突然起きた事故
翌日、メッツォから急ぎの知らせが宿に届いた。
なにごとかと思えば、父が初の演奏旅行に向けて衣装を贈ったらしい。高速列車にドレスを乗せて急ぎ贈らせたから取りに行くように、とのことだった。
メッツォには定期的にこちらでの活動や成績について知らせているから、初の演奏旅行に行くことを知った父が張り切ったみたいだ。
「お父様ったら。ドレスなんてとっくに用意しているというのに。でも、嬉しいわ」
父に会いたくなった。この演奏旅行が成功したらメッツォに堂々と凱旋することも叶うかもしれない。
「お嬢様、午前中は練習ですよね?練習の間にドレスを受け取りに行って参りますね。デニスも手伝ってくれるそうですから」
「宜しく頼むわ」
朝食が済むと、ジーナとデニスは駅へと向かって行った。
ルイーズたちも近くの練習場として用意された建物に移動する。
演奏旅行前に集中して練習は行っていたが、列車の中では楽器演奏はできないのでさっそく音を出して練習したかった。
さっそくそれぞれの演奏の確認をしていく。それぞれの演奏の癖があるから、譜面と照らし合わせながら音を出してチェックする。
「....ここのアレンジしたテンポ、今、弾くと合わないよな。どうする?」
何度か流して弾いてちょうどいいテンポを決めていった。
「ここの音程だけど、最後、転調してるから、めちゃムズイ~」
「もう一度いこう」
コンラートがしっかりと仕切ってくれた。
クリスティアンは座って見ていて、現場のことはコンラートに任せていた。
練習場に人が入ってくるとクリスティアンになにやら急いで耳打ちする姿が目に入った。クリスティアンは急いで席を立つと、皆に声をかけた。
「練習中、すまないね。駅で事故が起きたようだ。僕は様子を見て来る。皆は練習を続けていて」
クリスティアンは急いで練習場を去って行った。
「事故ってなんだろう?」
「駅で起きたって言ってたよね」
(駅には父が贈ったドレスを受け取りにジーナとデニスが行っている。大丈夫かしら.........)
心配ではあったが、クリスティアンが確認に向かっているので練習に集中した。
........だいぶ時間が経って練習が終わると、皆で宿へと戻った。クリスティアンが戻って来ていた。
「はああ~」
「どうしたの?」
クリスティアンは宿のソファに沈み込んでいた。
「駅前が陥没したんだ。怪我人はほとんどいない様だが、巡業で使う譜面台やら乗せた列車が埋もれたらしい。しばらく列車はここに来ないぞ。急いで道具を手配しないと.......」
彼は演奏会への影響を心配していたが、こちらはジーナたちが駅に行っているのだからそちらが心配になった。
「あの、怪我人はほとんどいないって言っていたけれど、ジーナたちが駅に行っていたの。彼らがどうなったか知らない?」
「ああ、そう言えば。君の侍女と護衛が軽傷を負っていたので病院に連れて行くように指示してきたよ。命に別状はないが、しばらく静養が必要なんだそうだ」
「……!」
ルイーズは口を押えた。命に別状が無いとはいえ、ジーナは幼い頃から付き従ってくれている人物だ。デニスだってトリアに来てから助けになってくれている大事な使用人だ。
「落ち着いて。彼らの怪我は深刻ではないよ。だからこそ、僕はすっかり巡業で使う道具の心配をしていたんだけど、気持ちを考えずにゴメンね」
「いえ......。彼らが戻るまでだいぶかかるのかしら?」
「うーんとしばらくはって話だったな。......でもさ、護衛騎士の彼、なんだか嬉しそうだったよ。君の侍女に気があるんじゃない?甲斐甲斐しくお世話していたから」
デニスはジーナに片思いをしている。事故は不運だが、彼らの距離を縮める出来事になるかもしれない。
「そう、彼はジーナのことを好きなの。思わぬチャンスになったかもしれないわね。ほかに、深刻な状況の人がいなくてよかったわ」
「全くだ。ひとまず、我々は巡業先の街に移動しておこう。午後からすぐに移動するよ。準備しておいて」
駅周囲で起きた事故の影響で、こちらで合流するはずのスタッフも簡単には集まれないようである。
移動した先で、しばらく滞在することになるだろうと言われた。
馬車で巡業先の街に移動すると、そこは山のふもとであった。保養地らしく観光土産の店などが多く見られる。ちなみに、ここは冬には板を使って雪遊びができる人気の観光地らしい。
「じゃあ、しばらくここに滞在することになるから、さっさと部屋割りをしよう」
疲れ切った様子のクリスティアンが言った。
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