第二章 再会と、サッカーと、そして父という存在

年後、突然の知らせが届く。


「お母さんが出所したよ。新しい家族ができたんだ」


蓮は、久しぶりに見た母の顔を見て、なんだか遠くなった気がした。

母の隣には、新しい男性――彼の“再婚相手”がいた。

その男は、元高校サッカーのエースで、口癖は「男ならサッカーだろ」だった。


その言葉がきっかけだった。蓮はボールを蹴りはじめた。

学校帰り、公園、グラウンド。泥まみれになりながら、何度も転びながら。

「プロサッカー選手になる!」そう叫ぶ蓮は、かつて見せなかったような笑顔を浮かべていた。


しかし、その笑顔は長く続かなかった。


男は次第に酒に溺れ、暴力を振るうようになった。

ガラスの割れる音、壁に叩きつけられる音、母のうめき声。

そして蓮もまた、何度も殴られ、蹴られた。


ある夜、ついに蓮は母に言った。


「お母さん、もう無理だよ。痛いよ」


母は黙って、蓮の頬を両手で包み込み、しばらくその顔を見つめていた。

そして、翌週には離婚が成立した。母は言った。


「ごめんね。今度こそ、ママが守るから」


蓮は、ほんの少しだけ信じた。その言葉を、光だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る