同じ世界、いくつもの彼
白黒天九
物語の幕開け
昼休み、太陽の照る青空の下、俺は屋上で黄昏ていた。
いや別に「黄昏てる俺かっけーー!」とかそういうんじゃない。ここの、落ち着いていて朗らかな風と、グラウンドにいる生徒たちの騒々しさをほどよい具合に感じられる雰囲気を気に入っているだけだ。
本来、学校の屋上に生徒は来られない。高二で、大人に頼みごととかをしたくない年ごろの俺には尚更。
じゃあなんでここに要られているのかって?それは、俺の隣で座っている
彼女は俺の後輩で高校一年生。小柄な体格に少し茶色がかった髪。そしてその笑顔から放たれる輝き。太陽と比べてもいい勝負になるだろう。
とにかく、どうやってかは知らないが、ノゾミがここの鍵を開けておいてくれるおかげで俺がここに来られているってわけだ。
鍵を開けるという行為の報酬は俺の弁当だ。容器以外全部食われる。まあ、俺はそんなに食うタイプじゃないし、別にいいんだけど。
そんなふうに脳内で状況の説明をしていると、ノゾミに声をかけられた。
「そういえば、お弁当はハル先輩が毎日自分で作っているんですよね?」
「ああ、一人暮らしだからな。このぐらいの能力は自然と身に付いたんだ」
「いつも美味しいですよね〜。すごいです」
「レンジでチンしたやつとかは特にうまいだろ?」
「それ以外もですよ」
自己紹介が遅れたな。俺は
ノゾミとは幼馴染で、昔から関わりがあったおかげで陰キャになった今も全然平気で話せている。
チャイムがなり、それに反応してノゾミが立ち上がった。
「ハル先輩!もう昼休み終わりですよ!お弁当箱返しますね!」
「おう、それじゃあな」
「はい!」
そんなこんなで解散した。次会うのは帰りのときだ。今日はノゾミが所属するバレーボール部の活動がないらしいから、一緒に帰ることになっている。
空が若干赤く色づいたころ、ようやく今日の授業がすべて終わった。さて帰ろうかと支度をしていると、背後から声をかけられた。
「ハルさん。もうお帰りですか〜?」
異常なまでに明るい声。振り返らずとも分かる。こいつはこのクラス、いや学校一ヤバイ奴こと、
「そりゃ、残る用事もないしな。それに、今日はノゾミと帰る予定だから、待たせるわけには行かないんだよ」
「なるほど!そうでしたか!」
ヒスイは人間観察をガチで趣味にしているような奴だ。
いつも目をギラギラギョロギョロさせていて、めちゃくちゃ怪しい。ただ、妙に役立つ情報と知識を持っていて、運動神経も良くて、なんだかんだ周りから頼りにされている。
「ではでは!また明日会いましょう!」
「おう」
早歩きで階段を降りて、下駄箱から靴を取り出した。その時、ちょうどノゾミが階段から降りてきた。
「あ!先輩、早いですね!」
「ま、早く帰って寝たいからな」
「あはは、じゃあ行きましょうか」
そこで、背後から謎の視線を感じた。が、多分あいつだろう。そこまで気にすることはない。
帰り道の途中、ノゾミが話を切り出した。
「あ、そういえば、最近色んな学校に変な手紙が届いてるらしいですね」
「変な手紙?」
「そうそう、購買の食品に毒を混ぜるとか、武装した集団を送り込むとか。まあ、どれも本当に起こったわけではないみたいですけどね」
「なんだそれ。ひょっとしたら、うちも狙われてるかもな」
「ちょっと〜。やめてくださいよ」
そうして、分かれ道についたところで別れた。
「学校に変な手紙…誰が何のためにそんな事やってんだ?」
虚空に向かって呟いたが、誰が答えてくれるわけでもなかった。
そこからさらに5分ほど歩いて、俺が住んでるアパートに辿りついた。
ネズミと共同生活。Gがブーン。鍵がほぼ意味をなしていない。安かったから選んだだけのボロアパートだ。
もちろん。対策は自分でしている。鍵を付け替えたり、防虫剤を撒いたり。そのおかげでだいぶ安心できる環境になった。
そこまでしてどうして一人暮らしをしているのか、簡単な話、親との相性が悪かった。異様なまでに重くのしかかる期待。昔は習い事とかも結構させられていた。
しかし、親とっては残念なことに、俺は自由を愛する者。自由ない。期待重い。正直しんどい。スリーアウトで環境チェンジ。そんなところだ。
「はあ……。風呂入るか」
ほのかに揺れる夕日の光が、窓から差し込める部屋の端に、通学かばんを投げ捨てて。俺は脱衣所に向かった。
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