第十一章 未来を結ぶ日
春の風が柔らかく街を包む頃。
桜の花びらが舞う公園のベンチで、蓮はふと空を見上げた。
この数ヶ月で、彼の人生は再び大きく動き始めていた。
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一 指輪と約束
「蓮くん……本当に、これでいいの?」
自宅のダイニング。静かな夜、美月が差し出した封筒には、妊娠検査薬の陽性結果が入っていた。
少し震えた声。
不安と喜びが混ざり合う表情。
蓮は、迷いなくその手を握った。
「ずっと、君と“家族”になりたかった。ようやく本当の意味で、守りたい人ができたんだと思う」
そう言ってポケットから取り出したのは、小さな箱。
中には、シンプルな銀の指輪。
「結婚しよう。俺と、“新しい未来”をつくってほしい」
涙がこぼれるより先に、美月は頷いていた。
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二 式の日
結婚式は、蓮がタイガと出会ったあの地域の教会で行われた。
少人数、けれどあたたかく、小さな子どもたちの笑顔があふれていた。
蓮は黒いスーツに身を包み、緊張した面持ちで待っていた。
扉が開き、純白のドレスを纏った美月が入ってきた瞬間――
彼の胸の奥に、今まで味わったことのない熱いものがこみあげた。
(ああ、俺はようやく、誰かの“居場所”になれたんだ)
式の最後、子どもたちからのサプライズ。
「パパ、ママ、けっこんおめでとう〜!!」
その中に、タイガもいた。
照れたように拍手を送りながら、小さくウインクを送ってきた。
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三 タイガの変化
タイガは、この半年で目覚ましく成長していた。
毎朝6時に起きて走り込み、学校でもリーダー的な存在になりつつある。
「ねえコーチ、俺さ、サッカー部に入ろうと思ってる」
蓮はその言葉に、思わず笑顔をこぼした。
「それはいい。でも部活は厳しいぞ?」
「知ってる。でも、俺、負けたくないんだ。“昔の自分”に」
タイガの目には、かつての蓮と同じ光が宿っていた。
それは、守られるだけの子どもから、“夢を追う少年”へと変わった証だった。
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四 新しい命
数ヶ月後。美月は妊娠7ヶ月を迎えていた。
ある日の夜、蓮は胎動に気づいた。
「……今、動いた」
そう言って、お腹に耳を当てる。
「君にも、ちゃんと聞こえる? 君のパパは、君が生まれるのをすごく楽しみにしてるよ」
彼はふと思った。
「命って、こんなにもあたたかくて、こんなにも怖いものだったんだな」
“守りたい”という気持ちは、痛みを伴う。
だがそれこそが、「本当に生きている」ことの証なのだと、今なら分かる。
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五 それでも未来へ
その夜、蓮は日記にこう書き記した。
「あの日から、ずっと光を探していた。
でも、今なら分かる。
光は、誰かを照らすことで、初めて“自分”の中にも宿るんだって」
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