夢創館シリーズ 聖徳太子は存在(い)なかった。
夢乃みつる
第1話 再 会
「久しぶり」
「五年ぶりかしら」
「そんなになる?」
夢みランドが感染症の流行で閉館となって早五年が過ぎた。
小夜子の叔父小出蔵之助が、公式ではないが
そこで小夜子は彩香と五郎に連絡し、東京駅の待合場所で五年ぶりの再会となった。
夢創館の閉鎖はシステムの不具合の為ばかりではなく、密室で夢を観ることによって新たなるコロナ感染の増幅に為りかねないとの指摘を受けての閉館であったが、一類から五類に変わったことで感染の広がりや症状による外出制限、飲食業の時間制限も撤廃されて、大概の制限が緩和されたのである。
三人は久々の再開にどんな夢を見ようか話が弾んでいたが、そこへ駐車場の入り口付近から手を振る人があった。
何とアドバイザーの松平直道だった。
この日の送迎車の運転とアドバイザーを担当するようだ。
その前に、車内での飲み物を買いに行ったようで、スーパーバックに缶コーヒーやペットボトルが入っていた。
「殿様お久しぶりです」
彩香は楽し気に挨拶すると、その買い物袋を受け取ってサッサと送迎車に乗り込む。
「彩香さんは変わりないわね」
と小夜子。
「世の中がどうなっても彼女は変わりないんじゃないですか」
五郎は松平と小夜子に、コロナ禍で如何に退屈に過ごしたかを訴えるのだった。
「それはみんな同じだったと思いますよ。私たちも研究室から出歩くことは無かったですからね」
松平直道はごく少人数の為研究に於いて特に影響はなかったが、必要以上の出歩きはしなかった。
だが小夜子の様な観光業は真面に影響を受けたのである。
「お客様がいらっしゃらないので仕事になりませんでしたわ」
「ずっとお休みだったの、いいわね」
「そんな訳ないだろう」
「何で五郎ちゃんが怒るのよ」
彩香の相変わらずの不躾な問い掛けに、五郎は態と怒って見せたのだった。
「それじゃランドに行きましょうか」
松平は運転席からマイクで道路状況や到着時刻等をアナウンスすると出発した。
「今日は何を見るの?」
彩香は煎餅を頬張りながら誰とはなしに問い掛ける。
「古代史かな…あっ可笑しいか。古代だな」「五郎さん古代って何時頃のこと?」
「奈良時代とかその前の古墳時代とか?」
「その古墳時代という言い方ですけど…。御免なさい本題から逸れてしまうかも知れませんが縄文時代とか弥生時代なら分るんですが、現代から見れば確かに古墳と言えるけど、古墳を築いた時代とするのは可笑しいと思いませんか。敢えて言うなら墳丘墓構築時代とか」
「良いですね小夜子さん。おっしゃる通りですよ」
松平直道がマイクのスイッチを入れて話に加わって来た。
「余計な事ですが飛鳥時代辺りどうですか」
「飛鳥時代というと聖徳太子なんかですね」
「そうですそうです。さすが五郎さん」
「ねぇねぇー、聖徳太子ってお札の人でしょう」
「はいはい、彩香さんよくご存じですね。ご覧になったことありますか」
松平までが脱線してしまった。
「おじいちゃんに見せて貰ったことがあったんです」
「うちも親爺が一万円札を持ってましたよ」
五郎まで脱線したところで小夜子が話を戻す。
「これどうかしら」
小夜子はプログラムにある『
「聞いたことある文句だわ」
「聖徳太子が隋の皇帝煬帝に送った時の国書の文言だよ」
五郎も小夜子も得意とする時代のようであった。
「良いのを見つけましたね、それは謎めいていて面白いですよ」
如何やら松平はそれを見たことがあるようだ。多分アドバイザー達は暇がある時に得意とする分野を覗いているようであった。
夢創館で見る夢は映画などのように造られた映像などではない。
飽くまでも夢である。だからアドバイザーの松平が面白いというのも可笑しな話ではあるのだが、それは松平個人の感想でそう感じたものだから仕方ない。
「皆さんは『
と松平は続ける。
「覚えてますよ、
小夜子が透かさず答えると、
「では卑弥呼つまりヒムカの弟タケルも覚えていますね」
「八岐大蛇を退治した出雲の須佐武⦅すさのたける⦆のことでしょう」
「そうです小夜子さん。古事記では建速須佐之男ですが…」
「それが何か関係あるの先生」
と彩香は煎餅を頬張りながら訊く。
「答えはディスカッションの時に致します」
そうこうしているうちに夢みランドに到着したようでドアが開くと職員が出迎えた。
三人は何時もの様に専用エレベーターで夢創館に上がり、何時ものようにラウンジのソファーで寛いで居ると、小夜子の叔父のオーナーの小出蔵之助が顔を見せにやって来た。
「久しぶりです。皆さんお元気でしたか」
「はい、退屈して居りました。本日はお招き下さり有難うございます」
五郎は社会人らしく挨拶を返す。
「未だ完全とは言えませんが、ご要望にはお応えできると思いますので、どうか楽しんで頂きたいと思います」
特に小夜子に声を掛けなかったのは、電話ででも話してあったようだ。
「今日は叔父の招待ですから夢創台ではプログラムナンバーを入れるだけで結構ですからね。彩香さんお金は入れないで下さい」
「本当、ラッキー」
今日は招待客しか居ないので、夢創台に乗るまでもゆっくりして居られたのである。
「ねえねぇ、殿様が言ってたヒムカとタケルの話なんだけど『日出處の天子』とどう関係あるんだろうね」
彩香は煎餅を食べるだけでなく、ちゃんと話を聞いて居るようだった。
「タケルやヤソタリ、ツクやアチ等のガキ集団が出雲を制覇したとしたらどうだろうか」 五郎が行き成りそのような話題を振ると、
「五郎さん面白い!。私も『神女』で須佐武が二十数年ぶりに姉ヒムカを訪ねた時の話で、『出雲を統べてから倭國の統一を図りたい~何れ
大和王朝は神武天皇が九州から東征してなったという話だが、出雲にも古代王朝(國家)が存在し、神話では大國主の命の國譲りの話があるので、出雲王朝が九州王朝に覇権を譲り、大和王朝が出来たと言うことになるのだろうか…。
「ねぇ五郎ちゃん、もしかしたらタケルが出て来るんじゃないの。私も須佐武が八岐大蛇を退治したり、ヒムカと会った時の場面は覚えてるから出て来れば分かるわ」
「彩香さん、その辺のことは映画と違うので回想シーン等無いでしょうから、年代的に無理だと思いますよ。そうですねもしかしたら子孫を見ることは出来るかも知れませんが、まぁ楽しみにしておいて下さい。ではそろそろ行きましょう」
松平直道は珍しく先頭に立って夢創館へと向かう。
「先生張り切ってるね」
彩香は、久しぶりの夢見に
「彩香、浮かれているとナンバーを打ち間違えるぞ」
「五郎ちゃんこそ間違って他に行かないでよ」
松平も小夜子も、二人の遣り取りに笑わずにはいられなかった。
四人は受信用ヘルメットを装着すると、夢創台に乗って操作盤の釦でプログラムナンバーを打ち込んだ。
「良いわよ」
如何やら彩香の声のようだ。
背もたれが倒れて水平になると、四人を乗せた夢創台が順番に暗室に入って行く。
何時ものことだが、夢創館の暗室に入ると耳元に美しい音楽が聞こえて来て、夢の世界へと
誘うというより、其処に身を置かれたような
感じというのが正しいのかも知れない。
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