第25話

送った鳥が戻ってこない。


どれくらい時間が経ったのかはわからないけど、体感している時間はかなり長く感じている。


「レアン、鳥は大丈夫ですかね……?」


私がそう聞くと、レアンは顎に手を当てて少し考えてから、何かを思いついたようだった。


「……ルチェット、視覚共有はできないか?」


「視覚共有、ですか?」


「あぁ、かなり高度な技術が必要だが……」


「や、やってみます!」


視覚共有だから、まずは鳥のいる場所を把握しないといけない。


私は、自分の発現させた魔法が、いまどこにあるのかを目を閉じて探す。


不思議なことに、どこかに存在していることがなんとなくわかった。


場所は……木の上?


私は、鳥に魔力をさらに注ぐような感覚で、念を送ってみた。


『視覚共有をしたいです』


鳥からの反応は無く、仕方がないので暫く待ってみることにした。


すると、鳥がぱたぱたと飛んで戻ってきた。


「おかえりなさい!」


「ピ!!!」


鳥は私の手のひらの上に着地して、首をかしげてこちらを見ている。


「視覚共有、始めますね。」


私はまた目を閉じて、魔法の鳥と私の魔力を融合させようとした。


すると、目を閉じていて視界が暗いはずなのに、目を閉じた私の顔が見える。


これは、手のひらの上の鳥視点、ということでいいのだろうか。


「ルチェット、視覚共有はできたか?」


「ピィ!!」


私がレアンに話しかけようとすると、何故か私から鳥の声がする。


もしかして、視覚だけじゃなくて、私の精神ごと入ってしまったの!?


「ピィ、ピ!!」


「……ルチェット??」


「ピ!!」


私の身体に問いかけるレアンと、必死に返事をする私。


暫くこの状態が続いてしまって、レアンに申し訳なく思いつつも、私はエレンの部屋に向かうことにする。


鳥の意識も混じっているのか、すぐに飛ぶことができた。


ちょっとフラフラして安定はしないけど。


途中、木の枝に留まったりして、休憩しながらやっとエレンの部屋のベランダにたどり着くことができた。


大きな窓は少しだけ開いていて、ギリギリ入れそうな隙間がある。


その隙間に体を思い切り押し込んで、部屋に侵入することができた。


エレンは不在らしく、私は急いで宝石を探す。


すると、ドレッサーの上に箱が置いてあることに気づく。


(これは……宝石箱かもしれない!)


私は鳥の鋭いくちばしで、箱を上に向かって力いっぱいつつく。


すると、パカッと勢いよく箱が開いたので、私は縁に乗って中身を確認する。


やはり、色とりどりでたくさんの宝石が入っていた。


どれも派手、ギラギラしていて、エレンが好みそうなものばかりである。


すると、奥の方に淡く光る宝石を一つ見つけた。


(こ、これだ!!お母様の形見の宝石!!)


私は邪魔な宝石を足で掴み、宝石箱の外へと置いていく。


一つ、二つ、三つ。


そうしてやっと、お母様の宝石が取れるようになった。


鳥の体は小さいから、人間の私からすると不便かも。


宝石を足で掴んで、ぱたぱたと羽を動かして運ぶ。


想像よりも、お、重いかもしれない。


宝石を掴む足が小さくて、持って飛ぶだけで精一杯。


力の限り羽を動かして羽ばたいていると、ギィ……と扉が開く音がした。


「え!?何で宝石が出てるのよ!!」


まずい、エレンが帰ってきてしまった。


捕まる前にここを早く出ないと。


「何よ、鳥が入ってるじゃない!!汚いわ!!」


エレンは近くに置いてあった火かき棒を持って、私の方に近づいてくる。


もっと速く飛ばないと、火かき棒ではたき落とされてしまう。


(速く、もっと速く!!)


すると、体がぐんと大きくなって、掴んでいた宝石も安定した。


「キィーー!!」


「は!?何で鷹に!?ウソでしょう!?」


エレンの驚く声から、私は魔法で鷹に変わったのだと理解した。


隙間が小さく通れないから、窓を突き破って通り抜ける。


エレンの怒る声が聞こえるけど、私はそのままレアンの元へ飛んでいった。


「ピィー!」


「……鷹?ん、この宝石は。」


「ピィ!」


レアンは私の身体を抱えてそわそわしていたけど、私と持っていた宝石に気づくと、すぐにその場から動き出す。


「とりあえず、近くの宿まで逃げよう。」


「ピ!」


レアンは私の身体を抱えたまま、街の方へと走り出した。


隣を同じペースで飛んでいって、レアンが宿を見つけると、私はレアンに宝石を渡してから肩に乗った。


「いらっしゃい」


「一時的に部屋を借りたい。」


「一時的に?まぁ、いいけど……」


受付のお姉さんは困惑した様子だったけど、レアンが金貨を一枚差し出すと、急いで部屋に案内してくれた。


「ごゆっくり〜!」


扉が閉められると、レアンはベッドに私の身体を寝かせた。


私は、いつも魔法を解除するのと同じ要領で、目を閉じて魔力の流れに集中する。


次に目を開けると、天井が最初に映った。


「ルチェット、大丈夫か?」


「レアン、ただいまです。宝石も無事に取り返せましたし、大丈夫ですよ!」


「よかった……」


安堵するレアンを抱きしめて、ぽんぽんと背中を優しく叩いてあげる。


「認識阻害の魔法をこの部屋に使った。」


「じゃあ、宿はここで大丈夫そうですね。」



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