ヘラクレスオオカブトを飼うシャベルを担いだ謎の穴掘り地雷系女子が実は昔男の子だと思い込んで遊んでいた幼馴染と判明するASMR

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話 一穴目〜再会〜

『第4回「G'sこえけん音声化短編コンテスト』

ASMR部門投稿作品のため台本形式です。


――――――

//SE ザク……ザク……ザク……と穴が掘られる音


//SE カラスの鳴き声


//SE 自然豊かな山の風の音、木々が揺れる音、虫の鳴き声


//頭上から少女の声、少年っぽい口調で


「あれ? お兄さん起きたんすか。じゃあ別に人間の死体を埋める用の大きな穴は掘らなくてよくなったんすね。力作だったのに残念っす」


//SE シャベルが地面に転がされる金属音


「それで穴から顔だけ出しているお兄さんは誰っすか? こんな山の中に来るとは迷惑虫取りハンターどもの手先っすか? この山にもうヘラクレスオオカブトはいないっすよ。先日死んじゃったんで」


//SE 近づいてくる足音


//少し悲しそうに


「ヘラクレスオオカブトがいたのかって? そんなに食いつかれても困るっすけど、ウチが育ててたんっすよ。虫好きな幼馴染がいたんで見せたら喜んでくれるかなって。それでお兄さんは? ここ私有地っすよ。勝手に入るのは不法侵入っす」


//あまり関心がなく吐き捨てるように


「ふーん。小学校時代の夏休みによくこの辺りに遊びに来ていたと。この山も現地で友達になった男の子と駆け回って遊び場にしていたから懐かしくなって足を踏み入れた。嘘くさい」


//冷たく蔑むように、ただ口調は少女っぽく


「信じてくれと言われましても、この地域には幼い男の子なんかいませんよ。お兄さん何歳ですか? 遊びに来ていたのは何年前ですか?」


「私より二つ年上だったんですね。それで遊びに来ていたのもたぶん十年ぐらい前……随分と曖昧な言い方ですね。記憶力ないんですか? 九年前なら九年前とはっきり言いなさい」


//問い返されて気まずそうになる


「えっ……お兄さんが落ちたこの穴? うちの家の私有地で私がどんな穴を掘ろうとお兄さんには関係ないでしょ」


「死体を埋める穴って。さっき言ったのは冗談……でもないや」


//調子を取り戻したのか口調が戻る


「そんなに怯えなくていいっすよ。お兄さんが落ちた穴は墓穴っすから。先日死んだヘラクレスオオカブトのゴンザレス君六号の墓穴っす」


//少し楽しげに耳元で囁かれる


「そんなに慌てて穴の底を気にしなくても大丈夫っすよ。まだ埋めてないんでゴンザレス君六号は家の中っすから。お兄さんは踏みつぶしたりしていませんよ」


//声が元の位置に戻る


「どうしてヘラクレスオオカブトの墓穴がこんなに深いのかって」


//怒り気味で口調が乱れる(少年口調と年相応に女の子らしい口調が混じる)


「聞いてくれるっすか? 聞いてくれますよね? 聞かなきゃ穴から出るの手伝ってあげませんよ」


//遠くを見ながら語りだす少年口調


「あれは忘れもしない五年前のことっす。ゴンザレス君二号が死んだときのこと。ウチは……」


//圧強め目に言い返される


「ん? 他にも飼っていたのかって? 六号なんだから六匹目に決まっているじゃないですか。つまらない疑問で水を差さないでください。わかりましたか?」


//語り再開で。少女口調


「では……こほん。あれはゴンザレス君二号が死んだときのことです。私が一号と同じようお墓をうちの山の私有地にお墓を掘ったんですよ。その時はここまで深くなかったと思います」


//怒り強めの少女口調


「けれどそれがよくなかった。うちの山ってタヌキが出るんです! あの獣どもはあろうことかゴンザレス君二号の墓を荒らして、ゴンザレス君二号を食べちゃったんです!」


//SE 雷の音


//悲しげに


「悲しかった。そう……悲しかったんです。それで私は誓ったんです。もっと深い穴に埋めてあげようって。そして三年前の四号君の悲劇に続く」


//きょとんと我に返り少年口調に戻る


「続くのかよって? そう悲劇は続くんっすよ。二号の悲劇からウチは穴を掘るときはシャベルを使い始めた。ザクザクと掘り進めていったんす。三号はたぶんそのまま土に還ったと思うっすよ」


//SE 強い雨の音


「あの夏は長雨が続いたっす。急なゲリラ豪雨でこの辺りでも小規模な土砂崩れが起きたっす」


//SE 土砂崩れ


//ちょっと嬉しそうに


「ん……覚えているんですか? 馴染みがある地名がニュースで流れたから。そう覚えている通り、山肌が少し流れた程度で人も家も田んぼも無事でした。私は近くの学校に避難してましたけど」


「がけ崩れが起きたのはあの辺り。そう……うちの山でした。心配してくれてありがとうございます。確かに少し怖かったですけれど私は大丈夫でした。でもちょうどゴンザレス君達の歴代のお墓があった辺りが流されたんです」


//語気が荒ぶる


「そしてローカルテレビ局のカメラが現地に入り、私有地なのに勝手に撮っていく。災害報道ですね。この辺りは車で来れますし、土砂崩れを撮りたかったんでしょう。けれどそこで悲劇が起こります! なんとテレビ局のカメラがヘラクレスオオカブトのゴンザレス君四号の死体を映して、ニュースに流しちゃったんです!」


//SE 再び雷


//最後は叫ぶように


「それが悲劇なのって? 悲劇はそこからです! あろうことかSNS上で『まさかこの辺りにヘラクレスオオカブトが自生しているのか』ってバズりましてね! 翌年から迷惑虫取りハンターどもがこの地に押し寄せて、勝手にうちの山を歩き回ったんです! 私が待っていた人はお前らじゃないのに! ヘラクレスオオカブトが自生しているわけないだろ!」


//急に落ち着いて


「申し訳ありません。少し興奮しました」


//耳元で囁くように


「そんなわけでこの辺り私有地なので、用もないのに立ち入ってはいけません。用があるなら別にいいですよ。人に会いに来たとかでも。でもヘラクレスオオカブト探しはダメです。見たいならうちに来てください。ゴンザレス君七号がいますから」


//戸惑ったように


「えっ、来ていいのかって? え〜と……ほら勝手にうちの山を歩き回られるよりマシですから」


「ハイハイ! そんなことより夜は夜行性のタヌキも出ますから穴から出てください。夜の山は危険なんです。本当に真っ暗になりますし」


//呆れを隠さず


「一人で出られない? もう相変わらず軟弱ですね。これだから都会っ子は。ほら手を貸してあげますから。そう私の手をぎゅっと握って」


//力を入れて


「ん〜〜〜しょっ! ほらちゃんと穴の壁を蹴ってください! 私の手を引っ張らない! 穴に引きずり込もうとするなぁ〜〜〜!」


//SE 土壁を強く蹴る音


//短い悲鳴


「よしっ! きゃぁ!」


//SE 穴から飛び出した勢いで押し倒した音


//下から弱々しい声


「いたたた……。ん? なんすかお兄さん? 私の顔をじっと見て」


//下から焦った声


「かわいい? なっ……急に変なこと言わないでください! この状態ですよ! 警察呼ばれたいんですか!」


//SE 慌てて飛び退く音


//SE 横からパンパンと服から土を払う音


//SE 土下座する勢いで頭を下げる


//横から落ち着いた声


「別にいいですよ。さっきのは不可抗力だってわかっていますから」


「せっかく可愛い服を着ているのに? 確かに汚れてしまいましたけど、こんな格好で穴を掘っていた私が悪いんです。いわゆる地雷系ってやつですね。穴掘りだけに」


//ジト目込みの非難する声


「ちょっと笑ってくださいよ! 長年温めていた渾身のギャグですよ!」


「苦笑い禁止!」


「えっ? 別に普段からこういう服装だから本当に気にしなくていいですよ。何着もありますし。ゴスロリとかコスプレとか」


//少し言葉選びながら


「好きかと聞かれれば好きなんでしょうね。この辺り服屋とかないんで通販で適当に買ってたら、こういう系統に服が偏っていっただけですし」


//少し弱々しく


「別に……女の子っぽくならなきゃとか意識したわけじゃないですから」


//誤魔化すように


「はいはい。本当に真っ暗にならないうちに帰ってください。帰り道わかりますか?」


「もう暗いので用水路の位置には気をつけてくださいよ」


//SE 遠くなっていく足音


//聞こえるか聞こえないかのか細い声で


「昔みたい用水路に落ちないでね」


「また来てくれてありがとお兄ちゃん」



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