第3話 麻里の喝!
「……で? その藤崎さんとは、どうなったの?」
久しぶりに会った麻里は、開口一番そんなことを言ってきた。
麻里は、専門学校時代の同級生で、私と同い年。恋愛経験も豊富で、いつも飄々としている。
休日の昼下がり。駅前のカフェのテラス席。私はホットカフェラテ、麻里はアイスキャラメルマキアート。
相変わらず派手なネイルと、胸元が少し開いたトップス。専門学校のころとまったく変わらない。
「え、なに? そんな顔して……まさか、もう抱かれた?」
「ち、違うよっ」
思わず声が大きくなって、周囲の視線を感じて俯いた。
麻里はニヤリと笑って、ストローをくるくる回しながら言う。
「ふーん。じゃあまだ処女なんだ」
「……うん」
そう答えるのは、ちょっとだけ勇気がいった。
麻里は、驚いた様子も見せずにうなずくと、ドリンクのストローを口に運んだ。
「ま、別に悪いことじゃないけどね。でも、ずっとそのままじゃ、何も変わんないよ?」
「……わかってるよ。けど……怖いの」
「なにが?」
「もし、藤崎さんに引かれたらって思うと……。私、年齢的にも遅いし、重たいって思われるかもって」
麻里は、ため息混じりに笑って、視線をそらす。
「ほんっと凛花って、考えすぎ。藤崎さんって大人でしょ? だったら、そんなことでドン引きするような子どもじゃないと思うけどな」
「……そうかな」
「そうに決まってるじゃん。それにさ、私が男だったら、凛花に抱かれたいけどね?」
「な、なにそれ……もう、やめてよ」
笑いながら、顔が熱くなった。
でも、少しだけ心が軽くなった気がした。
「ってか、凛花ってさ、前から思ってたけど……真面目すぎるんだよ」
「真面目って……」
「好きなんでしょ? だったらさ、自分の気持ちに正直になりなよ。てかさ、凛花って、見た目、結構可愛いし、スタイルもいいんだよ。ようは中身なんだって」
「……うん。好き。すごく、好き。彼が来ると、うれしくて、すごく緊張する」
「その気持ち、大事にしなよ。誰に笑われたっていいじゃん」
私は、カフェラテのカップを両手で包みながら、小さく頷いた。
小さな湯気が、ゆらゆらと立ち昇っていく。
その向こうにいる麻里の言葉が、まるで過去の自分を見透かしているようで、少しだけくすぐったかった。
「それにさ、処女かどうかなんて、気にしすぎ。むしろその想い、ちゃんと伝えなきゃもったいないって」
「……伝えたら、引かれるかな」
「引く男なら、そもそもそこまでの男よ。覚悟決めなよ、凛花」
麻里のその一言が、胸にまっすぐ刺さった。
私だって、怖くないわけじゃない。
でも、それでも――
彼になら、すべてを預けてみたいと思った。
(次にふたりきりになれたら、ちゃんと伝えよう)
私の身体の中に眠っていたなにかが、目を覚ましはじめている気がした。
そう思いながら、私はカフェの窓に映る自分の顔を、そっと見つめた。
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