妖艶な貴婦人を尾行する

護衛と共にレウルスたちの後を追う。


「お嬢様、尾行する時は距離をとらねばなりません。今のお嬢様の服装は目立ちますし接近するのは危険です」

「そういうものなの?」

「はい。本当は複数名で尾行するのが基本なんです。それに私のような制服ではなく溶け込める服装が好ましく……」

「ちょっと、声のトーンを下げてちょうだい」


護衛は突如として与えられた任務に燃えていた。どうも得意分野らしい。


「お嬢様、これだけは大事なのでお伝えしておきますね。対象者と目を合わせないようにして下さい」

「目を合わないようにするのね。どこを見たら良いのかしら?」

「足元を見るといいんです。なぜかというと、足元はですね…」

「しぃっ」


口の前で人差し指を立てる。どうもこの護衛はおしゃべり好きらしかった。


前方を歩くレウルスがどんな表情をして歩いているのか気になった。足元を見ろと言われたが、どうしても顔を見たくなる。


「ねえ、あなたは逆側からレウルスの様子を見てきてくれないかしら?」

「それはダメです。私はお嬢様の護衛なのですから。離れるわけにいきません」


願いは却下された。こうなったらどこに行くのかをひたすら探るしかない。しばらく歩くと、レウルスたちはカフェに入って行った。


「カフェに入ってしまったわ」

「そうですね。当分、出てこないかもしれませんね」

「私たちはどうすればいいの?」

「そうですね……」


護衛はうーんと考えている。


「私が女性の特徴をしっかりと覚えましたからどこの誰だかは調べさせれば分かると思います」

「特徴を覚えたって………私だって彼女の特徴ぐらい言えるわよ?年上の妖艶な女性でしょ?」

「いえいえ、そういうことではなくてですね.........私は似顔絵が得意なのです。似顔絵を描いたものを情報屋に見せればすぐに誰だか判明するでしょう」

「そんなすごい特技を持っているのね。あなたの名前は?」

「おっと、ようやくお尋ねになってくれましたね。私はデニスです!こちらではいろいろなツテをもっておりますので、頼りにして下さいね!」


ガッツポーズをとるデニスはお調子者でもあるらしかった。


「ええ、しっかりと覚えておきましょう。あの女性が誰だか分かったら特別報酬も出すわ」

「おお、ナイスです!では、私はさっそく情報屋のところに行って参りますので、お嬢様は用事を済ませられていはいかがでしょう?馬車で楽器店に行く分には御者もおりますし、問題ないかと。支払いも彼がやりますので」

「分かったわ。でも、この場所から誰もいなくなってしまうわよ?」

「ご心配なく!ここから情報屋までは近いのです。こちらの状況を探る人員をすぐに手配して見張らせます!」

「あなたってデキルわね」


褒めるとデニスは笑顔でルイーズを馬車の元へと送り、楽器店へと向かうように御者に指示していた。楽器店に着くと、弦の購入と張替えをする。張替えは自分でした。


(張替えも慣れたものだわ)


バイオリンの扱いも巧みになってくると、一端のバイオリニストになったような気分になる。いずれ、コンクールにも出てみたいと思っているが、ルイーズの留学はとりあえず1年という約束で来ている。とてもじゃないが足りないという気持ちになっている。


(私はレウルスから離れるわけにいかないわ。近くにいてもさっきみたいなことが起きるのだもの)


まだ、モヤモヤしていた。先程の貴婦人が誰なのかとても気になる。


「お嬢様!」


デニスが楽器店に入ってきた。


「もう、手配は済んだの?」

「ふっふっふ!私はなかなか優秀なのですよ。..........もう、あの貴婦人が誰だか分かりましたよ」

「え、もう?誰だったの?」

「あの方は、亡きコンスタンツェ伯爵の妻であるイザベラ夫人でした。音楽好きで知られたコンスタンツェ伯爵は3年前に亡くなられたみたいですね。それで、夫人が夫の代わりに若い音楽家を支援しているようです」

「支援しているの?後援者ってわけね」

「はい。さっそくあのカフェに人を潜入させましたので、詳しい話も聞いてこれるでしょう」

「まあ、あなた、本当に優秀ね」

「ふふふ。今後もしっかりとお役に立ちますよ!」


デニスは得意気だった。


「夜にはカフェでの会話も報告できると思いますので」

「頼んだわ」


屋敷に戻ると、練習を続けた。弾き続けるうちに身体も疲れにくくはなってきたが、まだ身体全体的に疲れる。楽器を弾くにも体力がいると思う。


練習に疲れてお茶を飲んだりしていると、デニスがやってきた。


「お嬢様、デニスがお嬢様に用事があると言っているんですが」

「ええ。通してちょうだい」


ジーナはデニスがルイーズになんの用事だという目で見ている。すぐに練習を始めてしまったので事情を話していなかった。


「まずは、詳しい追加情報から報告しますね。…コンスタンツェ伯爵は特にチェロが好きだったようです。そんな理由もあって音楽院から将来有望なチェリストとしてレウルス様を紹介されたみたいですね。夫人は音楽院に寄付を行っていますから」

「音楽院が紹介などするの?」

「優秀者に後援者を紹介するのも音楽院ではよくあるみたいです」


(支援など、私がするのに)


「それで、カフェでの会話ですが、場所までは分かりませんでしたが演奏旅行に行くようなそんな話だったらしいです」

「演奏旅行ですって!?」


音楽院の冬休みは1ヶ月ほどある。もし、冬休みならば1ヶ月後には冬休みに突入してしまう。


「これは、探りを入れなくてはならないわね」


険しい表情を浮かべたルイーズだった。

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