化け物からの逃亡

 化け物は、とてもじゃないが勝てそうな見た目をしていない。もう見た目が強い。

 逃げる以外の選択肢はない…。しかし、化け物は俺たちの前に立ちはだかり、ワープ装置への道を絶っている。

「参ったな…」

 とザクロが頭を掻きながら呟いた。

 すると化け物は姿勢を低くし、突激の体勢を取った。見ると、足元の地面の表面が深くえぐれている。

 悪寒が走った俺は咄嗟にノゾミの前に出て盾を構えた。

 次の瞬間、俺の右横を黒い影が通り抜け、盾の右端のあたりが切り飛ばされた。

「なっ…!?」

 俺は恐る恐る振り返った。そこには、ゆっくりと体を持ち上げこちらに向き直す化け物の姿があった。

 これは…、ノゾミの前に出てなかったら縦に真っ二つだったな。

「ハルさん!ノゾミさん!」

 ヒスイの声にはっとして振り向くと、すでにヒスイたちがワープ装置に向かって走っている。

 俺は盾を放り投げて、代わりにノゾミを抱え、全力で走り出した。

「ハル先輩!失礼します!」

「おい?何を…」

 抱えていたノゾミが姿勢を変え、ブーツを突き出した。

「そういうことか!」

 ノゾミは「にっ」と笑い、前を向いた。

「しっかり、捕まっていてくださいね!」

「もちろ…おおおおおおお!!??」

 俺が言い終える前に、ノゾミは足の裏からジェットを噴射した。


 距離はかなり離したものの、先程の目にも留まらぬ斬撃と同等の速さで追われれば、一瞬で追いつかれてしまうだろう。だから今のうちに、ワープ装置まで辿り着く!ノゾミが!

 ワープ装置の目の前まで来たとき、俺たちの真横を黒い影が駆け抜けた。

「あっ、ヤバ…」

「ちっ」

 ノゾミが急ブレーキをかけ、ヒスイたちが立ち止まる。

 見ると、ワープ装置の前に化け物が立っていた。


 化け物は俺たちに向かって、叫び声にも似た凄まじい咆哮を浴びせてきた。

 これはまずい。誰もがそう思ったであろう。

 化け物は片腕を上げて、姿勢をかがめた。またあの斬撃が来る。

 するとザクロがリボルバーを取り出し、発砲した。

 化け物は上げていた片腕を振って弾丸を防いだ。そうしてできた一瞬の隙に、他のヒスイたちも攻撃を加えた。

 しかし、それもいまいち効いていない様子で、攻撃を防ぎながらこちらに歩み寄ってくる。そして瞬間、姿が消えた。しかし、どこに行ったのかはすぐに分かった。

 俺達の影が、さらに大きな影で覆い隠されていたからだ。


「クソッ…」

 振り返ったがもう遅い。すでに化け物は拳を振り下ろしていた。

 なんだか世界がゆっくり動くような気がする。「死」を目前にして、俺の脳が覚醒したようだ。

 しかし、防ぐ手段はない。俺は顔の前に腕を出し、目を瞑った。


 …なんか、全然攻撃が来ないな…。そう思って目を開けると、化け物がふっとばされている光景が目に入った。

「いや~危なかったね!」

「だが、俺らも限界だ…とっととずらかるぞ!」

 コハクとルリだ。俺は間一髪のところでこの二人に助けられた。すると、ヒスイが俺の元に駆け寄ってきた。

「ハルさん。大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

 俺の返事を聞いて、ヒスイが安堵の表情を浮かべる。こいつって人の心配するんだ。と、こんな状況なのにそっちの衝撃の方が強かった。

 そこでハリが声を張り上げて言った。

「皆さん!早くワープ装置に!」

 その声を聞いて、俺たちは猛ダッシュでワープ装置へ飛び込んだ。

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