3人の涙と恋のセッション
ルイーズはアードルフたちが帰ると、バイオリンを手にした。
音楽院に舞い戻り、練習室に直行する。
「あれ、ルイーズ?」
フローレンスとコンラートが仲良く練習していた。練習室にいるところを見かけて扉をノックしたのだ。
「練習せずに帰ったと思っていたのだけど?」
「ええ。なんだか練習する気分になれなくて。でも、屋敷にもアードルフが訪ねて来たから逃げて来たわ」
冗談ぽく言ったが、フローレンスが真剣な顔になる。
「あ……私がいろいろと話しちゃったからだよね?」
「そうね。私的にはスッキリしたところもあるけど、クリスティアンたちの関係を勝手に話したらダメだと思うわ」
「そ、そうだよね。でも、ガマンできなくて。……で、どうなったの?まさか復縁したとか??」
「いいえ。......完全に終わったわ。今頃、ライムント伯爵邸で団らんでもしているのではないかしら」
「ライムント伯爵邸?どういうことだ?」
コンラートが尋ねる。
「アードルフが屋敷に来たから、エレオーラさんたちを呼んだのよ。彼女と私とどちらを選ぶかと突き付けたわ。強引だったけれど、彼には選択させなければならなかったから。きっと彼ならエレオーラさんを選ぶと思ったわ。事実、そうなった」
「アードルフ兄は、エレオーラを選んだの!?」
「エレオーラさん自分の欲求に正直だから、彼女にすがられたら優しいアードルフは彼女を選ぶしかなかったでしょう。私は、彼の優しさに付け込んだのよ。終わりにするために」
自嘲気味に言う。
(彼のためであり、自分のためだったわ)
アードルフとは、いつか終わらねばならない付き合いだと薄々感じていた。
「ヒセラちゃんだったかしら、あのお嬢さんはとても可愛いわね。アードルフの言う通り、とても彼に懐いていたわよ」
無理やり笑顔をつくって言ったら、フローレンスたちが悲しそうな顔をした。
「ルイーズの中で出た答えなんだもんね。.........レウルスと付き合うつもり?」
彼らはレウルスの気持ちを知っている。
「そう、簡単にいかないわ」
「どうしてだ?君はレウルスを尊敬しているのだろう?尊敬は愛につながる感情だと思うが?」
コンラートが珍しく熱くなって言う。
「彼を尊敬しているわ。心から」
「では、なぜ、付き合わない?レウルスは待ち望んでいるはずだ」
「.......彼は正直、ステキだと思う。だけど私、ヘンリー様の婚約者の立場であったのにアードルフと恋人になったでしょう?リリアン様がいたとはいえ、私が心をほかに移した事実として認識されている」
「自分の評判を気にしているのか?」
「私もだけど、レウルスもアードルフにも影響が及ぶと考えているわ」
レウルスの告白を受けて以来、もし自分が気持ちのまま突っ走ったらどうなるだろうと考え続けていた。
「どういうことだろう?詳しく聞きたい」
「アードルフは悪女に惑わされて女を見る目がないとか、言われるかもしれない」
「考えすぎではないか?」
「人はいいようにウワサするものよ。想像しないようなことを言うものだわ。そんな私と付き合う人は、きっとマイナスに言われるでしょう」
「そうだとしても、レウルスならば気にしないのではないか?」
「世間での印象は考慮すべきだわ。私はレウルスの評判を下げるようなことはしたくない」
「考えすぎだよ......」
話を聞いていたフローレンスが泣きそうになっていた。
「どうして泣くの?」
「.......ルイーズがあんまりにも自分を抑えようとするから。クリスティアンたちのことだって私が言わなきゃ、アードルフ兄は永遠に事実を知らないままだった。エレオーラなんて自分の欲望に正直じゃん。ルイーズだって欲しいものは掴み取ったらいいんじゃないの!?」
「理由はほかにもあるの.......」
「なんなのよ!」
フローレンスが半泣きで言う。彼女の気の良さがとても温かった。
「レウルスとは同郷でしょう?留学前からいい仲であったのを隠し、アードルフを隠れ蓑にしていたと言われる可能性もあるわ」
「そんなことある?」
「実は、ヘンリー様はレウルスを警戒して留学させたという経緯があるの。もちろん、彼には実力があったのは間違いないけれど」
フローレンスたちに留学前の擦ったもんだを詳しく話した。
「.......じゃあ、ヘンリー王子はレウルスとの仲を疑っていたのに、アードルフ兄とルイーズが付き合って驚いていたわけ?」
「まあ、おそらくそうよ」
「君の考えることは無きにしも非ずではあるな。とても慎重な考えだ。正直、私たちはそこまで考えていなかった」
コンラートが言う。
「だが、大事な友が苦しんでいるのだと思うと、私も泣けてきた」
コンラートまで目が潤んでいる。
「……ありがとう。あなたたちは私の大事な人たちよ」
つられて、ルイーズも涙ぐんでいると、練習室の扉が開いた。
「なんで、3人して泣いている?」
レウルスだった。
状況を説明すると、彼は突然“セッション”をしようと言い出した。
「いいね。今の私たちには気分転換が必要だ。なにを弾く?」
「“恋の挨拶”はどうだ?」
「今のルイーズたちにピッタリだね」
フローレンスの言葉に思わずレウルスを見ると、彼と目が合った。
......セッションが終わると、そそくさとフローレンスたちは練習室を去って行く。
「フローレンスたちったら......」
「さっきの話だが.....」
レウルスに言われて自分の考えを再度、丁寧に説明した。
「ルイーズの言い分は分かったし、オレの気持ちは別として納得はできる。だが、ルイーズはアードルフに捨てられたことになるぞ。いいのか?」
「構わないわ。私は元々、メッツォとトリアの友好を保つために留学を許されたのだし。メッツォに非があることにならなければいいの」
「だが、つらいだろう?」
「レウルスが側にいてくれたらそれでいいわ」
「ルイーズ.........」
甘い雰囲気になるが、音楽院には多くの目がある。彼と距離をとった。
「しばらくは、こうして適切な距離をとりながら友人として過ごしていきましょう」
「なかなかしんどいことを言うな」
味方がいると思えば、なんと言われようとも乗り切れる気がしたのだった。
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