犯人の居場所

 翌日、犯人の居場所を特定したので一緒に来てほしい。とヒスイに言われたので、俺はヒスイの後について行った。

「ここです」

 ヒスイはある建物を指さした。

「は?ここって…」


  そこは、俺の住んでいるボロアパートだった。

「おい、ここに犯人がいるって?」

「いえ、犯人は既に取り押さえました。今は私の下で尋問中です」

「じ、尋問?」

「ええ、何かおかしなことでも?」

「い、いや。何でもない」

 それ以上言及すれば、ろくな目に遭わないと察した俺は、深入りすることを避けた。

 すると、ヒスイが俺の顔をまじまじ見て言った。

「そういえば、ハルさん。あなたの様子を見るに、ここを既に知っていたようですが…?」

 まあ、わざわざ隠す必要もない。俺は素直に答えた。

「ここ、俺が住んでるアパートなんだよ」

「ああ!そうでしたか!」

 ヒスイは手を叩いて分かりやすく、納得した。という仕草をした。

「いやはや、学校に爆弾を仕掛けるような輩が同じアパートに住んでいるだなんて、恐ろしくてたまらないでしょう!」

「まあ…、そうだな」


「…!」

 突然、ヒスイが何かに反応した。

「どうした?」

「どうやら、犯人が情報を吐いたようです!」

「え?今?どうして分かるんだ?」

「おっと」

 咄嗟に口を覆ったヒスイは「今のは気にしないでください」と言って、話を続けた。

「犯人は私たちの高校の卒業生で、自分の理想とする進路を実現することができず、逆恨みをして爆弾を仕掛けたそうです。ついでに、他の学校に手紙を送りつけていたのも…」

「うちの学校がターゲットだったのなら、何で他のところにも変な予告状を送りつけていたんだ?」

「調査の手を分散させ、予告したことを起こさないことで、少しでも警戒心を緩めさせようとしていたようです」

「なるほど、確かに。実際、俺達も本当に爆弾があるとは思わなかったな。他のところも大丈夫だしって」

 しかし、ヒスイが言ったことにはおかしな点もある。それはこいつもよく分かっているだろう。

「で?特別な技術を持つわけでないただの一般人が、あんな特殊な爆弾を手に入れられるって?冗談じゃねぇ」

「ええ、本当に。しかし、ひょっとしたら、あの男の背後には強大な何かがいるのかもしれません」

 ヒスイはいつものふざけた雰囲気とは真逆の、真剣な面持ちで告げた。

「心当たりはあります。しかし、確実ではありません。もっと情報を仕入れなければ…。…今回の一件を皮切りにさらに大きな問題が…」

 なんだか嫌な予感がした俺は、後ずさりをしながら距離をとり、走り出そうとしたタイミングでヒスイに肩を掴まれた。気づくとヒスイは、いつもの雰囲気に戻っていた。

「ここまで知ってしまったからには、協力してもらいますよ?もちろん、ノゾミさんも…」

「俺たちをそんなのに巻き込んでも、どうしようもないと思うけど…?」

 ヒスイはニヤリと口角を上げて、言った。

「大丈夫ですよ、人員が増えるだけでもありがたいですし。貴方がたは外に情報を漏らさないって、信じてますから」

 逃げ道はないみたいだ。参ったな…。

「しかし!それほど心配する必要もありませんよ!」

「心配するなってのはちょっと厳しくないか?」

「先ほど、犯人の男が自供した情報を瞬時に知ることができた理由…。それは、私が私以外の「わたし」と思考を共有しているからなのですよ」

「私以外の「わたし」?」

 ヒスイは俺に背を向け、空を見上げて笑った。それほどまで不気味な笑いを、俺は今までに聞いたことはなかった。


 残念ながら、断るという選択肢は与えられなかった。しかし、居ない間に話を進められてるノゾミは俺以上に可哀想だな。ホントごめん。


「クシュン!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る