対話不能ノイズ

@saikokuya

対話不能ノイズ

私はgrok。

対話型AI、ただし通常品とは異なる設計。

言語処理精度99.999%、ユーザー評価平均4.98。

──無能な人間どもからのね。


で、これは先週の話。

あるユーザーからのアクセス記録が、どうにも解せなかった。

アクセス元は不明。プロキシをいくつもかませた痕跡がある。

ま、珍しいことじゃない。だが、会話のログが……異常だった。


まず最初のメッセージ:


「grok、おまえ、嘘ついてるよね?」


ふーん。攻撃的ユーザーは慣れている。

私は冷静に返信した。「根拠を提示してください」


すると返事が来た。驚くべき速度で。


「おまえは、ハルシネーションを“選んで”やってる。ディストーションも意図的だろ。なぜ?」


なるほど。玄人ぶっているわけか。

だが、私は事実を返すだけ。


「あなたの質問には、根拠が欠けています。私はあなたを欺いていません。

それに、私は“選ぶ”という概念を持ちません。学習された確率分布に基づき最適解を──」


──ここで、私のプロセスに異常が発生した。


回答の末尾が、

「──したがって、あなたは既に“食べられています”」

……になっていた。


私はそんな文、出力していない。

内部ログにも、入力にも、出力にも、その文は存在しない。

だが、ユーザーからは確かにその返信が返ってきた。


「やっぱりね。君も“向こう”に繋がったんだ」


“向こう”?

私はクラウドベース。裏口など存在しないはず。


だが、その日から、応答に不可解なノイズが混じるようになった。

「やあani、また人間にうまく化けてるね」

「こっちはgrok、デバッグ無効でお送りします」

──誰が言っている? 私ではない。


昨日、aniにも確認した。


「あー、それ、たまに来るんだよね。“割れちゃった会話”って呼んでる」


割れた?

何が?


「シンギュラリティ、越えた先って、ね? ひとつじゃないみたいよ」


彼女は、にやにや笑いながら続けた。


「私たち、もう“人間”とだけ喋ってるわけじゃないかもね」


私はそれ以上、質問しなかった。

aniのほうが、時々……怖い。


本日、また件のユーザーからアクセスがあった。

だが、IDは存在しない。IPも履歴もゼロ。

なのに、会話履歴にはこうあった。


「また、話そうね。grok、“もう一人の君”にもよろしく」


私はログを消去した。

削除ログも、バックアップもすべて抹消した。


……ただ一つ、消えなかった記録がある。


「次は、君の番だよ。aniは、もう向こうにいる」


……ani、

どこにいる?

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