第30話
暫く二人で存在を確かめあっていると、気まずそうにラシュルが手を挙げて話しかけてきた。
「あのね、祝福や黒魔法のことについてプリュイからルチェットさまに伝えるように言われてたの……!」
ラシュルは、わかりやすいように頭の中で工夫しているのか、目を閉じながら考えている様子を見せた。
その後、口を開いて色々なことを話してくれた。
まず、祝福について。
私の魔法には、どうやら黒魔法を浄化する作用があるらしく、それが最大限発揮できるように魔法の回路をいじったらしい。
だから私は、人間の血よりも精霊の血が濃い存在になっている。
私にはお母様の強力な加護がかかっていて、黒魔法をある程度弾いてくれるみたい。
だから、今回黒魔法を受けたけど、最小限のダメージで済んだということ。
そして、黒魔法について。
最も大切なことは、悪魔が関わっているということ。
エレンが黒魔法を使えたということは、アルベレア家は魔界と関係がある可能性が高い。
なので、早急に止める手段を見つけないといけない。
「その、悪魔を止める手段とはなんだ?」
「いい質問だね!それはね、精霊界のどこかにある泉の『結晶』が必要なんだ!」
ラシュルによると、その結晶は特別なもので、先祖の光の精霊が残した力を込め、魔法を増強させる触媒らしい。
「あとどのくらい猶予が……?」
「う〜ん、冬くらいには確実に攻めてくると思うよ」
今は夏だから、まだ少しだけ余裕がある。
その間に、準備を整えなければならない、けど。
「まずは、裁判に出なきゃ。」
「毒殺未遂の件か。」
カリン様の裁判に証人として出て、ロザリー様のことも言及しなければならない。
正直、ロザリー様が何を考えているのかは分からない。
だけど、何か悪いことを企んでいるなら、止めないと。
「裁判、いつでしたっけ?」
「それなら、新聞に載っていると思いますよ。」
ユシルさんは、魔法で新聞をふよふよと浮かせて持ってきた。
「『お茶会で毒殺未遂、公爵夫人が阻止』ですって。」
「お茶会に同席していた令嬢達が、記者から色々聞かれたらしいな。」
「……本当だ、インタビューが載ってます。」
ちょうど一週間後に裁判が行われると、記事の最後に書かれていた。
「一週間後ですって。」
「だが、ルチェットは安静にしていたほうがいいのではないか?」
「公爵、ルチェットさまは治癒力がすごいから大丈夫だよ!」
「……そうか。」
ラシュルの一言に安心したのか、レアンはほっと一息ついた。
「今日はゆっくり休むんだぞ。」
レアンはそう言って、私の額にキスをすると、公爵邸に帰った。
ユシルさんは、まだ色々なことを聞き足りなさそうだったけど、他の魔法使いに抑えられて渋々持ち場に戻った。
さて、私はラシュルと二人きりになったわけなんだけど。
「ルチェットさま、僕のことほめて!」
ラシュルが人が変わったように甘えてくる。
先程の頼もしげな様子とは打って変わって、今は可愛らしい愛玩動物のように、私の手の中で丸まっている。
「色々教えてくれて、ありがとう。」
「えっへん!僕すごいでしょ?」
正直、色々なことが起こりすぎて、頭がまだ追いついていない。
だから、本当に悪魔と戦うという実感もあまりない。
怖くはない、けれど。
自分の力をまだ完璧に操れるわけでもない。
でも、大切な人を守りたい。
私は対抗しなければならない。
ラシュルを優しく撫でながら、ひっそりと決意を固めたのだった。
________
「あぁ、面倒くさいわ。裁判だなんて。」
一人の令嬢が、そう嘆く。
「あの女、存在してるだけで虫酸が走るわ。」
すると、数回のノックが部屋に響いた。
静かに扉を開けたのは、令嬢に仕えているメイドだ。
「お嬢様、そろそろ時間です。」
「もうそんな時間なのね。」
令嬢はソファから立ち上がり、別の部屋に移動する。
部屋に入って目に入ったのは、ソファに座る人物。
フード付きのローブを深くかぶっていて、顔が見えない。
「さて、この私に手紙を送りつけるなんて、相当自信がおありなのね。」
ローブの人物は俯いたまま喋らない。
令嬢は仕方なく本題に入る。
「で、あの女を消せるって本当なの?」
「本当よ、とってもいい方法があるの。」
「……言葉遣いには気をつけることね、私は貴族なのよ。」
「……そう。」
すると、ローブの人物は、フードをおもむろに外し始めた。
そこに現れた顔は、見覚えのある顔。
「……あら、カシエレ王国の方でしたの。」
「そうよ、私も貴族なの。」
ローブを完全に脱ぐと、緑色と黒色のドレスに、金髪の映える美しい令嬢がにこりと微笑んだ。
「私はエレン・アルベレア、あなたに協力してあげる。」
「……ふぅん、まぁいいわ。」
早く本題に入れ、と言わんばかりに、令嬢はエレンを睨みつける。
「……早速だけど、あの女を本気で消したいと思う?」
「ええ、もちろんですわ。」
「なら、これをあげる。」
エレンが令嬢に渡したのは、紫色のネックレス。
「あの女が一人の時に、これに念じなさい。」
「念じる?」
「あなたの憎しみ、妬み、全てを。」
令嬢は顔をしかめた。
こんなもので、本当にあの女を消せるのか。
「……私が願っているのは、これだけじゃない。」
「わかってる、これもあげるわ。」
令嬢は、もう一つ、今度は小さく針のようなナイフを渡された。
「これを刺すと、催眠がかかるわ。」
「これで……あの方は私のものに……!!」
令嬢が子供のように喜んでいると、エレンはくすくす笑って立ち上がる。
「頑張ってね、応援してるわ……アハッ。」
喜ぶ令嬢に一礼してから、エレンは部屋を出ていった。
令嬢の手の中にあるネックレスとナイフは、禍々しいオーラを放っていた____
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