深まる事件と彼の謎

「そりゃ、そんなことができるなら解決したいが…」

 不信感に襲われながらも、俺はヒスイの意味不明な問いに答えた。ノゾミは混乱しているようで「え、え?」と目で俺の顔とヒスイの顔を往復していた。

 ヒスイは微笑んで言った。

「でしたら、明日の朝七時、学校前の公園で集合しましょう」

 そして、ヒスイはノゾミの方へ視線を移した。

「ノゾミさん。学校の屋上に侵入したいので、準備しておいてください」

「ええ?あ、はい…」

 ノゾミはヒスイの気迫に押され、つい何かを承諾してしまった。

 結局、ヒスイが何を企んでいるのかも、ノゾミが何を準備するのかも、わからないまま観覧車から降り、遊園地を出て、解散した。


 朝に作った弁当を夕飯として食べて、風呂に入った。あいつが、わざわざあんな嘘をつく理由もない。まさか…いや、そんなはず…。

 その日はなかなか寝付くことができなかった。


 次の日、公園で集合した俺達はそのまま学校へ向かった。校門は閉じていたし、警察の見張りもあったが、ヒスイが侵入経路を確保していたため、難なく校舎内に入ることができた。

 巡回している警備員が数名いたが、なんとか監視の目をかいくぐり、屋上に出るための扉の前まで来た。

「ノゾミさん。お願いします」

「…はい」

 そう言うと、ノゾミはポケットから針金を取り出し、それを鍵穴に差し込んだ。


しばらくして、ガチリという音と共に、扉が開いた。

「お前…今どうやって?」

「あはは…ピッキングってやつですよ。ここの鍵を開けるときにいつもやってます。普段は、ハル先輩が来る前に終わらせてますけど」

「それ、バレたらヤバくね?」

 俺がそう言うと、一瞬、ノゾミの顔が影を帯びた気がした。

「まあまあ!そんなに気にすることありませんよ!そのくらいのこと、誰にだってできるでしょうから!」

 微妙な空気感になった俺たちの間にヒスイが割り込んだ。ヒスイは先頭に出て扉をくぐり、周囲を見回した。

「大丈夫です!少なくとも、こちらを見ている人はいません!ささ、お二人もこちらに」

 そう促されて、俺達は屋上に出た。


 その後、俺達は手分けして爆弾を探した。そして、さっき屋上に入るのに使った扉の上に、見るからに危険な、まさに爆弾って感じの爆弾が設置してあった。まさか一番最初の場所にあったとは。まさに、灯台下暗しってやつか。俺はすぐにノゾミとヒスイに声をかけた。


 ヒスイは爆弾を慎重に床に置き、不敵な笑みを浮かべた。微かな悪寒を感じた俺はヒスイに聞いた。

「おいヒスイ。それをどうするつもりだ?」

 ヒスイは振り向き、俺の問いに答えた。

「もちろん。機能を停止させた後、持ち帰って解析しようと思います!」

「え?持ち帰るの?正気か?」

「もちろん!ほら、見てくださいよ!こんなに目に光が宿っている人、なかなかいないですよ?つまり、正気です!」

 いやお前の場合は目がガンギマってるだけだよ。正気じゃねぇよ。

「えっと、大丈夫なんですか?」

 ノゾミが心配そうに声をかけるが、ヒスイは胸を張ってみせた。

「ええ、安心してください!扱い方は心得ておりますので!」


 燃えるような日差しを受けながら、ヒスイは爆弾の解除を始めた。ぬるい汗が頬をつたう。その汗を拭いながら、ヒスイは着実に作業を進めていった。

 すると、ノゾミが俺に近づいてきた。

「ハル先輩。ヒスイさんって、もしかして天才なんですかね?」

「いや、あれはもう、天才なんて一言で表せない何かだろ…」

「確かに…」

 カチリ

「おい!何だ今の音!?」

「ああ、大丈夫ですよ。正しい反応です」

 心臓に悪いな。さっきから溢れる汗が、暑いから出ているのか、冷や汗なのか分からないぞ。

 数十分後、ヒスイが爆弾を抱えて立ち上がった。

「まさか…、本当に解除できたのか?嘘だろ?」

「本当ですとも。なかなか複雑な機構で少々苦戦しましたが、私にかかれば大した問題ではありませんね」

 自信満々にそう語るヒスイにノゾミが尋ねた。

「結局、どんな爆弾だったんですか?」

「ふーむ、どうやらこちらは、遠隔操作が可能で、かなりの破壊力を有している代物みたいですね。さらに、爆破時に周囲へ爆炎をまき散らすおまけ付き!」

「じゃあ、あのまま爆発していたらやばかったってことか?」

「そのようですね〜」

 そのようですねじゃないが。しかし、こんなものを誰が仕掛けたんだ?

 俺が爆弾をまじまじと見ていると、ヒスイが言った。

「これを持って帰って分析し、遠隔操作機能を利用して電波の発信源をたどります」

「なるほど、そうすれば、犯人がわかるということですね?」

「Yes!」

「そんなことできるのかよ…」


 そうして俺達は解散した。

 今回の事件で、ヒスイの謎が余計に深まったな。面倒事に巻き込まれないといいんだが…。

 なぜだろう。この爆弾が、さらなる事件が起こるトリガーになるような気がしてならなかった。

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