第19話:蹂躙
フィールドの南西で、八刀島、霧峰のチームは深浅と交戦していた。初撃の光線で霧峰の腹を撃ち抜いた深浅は次に八刀島を狙うが、霧峰と八刀島の周りに濃い霧が立ちこめる。
(霧峰を仕留め損なった? いや、間違いなく命中したはず)
濃い霧の中から八刀島の分身たちが次々に飛び出し、深浅に迫る。
(分身能力か。でもみんな丸腰ってことは武器は複製できないってこと? 雑魚ね)
深浅は異能力「光使い」を発動して指先から光線を放ち、八刀島の分身たちを次々に撃ち抜いていく。
(しばらくこの状況を維持して、霧峰が力尽きて霧が晴れたところで八刀島の本体を撃ち抜く。それで私の勝ち)
「霧峰! 今だ!」
深浅の策とは裏腹に八刀島の合図で霧が晴れ、クロスボウを構える八刀島が現れた。
(この実力差で真っ向勝負? いい度胸ね)
深浅が光線で八刀島を撃ち抜く直前、八刀島の左右に3人ずつ、クロスボウを持った分身が現れた。
(まさか! さっきまでのは武器を複製できないと思わせるためにわざと犠牲に!?)
真ん中の八刀島を光線が貫き、同時にクロスボウから放たれた何本かの矢が深浅に突き刺さる。
(そんな……私が分身ごときに……)
深浅はそのまま地面に崩れ落ちた。
「深浅 星、脱落。残り9名」
深浅との戦闘を終え、八刀島は霧峰のところに戻ってきた。
「凛すげぇな。明らかに本体撃ち抜かれたように見えたんだが。どうやったんだ?」
「私の分身能力は本体を分身の1つに移すことも出来るんだよ。消耗が激しくて数回が限度だかな」
「へぇ……」
「霧峰、大丈夫か?」
「内臓やられたし血が止まらない。そのうち死ぬぞこれ」
「そうか……」
八刀島は霧峰に背を向ける。
「このままじゃ深浅のキルになるだろ? 今のうちにおいらを殺せよ」
「嫌だ」
「どっちにしてももうすぐ死ぬって。今のうちに殺せば3万円貰えるよ?」
八刀島の身体が小刻みに震える。
「ほら、中学生に3万円は大金でしょ? おいらなら3万円あったら……」
「うるさい! 私は一度共闘すると決めたら最後まで裏切らないって決めてるんだ!」
「そ……そう」
霧峰は空を見上げる。
「お金目当てで参加したんじゃないの?」
「……どうなんだろう」
「おいらはお金目当てで参加したぞ? あと高ランクのデスゲーマーってなんかモテそうだから」
「クズみたいな理由だな」
八刀島も空を見上げる。
「私は……なんでデスゲームに参加してるんだろう」
しばらく考えた後、八刀島も答える。
「腕があったから使いたいと思った、みたいな?」
「おいらには難しくて分かんねぇな」
「自分で言っといて何だけど、私にもよく分からないよ」
『ゴゴゴゴゴゴ……』
突如大きな音を立て、2人の近くに巨大なゴーレムが出現した。
「何だありゃ! ……痛ってて」
「ゴーレム? 大き過ぎる。高さ20メートルはあるぞ」
ゴーレムはすぐに八刀島や霧峰の存在に気付いた。
『ドンッ、ドンッ』
大きな足音を立てながらゴーレムが近付いてくる。
「霧峰、複合異能力を使うぞ」
「おう」
八刀島と霧峰は複合異能力「炎使い」を発動させて高温の炎を浴びせるが、ゴーレムは構わず進み続ける。
(私たちの炎が効かない……!)
頭上にゴーレムの足が迫ってきた次の瞬間、霧峰は複合異能力を解除し、八刀島を突き飛ばす。
「っ! 霧峰!」
『グシャッ』
霧峰はゴーレムに踏み潰された。八刀島はすぐに立ち上がり、その場から逃れるために走り始める。
(霧峰が死んで複合異能力はもう使えない。今ので武器も失った。何か作戦を考えないと)
ゴーレムは見た目に反して足が速く、すぐに八刀島に追いついた。
(ゴーレムということは東条の創造能力? 本人が近くにいるのか? そもそも見つけ出したとしてどうやって倒せば……)
『ドーーン!』
踏み潰されそうになるが八刀島は咄嗟に飛び退いて直撃は回避。しかし衝撃で飛ばされ、近くの岩に叩きつけられた。
「ぐあっ」
(ああ、もう少しだけ……)
どうにか顔を上げるが、既に頭上に巨大な足が迫っていた。
(もう少しだけ戦っていたい……)
『グシャッ』
八刀島はなす術なく、ゴーレムに踏み潰された。
「霧峰 柏太、脱落。残り8名」
「八刀島 凛、脱落。残り7名」
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