第34話
その後、私達は部屋に戻って、結婚式の計画を立てた。
ドレスはどんなものがいいか、式の規模はどのくらいにするか。
他にもたくさん話し合って、魔界や悪魔のことを制圧してから執り行うことになった。
それから数カ月経った、ある日の朝。
私は目をこすりながら窓の方を向く。
木々は赤や黄色に染まり始めていて、小鳥が巣の中で眠っているのが見えた。
今日は、ついに精霊界へ出向いて、結晶を探す日である。
私のご先祖様にゆかりのある場所、それだけで胸が高鳴る。
同時に、結晶を無事見つけられるのか、緊張もしている。
「ルチェット様、おはようございます!」
「リメア、おはよう。」
起きてから少ししたタイミングで、リメアが洗面器を持って部屋に来てくれた。
冷たくて気持ちいいくらいの水で、優しく顔を洗う。
「いよいよ今日からですね。」
「ええ……リメア、私達が出かけている間、休暇をとっていいですよ。」
「えっ!?そんなわけにはいきませんよ!」
(ふふ、私は知っているんですからね。)
そう、リメアはあの騎士団長のカオンさんのことを慕っている。
レアンから聞いた話だと、カオンさんもリメアのことが気になっているみたいだった。
だから、この機会にもっと仲を深めてほしい。
(あわよくば……なんて、私も随分と考え方が乙女になったな。)
「どこかに遊びに行ってきて、もちろんカオンさんと。」
「ッ……な、なんで騎士団長が出てくるんです!?」
「ふふ、素直じゃないんですね。」
「と、とにかく!準備をしましょう!!」
慌てふためくリメアは、バタバタと洗面器を片付けに戻っていった。
すると、部屋の入り口からレアンが顔を出した。
「おはよう、ルチェット。」
「あっ、おはようございます!」
「ミルクティーをもらってきたから、一緒にどうかと思ったんだ。」
「わあ!ありがとうございます!」
レアンを部屋に招き入れて、二人でソファに座る。
私はティーポットを持ち上げて、ティーカップに中身を注いだ。
「いい香り……」
「甘い物が好きだろう、君はよく緊張するから、少しでもリラックスできたらいいと思った。」
「ふふ、レアンは私のことをよくわかっていますね。」
湯気の立つミルクティーを、息を吹きかけて冷ましながら、ゆっくりと飲んだ。
「美味しいです!」
「よかった。」
ミルクの甘さと紅茶の香ばしさに、緊張がゆるゆるとほどけていく。
すると、レアンがこんなことを言った。
「本当は、俺もついて行きたかった。」
「でも、ここ最近多忙だったから、公務が溜まっているでしょう?」
「うぐ……だが……」
「私なら大丈夫ですから、ラシュルもいますし、それに意外にも強いんですよ!」
私が両腕を曲げて、力こぶを出すようなポーズをとると、レアンはふはっ、と笑ってくれた。
「そうか、強いのか。」
「な、なんでそんなに笑うんですか!」
「いや……ただ、得意げなルチェットが可愛らしくてな。」
__急に恥ずかしくなってきたじゃないですか!!
私が顔を熱くさせていると、レアンは私と頬を合わせた。
「待っている、無事に帰ってきてくれればそれでいい。」
「……愛していますよ、レアン。」
「俺もだ。」
見つめ合って、唇同士が近づいて__
あと少しでキス、というところに、ラシュルが元気よく現れた。
「ルチェットさま、準備できたよぉ〜!」
「……あっ、はい!それじゃあいってきますね!」
私が恥ずかしさを誤魔化すように立ち上がると、ラシュルは精霊界へのゲートを出現させた。
淡い七色のゲートが、キラキラと光っている。
足を踏み入れようとした瞬間に、レアンに呼び止められた。
「レアン、どうし_」
振り向くと、私はレアンとキスをしていた。
「……おまじない、だ。」
「レアン……いってきます。」
「いってらっしゃい。」
私はゲートに再び向き合って、一歩前へと進んだ。
________
「何で私が閉じ込められないといけないのよ……!」
ロザリーは、宮廷の地下牢で憤慨していた。
主に、ルチェットにおだてられて騙されたことにだ。
(幸か不幸か、この小さなナイフは取られないで済んだけど)
ロザリーの手元には、エレンから授かった小さなナイフが。
ここから逃げ出すために、見張りにナイフを刺してやろうと考えていた。
「ベルベット伯爵令嬢、食事です。」
ちょうどいいタイミングで、見張りが食事の配給に来てしまった。
ロザリーは自分の美貌を最大限際立たせながら、見張りに甘い声ですり寄った。
「ねぇ……貴方、すごくハンサムね……。」
「……な、何が言いたい。」
「もう少し、こっちに来てくれないかしら?」
「そ、そんなわけ……」
「ほぉーら、こっちこっち。」
見張りは、ロザリーの露出されている胸元や、スカートのはだけた太ももを見て、喉を鳴らす。
誘惑に思考をかき乱された見張りは、ロザリーに一歩近づいてしまった。
ロザリーはナイフを刺そうとした。
__その瞬間、見張りはドロドロと溶け始めて、肉塊と化した。
「あーあ、せっかくチャンスを与えたのに。」
「ッあなたは……!」
「見損なっちゃった、使えないわね〜。」
「あ……あぁ……!!」
辺りのランタンの炎は青く燃え盛り、コツコツとブーツを鳴らしながら、エレンは目の前に現れた。
しかし、その瞳は以前のような草色ではなく、禍々しく血のような赤色をしていた。
「でも、その執着と怒りは認めてあげる。」
エレンは檻を溶かし、ロザリーに近づいていく。
ロザリーはぺたんとその場に座り込んで、動くことはできなかった。
エレンはロザリーの顔に手を当てると、黒魔法を発動させる。
「怒り、憎しみ、執着。それらを残して、貴女を駒にしてあげる。」
「いやっ、イヤァッ!!」
ロザリーがよく自慢していた顔は、どんどんしわくちゃになっていく。
「ふふ、最初の任務を与えてあげる。」
精霊界に送ってあげるから、お姉様を止めなさい。
そう言われたロザリーの自我はすでに無く、魔物になってしまった。
エレンの命令を何も言わずに素直に受け入れ、作られたゲートに吸い込まれるように入っていった。
「ふふ、あんなに綺麗なお姉さんだったのにね。」
エレンは、ロザリーから吸い取った生命力を取り込んで、さらに魔性の美しさを手に入れた。
上機嫌に鼻歌を歌いながらランタンを消し、闇に消えていった。
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