第1話 : 1日目、静かな教室で目覚める

東京、20xx年。空に奇妙な現象が起きた。


いつもの静かで星がちりばめられた夜空が、突然変貌した。地平線から奇妙な光が轟き、本来そこにあるはずのない色彩で闇を切り裂く。魅惑的な緑、震えるような紫、そして空にゆっくりと流れる血のような赤。

オーロラ、本来なら極地でしか見られない現象が、北亜熱帯の上空で傲然と踊っていた。


人々は道行く足を止め、口を開けて頭上を見上げた。何人かは笑い、これはただの美しい自然のショーだと思っていた。


「見て!オーロラだ!ここに!」と、一人の子供が、まるで異質な光で燃えているかのような空を指差して叫んだ。


しかし、彼らの感嘆の裏には、何か間違いがあった。


この現象は一箇所でしか起きていなかったわけではない。数時間のうちにニュースは火のように広まった。オーロラが世界中で出現している。


日本、アメリカ、中国、イギリス、エジプト、シンガポール—地球のあらゆる場所の空が、あり得ないはずの光のカーテンで突如飾られた。科学者たちは困惑し、テレビ局は絶え間なく映像を流し、ソーシャルメディアは荒唐無稽な理論で溢れかえった。


「これはただの強い地磁気嵐だ」と、ある専門家は震える声で言ったが、その目には疑念が隠しきれなかった。


「数日で全て元に戻るだろう。」

しかし、自然は決して嘘をつかない。

あの輝く空は、単なるショーではなかった。それは警告だった。


本当の嵐が来る前の最後のささやき。何人かの人々はそれを感じ取っていた—空気中の奇妙な振動、落ち着かない動物たち、そして地球の内側から来るかのような低い轟音。


そして、そのメッセージは現れた。闇のフォーラムに流れ、突如消えたアカウントから送られた短い文章。


空はまだ輝いている、美しく、そして恐ろしい。しかし、光のカーテンが、全てが変わる前に人類が見る最後の景色になるかもしれないことを、誰も知らなかった。


なぜこれが起きたのか、確かな記録はない。

「これは自然の過ちではない。これは何かもっと大きなものの始まりだ。もしこれを読んでいるなら…生き延びるために努力しろ。」

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—POV:風宮 誠人—

「.......!?」

一つの記憶の断片が、あまりにも速く、しかしあまりにもリアルに、目の前をかすめた。朝の光が肌に触れるように、暖かく、優しかった。もう一度感じた。彼らの温もりを。


「お誕生日おめでとう、セイちゃん!」

母の笑い声が、小さな食卓に響く。薄暗い照明と、オーブンから出したばかりのバニラケーキの香りが部屋を満たしていた。父が向かいに座り、一日働いていつも疲れているはずの目が、誇らしげに輝いていた。


「もう16歳か」と、彼は僕の肩に手を置きながら言った。「もう子供じゃないな。」

僕はうなずき、父が教えてくれたように毅然と振る舞おうとした。


しかし、その裏には震えるような恐怖があった。大人になるってどういうことなんだろう?彼らは徐々に離れていくのだろうか?悪夢を見たとき、まだ母の腕の中に駆け込めるのだろうか?


素朴な誕生日ケーキがテーブルの真ん中に置かれ、星のように瞬く小さなキャンドルで飾られていた。僕たち三人だけだった。賑やかさも騒がしさもなかった。でも、それで十分だった。これが、すべてが変わる前の最後の瞬間だった。


「さあ、ロウソクの火を消して!」母が子供のように興奮して手を叩きながら叫んだ。


僕は深く息を吸い込んだ。心の中で、祈った。「この温かさが終わらないように。たとえ僕が大人になっても、彼らがそばにいてくれますように。」


「ふーっ!」


僕の肺からの空気が強く吹き付けられ、ケーキの上の炎が全て消えた。一瞬の暗闇が訪れ、彼らの拍手が静寂を破った。


「私の息子も大きくなったわ」と、母は震える声で囁いた。彼女の目が潤んでいるのが見えた。


父はただ微笑んでいたが、僕は知っていた—彼が語られない言葉をたくさん心に秘めていることを。おそらく誇り。おそらく僕と同じように、同じような心配。


しかし、その時…その声が聞こえてきた。


「セイちゃん…セイちゃん…」


母の声が、時間という廊下に沈んでいく反響のように、だんだんと遠ざかっていく。僕の視界がぼやけ始めた。さっきまであんなに鮮明だった彼らの顔が、雨に濡れてにじむ絵のように、ゆっくりと薄れていく。


「いや…やめて!行かないで!」


僕は手を伸ばし、ますます薄れていく彼らの影を掴もうとした。しかし、僕が掴んだのは冷たい空気だけだった。闇が四方八方から這い寄り、あらゆる光、あらゆる記憶を飲み込んでいく。


「まだ心の準備ができてないんだ!まだ君たちの抱擁を感じたい!まだ父さんの寝る前の話を聞きたい!僕は—!」


しかし、僕の声は闇に飲み込まれて消えた。そしてついに…僕は落ちた。


底なしの淵へと落ちていく。そこでは、記憶の残骸がゆっくりと消えていく光の破片に変わっていった。家の温もり。誕生日ケーキの香り。母の笑い声。父の手に握られた感触。


すべてが蒸発し、骨まで凍えるような冷たさに置き換えられた。


そして、残ったのは自分自身の最後のささやきだけだった。


その闇の中に閉じ込められた時、僕の心臓は激しく鼓動していた。まるで肋骨を突き破って、今にも毎秒爆発しそうだった。


その闇は普通ではなかった—それは生きていて、呼吸し、肺に這い入る厚い煙のように広がっていた。僕は叫ぶことも、動くこともできなかった。ただ、耳元で何かが囁く風の音だけがあった…僕の血を凍らせる何か。


「はっ…はっ…はっ…!!!」


僕は息を切らしながら目を覚ました。胸が荒々しく上下し、まるで周りの空気が空虚に吸い尽くされたかのようだった。心臓はあまりにも激しく鼓動し、まるで静けさを打ち破る戦太鼓のようだった。冷たい汗がとめどなく流れ、肌を濡らし、警戒心が蝕んでいく痕跡を残した。


まだ感じていた—その危険はまだ去っていなかった。


「うっ…痛い…」


頭がズキズキと痛み、頭蓋骨の中でゆっくりと回転する短剣のように鋭い痛みが突き刺さる。ゆっくりと、僕は周りを見回し、自分がどこにいるのかを理解しようとした。


ここは僕の教室だ。


しかし、僕が覚えているものとは違った。

黒板には白いチョークの落書きがいっぱいだった。まるで誰かが、僕には理解できない言語で狂ったメッセージを書いたかのようだ。本は散乱し、ページは剥がれ、踏みつけられていた。まるで目に見えない何かの暴れん坊の犠牲になったかのようだった。机と椅子は奇妙な位置に投げ飛ばされていた—計画された混乱。


そして匂い…古い鉄の匂い、埃、そして何か甘い…甘すぎる何か。


天井のライトが薄暗く点滅し、部屋の隅で勝手に動く影を映し出していた。僕はこめかみの汗を拭い、自分を落ち着かせようとした。


これは普通だ。ただの教室だ。


でも、なぜすべてが間違っているように感じるのだろう?

僕は窓の方を向いた。


夕焼けの空が燃えていた。


太陽が西の地平線にぶら下がっている。まるで開いた傷のように赤く、あまりにも熱く、あまりにも鋭く感じる黄金の光を滴らせていた。黒い雲がゆっくりと動き、地平線の残りの光を覆い隠そうとする巨大な指のようだった。


「チク。タク。チク。タク。」壁の時計が時を刻む。

短い針は6時を指している。長い針は11時を指している。


18時55分。


もう遅い時間だ。


しかし、なぜ音がしない?足音も、他の生徒の声も、終業のベルもない。ただ僕だけ、この部屋だけ、そしてゆっくりと血を流す空だけだった。


窓の隙間から風が吹き込み、僕の鳥肌を立てさせる冷たい音を立てた。空気は重く、まるでここにいるべきではない何かで満たされているかのようだった。

僕は帰らなければ。


—To Be Continued —

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