クローン[カイレン]【ノゾミ視点】

 私はヒスイさんのクローン『カイレン』さんと会いました。

「はじめまして。浅里ノゾミくん」

 カイレンさんは、心が落ち着く良い声をしていて、心の底を見抜いてくるかのような瞳を向けてきます。

「は、はい。はじめまして?」


 お互いに自己紹介を済ませた後、カイレンさんは若干暗めの表情で、よくわからない大きな封筒を差し出してきました。

「自分の家に帰ってから見てみるといい」

「えっと…これは?」

「細かいことは言わない…いや言えない。ただ、一つ…、あまり気を落とさないように…」

「…それはどういう?」

 しかしカイレンさんは、私からの問いに答えることなくどこかに行ってしまいました。

 私は手に持った封筒をしばらく見つめた後、スマホを手に取って、ハル先輩へのメール画面を開きました。



 家に帰って、自分の部屋に向かいました。私の部屋は姉と別で、家の廊下の突き当たりを左に曲がったところにあります。

 私はそこで、封筒を開き、取り出した資料に目を通しました。


<実験記録「病原菌α」>

<この病原菌は地球のどの機器を用いても検知は不能、かつ治療手段もほぼない。そのため、これに感染した生物はほぼ確実に死に至る。>

 この時点で私の手は軽く震えていました。よくわからない悪寒…いやな予感がしたのです。

<実験として、浅里カタリ・浅里ナミの地球人の夫婦にこの病原菌を投与する。>

 この瞬間予感は的中し、世界のすべてが歪んだかのような錯覚に襲われました。

 なぜなら、ここに書かれている浅里カタリ・ナミの二人は、私の両親であるから。

 私は細かい部分を読み飛ばし、この資料の著者を確認しました。

 その名は、Dr.ベラ。

 脳裏に、両親の顔が浮かび上がって来ました。

 確かに、ものすごく厳しくはありました。しかし、だからといって、殺されるのは違うでしょう?


 シワだらけになった紙を再度封筒にしまい込み、顔を上げました。

 この紙を渡してきたということは、ヒスイさんたちはこのことを認知しているのでしょう。しかし、ハル先輩はそれを知らない。知らせるべきでもないでしょう。

「ふぅー」

 大きく息を吐きます。

「Dr.ベラ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る