き合えてる。多分独りだったら耐えられなかった」


占い師:「私があなたを『勇者』って言ったのは前に出れる強さと、周りを受け入れる優しさがあるからですよ」


勇者:「占い師さん・・・。私は何も考えず占い師って言ってごめんね?」


占い師:「お前さぁ!!」


勇者:「ごめんってばぁ!」


占い師:「せっかくいい空気感だったのに、それを壊すやつがいるか!」


勇者:「あ、いや、テキトーに振ったのに意外と考えて返ってきたことに罪悪感が来ましてね・・・」


占い師:「当たり前のように乗っかったけど、びっくりはしてたよ。思ったより長いエチュード始まった上に、衝撃なこといっぱい言われてね?こっちも冷静な顔しつつ大混乱なわけ。わかる?」


勇者:「ですよねぇ~」


占い師:「色々確認していいですか」


勇者:「どうぞ」


占い師:「まず、魔法使いが鬱で自殺未遂をしたってのは本当ですか」


勇者:「はい。私の先輩が鬱になって自殺未遂をしてたらしいです。今は元気そうです」


占い師:「元気なら・・・まぁ、いいでしょう。次!これは嘘であってほしいんですけど、遊び人が殺人犯になったってのは」


勇者:「あの、後輩が殺人犯になりまして・・・」


占い師:「あれですよね?あなたの母校付近で起きた殺人事件であってますか?」


勇者:「はい・・・あってます」


占い師:「後輩っていうのは学校が同じだからっていうざっくり後輩ってことですよね?」


勇者:「いえ、サークルの後輩ですね。一緒に活動してました」


占い師:「お前ってやつは・・・、どうして・・・」


勇者:「私もこの歳で後輩が殺人犯になるなんて思わなかったよ!いやぁ、生きてれば後輩が人殺すことあるんだねぇ」


占い師:「普通ねぇわバカが」


勇者:「あはは、ですよねぇ・・・」


占い師:「あの事件って全国ニュースにもなってたじゃん」


勇者:「らしいね。ほんとびっくり。衝撃の事実を1人で抱えきれなくて、あなたを呼びました」


占い師:「こんなの抱えられる方が嫌だわ。あんたから明日暇?って来て珍しいなとは思ってたけどまさか後輩が殺人事件を起こしてるとは・・・」


勇者:「さすがの私でも無理だった」


占い師:「でしょうな・・・」


勇者:「持つべきものはなんでも話せる親友だね!おかげでなんとか元気だよ!」


占い師:「占い師って言われた時はどうしようかと思ったけどな」


勇者:「こっちも勇者って言われて驚いたよ」


占い師:「元演劇部の血が騒いじゃった・・・」


勇者:「あんたのそういうとこ好き。大好き。愛してる」


占い師:「はいはい。このあとどうする?」


勇者:「エチュード続けるかどうか?」


占い師:「そうじゃない。どこに行くかって話」


勇者:「そういや何も決めてなかったね」


占い師:「行きたいとこある?」


勇者:「んー、水族館行きたい」


占い師:「この流れで水族館か・・・」


勇者:「いや?」


占い師:「なんというか・・・色々考えそうで・・・」


勇者:「あー、そうか。まぁ考えるなら一緒に考えようよ。一人で考えたら病んじゃうよ」


占い師:「ほんとにな」


勇者:「ふふ」


占い師:「ん?何笑ってんの」


勇者:「久々にサリちゃんとエチュードしたなぁって」


占い師:「何年振りだろ」


勇者:「5年振りくらいじゃない?」


占い師:「うわー、そんなに経つか。そりゃあ社会人にもなるわけだ」


勇者:「とりあえずあんたには何振ってもいいってことはわかったので大収穫だ」


占い師:「こっちから振る可能性あるってこと忘れないでね」


勇者:「えぇっ、怖い」


占い師:「ほら、水族館行くよ。火星人」


勇者:「かせっ、・・・ワカリマシタヨ~!ジャパニーズ、ミニ海楽しみデース!」


占い師:「エセ外国人じゃん」


勇者:「ウルセイですよ!行きますよォ!月下美人!!」


占い師:「なにそれむず過ぎでしょ!あ、もう、待ちなさい~!」


―わちゃわちゃしながら水族館に向かう二人―

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