ライトブルーファンド~億り人がVTuberでやり過ぎる

桐谷アキラ

静かなる成り上がり――“普通”の隣に生まれる伝説

第1話 女帝VTuber 静かな遺産

 春の夜、東京の摩天楼が青白く光ってる。

 現実もネットも、全部ごちゃまぜにして照らすような、不思議な空気が流れる季節だ。


 そんな都会の片隅、高層マンションの一室で――

 南野結衣は今日もパソコンの前。

 一見穏やかなその表情の奥に、誰にも見せない冷徹なロジックが静かに光っている。

 この部屋に集まるのは、現実とバーチャル、夢と資本、あらゆる境界線を溶かす“現代の女帝”の夜――。


 配信が始まると、


 画面のなかには青髪ショートボブに白い軍服ワンピースの“女帝様”。


 その隣で、公式マスコットのアセットくんがふわっと手を振る。


 SNSや経済ニュースには「資本家系Vtuber」「女帝様」なんて異名が飛び交う。

 穏やかで癒し系であると同時に企業グループのトップ、バーチャルでは女帝様系VTuber

 ――どの顔も、彼女の「本気」だ。

 仕事終わりにカフェでさりげなく微笑む彼女を知る人は、

 まさかこの人が桁違いの金額を動かす戦場で指揮を執るとは夢にも思わない。


 実際の結衣は、ありとあらゆる情報リソースを“武器”に変える。


「“バーチャル・ワールドエキスポ202X”開催!

 全世界のエンタメ業界、、ファンがメタバースで一堂に。

・公式パートナーには各界のトップ企業参戦

・各社オリジナルパビリオンやコラボイベントも同時開催

・“自動AI翻訳”で違和感なくリアルタイム対話可能


 コメント欄とSNSは瞬時に世界トレンド1位に。


 <また桁違いのアナウンスでてる>

 <これ…本当に“VR万博”じゃん!!>

 <自動翻訳で全員話せる時代!言葉の壁消えた>

 <企業も個人も推しも、ぜんぶ参加できる祭り!?>


 女帝様は、やさしく微笑みながら、語る。


「“世界はもっと近くて、自由で、面白い”って、本気で証明してみたくて――。

お金も夢も国境も関係なく、みんなで一緒に“新しい時代”を遊びましょう」


 すると隣のアセットくんが、首をかしげてさらりと言う。


「ねえ、みんな今の話聞いた?

 真面目なこと言ってるように見えても、この人の頭のネジ何本か抜けてるから良い子は絶対に真似しないでね?

 危ないなと思ったら周りの大人に相談してからじゃないとダメだよ!」


 <女帝様もアセットくんもクセ強いなぁ>

 <だいじょうぶ全然マネできねえw>


 配信画面の向こうで草が生えまくって、

 現実の夜景とバーチャルの光がごっちゃになって――

 今日も「女帝様の物語」が、ゆるっと、だけど鮮やかに始まる。

 “選びとる勇気”と“ちょっとした遊び心”だけは、女帝様のブレない原動力だ。


 ――あの夜、相続という偶然のきっかけが、

 彼女を“ただの会社員”から、やがて一つの時代を動かす資本家へと変えていった。


 “どんな世界も遊び倒す”――それが、南野結衣という名の、令和の“女帝”の生き方。


 物語は“始まりの春”へと降りていく――

 やがて世界を揺るがす“現代の神話”となるまでの、静かなる叙事詩である。


***

 春、都心の朝。


 南野結衣は、社会人一年目。

 目覚ましよりも早く目が覚めると、反射的にスマホを手に取る。

 経済ニュース、不動産市況、地価マップ――。

 誰にも言えないが、子供の頃から数字やチャートを眺めていると、妙に心が落ち着く。


 (また地価、上がってる……再開発で利回りも急騰か。

 今年の路線価データ、去年よりずいぶん跳ねてる)


 家族や友人の雑談が横を通り過ぎても、

 結衣の頭はいつも“データ”で満たされていた。


 朝食のテーブルで、母が明るく言う。


「今日は気持ちいい天気ね」


 父は新聞を読み、兄がスマホの画面を向ける。


「駅前、マジでとんでもない値段になってるな。

 不動産会社、何社からも営業来てるってさ」


 父がため息まじりに言った。


「もう管理も限界だ。税金も手間も、昔と比べてケタが違う」


 母が遠くを見る。


「思い出の家だけど……変わることも、必要なのよね」


 家族の空気はどこまでもあたたかい。

 けれど、結衣の中では別の“景色”が広がっていた。


(相場で売れれば、たぶん人生一度レベル。

  維持費、減価、リスク、今以上は考えづらい)


 けれど表情は変えない。


「うん、みんなで納得できるのが一番だよね」


 夜、家族LINEで兄からグループ通話が飛んでくる。


《そろそろ、本気で売るか考えない?》


「今の価格なら、悪くない気がする」


「管理もそろそろ限界だし、思い切るのもアリだな」


 母は少し目を伏せる。


「寂しいけど、前に進むのも大事かもね」


 父が聞く。


「結衣はどう思う?」


 結衣はわずかに息を吸う。


「……今が一番いいタイミングだと思う。でも――」


 ふと、自分だけ違うレイヤーにいるような孤独感が胸をよぎる。


「正直、ちょっと寂しいかな」


 兄が優しく笑った。


「数字も大事だし、気持ちも大事だよな」


 会議の後、結衣は祖母の手紙を読み返す。


『思い出は、場所じゃなく心に残ります。勇気を持って前に進んでください』


 週末、祖父母の家の跡地を歩く。


 工事車両が忙しく行き交い、昔の面影はほとんど消えてしまった。

 でも、庭のツツジだけが変わらず咲いていた。


 翌週の昼休み、会社のカフェで芽衣が言う。


「結衣さん、なんか最近スッキリした顔してますね」


「家族でちゃんと話せたからかな。

 合理的に考えるのも大事だけど、やっぱり“みんなで決める”っていいなって」


 夜、兄がリビングでつぶやく。


「少し寂しいな」


「……うん。でも、家族みんなで選んだんだから、大丈夫」


 ベッドに入ってスマホを握る。

 再開発地の相場グラフ、税率表――

 まだ誰にも見せていないフォルダを何度も開いては閉じた。


 (みんなと同じでいたいのに、どうしても“数字の向こう側”ばかり見てしまう)


 春の夜風がカーテンを揺らす中、結衣は静かに目を閉じる。

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