第9話

 放課後。

 俺は、星野みらいに呼び出され、駅前のカフェに来ていた。


(ギャルに呼ばれてカフェって……こんな青春ラブコメ、俺の人生じゃなかったはずなのに……)


 ドキドキしながら席に座って待っていると、

 シャカシャカ音と共に、みらいが現れた。


 髪はいつもよりふわっと巻いてて、

 服も制服じゃなくて、ゆるニットにミニスカ、スニーカーというラフな私服スタイル。


(ま、まぶしい……!ていうか……可愛すぎる……!)


「おっそー、待った?」


「い、いや、全然!10分前からいたけど!」


「じゃあ待ってんじゃん、ウケる~」


 笑いながら席に着くみらい。

 だけど、その表情の奥に、少しだけ“素の顔”が見えた気がした。


「あのさ、今日呼んだのって、ちょっと話したいことがあって」


「う、うん。俺でよければ」


 みらいは、ミルクティーを一口すすると、

 視線を落としたまま、ぽつりと話し始めた。


「ウチ、姫坂のこと……ずっと憧れてたんだよね」


「……え?」


「可愛くて、真面目で、成績もよくて……

 その上で、恋もしてるなんて、最強じゃん」


「……うん、そうかも」


「でもさ……あの二人、“フリ”だったって知って、すっごくショックで。

 それと同時にさ、なんか安心もしちゃった」


「安心……?」


「だってさ、ウチ……あの人じゃないけど、

 でも今、アンタのこと、本気で好きなんだよ?」


 突然の言葉に、時が止まる。


「……え?」


「気づいてなかった? 鈍っ」


 そう言って、みらいは笑った。

 けど、その笑顔はいつもみたいに軽くなかった。


「初めはさ、仲間見つけたってだけだった。

“推しカプ語れる相手”って、めっちゃレアだし。

 けど……話してるうちにさ、なんか、あんたのそういうとこが、クセになって」


「クセ……?」


「そう、なんか……変に飾らなくて、

 でも誰よりも、人のことちゃんと見てて、優しくて」


 そこまで言うと、みらいは少しだけ顔を赤くして、

 ミルクティーのストローをいじりながら続けた。


「……ウチね、今のあんたの周り、ちゃんと見てるよ。

 姫坂も、朝倉も、千景先輩も。

 みんなガチだから」


「……」


「だからウチも――手ェ抜く気、ないよ」


 バチンッと目が合う。

 そこにあったのは、“ギャルのノリ”なんかじゃない、

 ひとりの女の子としての、真っ直ぐな覚悟だった。


「ウチ、勝ちに行くから。恋も、アンタも、全部」


 みらいはそう言って、笑った。


 その笑顔は、まぶしくて、ちょっとだけ寂しそうだった。


 帰り道。


 ひとりで歩く俺の胸の中には、

 3つの“本気の気持ち”が重く響いていた。


 朝倉真央の涙。

 姫坂ほのかの宣言。

 星野みらいの笑顔。


(……俺は、誰かを好きになる準備が、できているんだろうか)


 答えは、まだ出ない。


 でも――


 翌日。


 俺の下駄箱に、小さな封筒が入っていた。


 白い便箋に書かれていたのは、たった一文。


 今日、放課後。屋上で待ってます。南雲千景

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