気配りができる人を目指す!

いまだレイニーに引っ付いていたミアにレイニーが優しく言う。


「ミアもそろそろ15歳になるだろう?男とは距離を保たなきゃダメだぞ」


隣に来たシャーロットから聞くに、ミアと呼ばれるチェロ女はどうやら12歳から楽団の練習に参加しているベテランらしかった。


「私、まだ子どもでいたいのに~」

「だんだんと小さなレディから大人のレディにならないとな」


レイニーがミアの頭をポンポンとしている。


「分かった~。ああ、ノド乾いたなあ。新人のオリビアさん、ココア入れてきてよ~」


無邪気そうな声でとんでもないことを言うミアに、さすがにブチ切れそうになった。


(首を落とされたいのかしら!?)


だが、楽団では新人が飲み物を用意するものなのかとも思い、内心ブチ切れながらも飲み物コーナーに向かった。


飲み物コーナーに来ると、茶葉だのなにかの粉だのがビンに入っている。どれがどれだか分からないし、飲み物など自分で入れたことがないので困った。


(もう!どう入れればいいの??)


困っていると、後ろに人の気配がした。


「こうしてやるんだ」


レウルスだった。手際よくココアを入れていく。


「よく見て覚えろ。あと、アイツの言うことは気にするな。ミアはまだ子どもだ」

「14なら子どもじゃないわ」

「..........アイツの両親は事故で亡くなっている。ここの皆に甘えられて安心しているんだ」

「そうだったの………」


理由を知ると、大目に見てあげようという気持ちになった。


「お前は何を飲むんだ?」

「私は紅茶だけど............茶葉はどこ?」

「お前……こういうものも知らないのか?」


レウルスは小さな袋に入った茶葉を見せる。


「……それはなに?初めて見たわ」

「はぁ。いいか、見てろ」


紅茶の入れ方を教えてくれた。カップに袋を入れて湯を入れるだけだった。


(言葉使いも態度もぶっきらぼうだけど、こうして教えてくれるのだから優しいわ)


「教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。ちなみに、飲み物を入れて皆に配るのは新人の役目だぞ」


お盆を渡された。


「私、こんなの運んだことがないからお盆をひっくり返してしまいそうだわ」

「やらなきゃ慣れない」


お盆をテーブルに置くと、飲み物を入れたカップを上に乗せていく。


「それを両手で持って運ぶ。それだけだ」

「こんな重い物を持ったことなんて……」

「郷に入っては郷に従え、だ」


(言うことは理解できるけど……!こんな重いお盆など私が持てるわけないでしょう!)


イヤな予感しかしない。それでもどうにかお盆の両端を持って持ち上げる。腕がプルプルした。


「はあ。やはり無理か。オレが運ぶ。少しは庶民を見習え」


小さな声で文句を言うと、ルイーズが持っていたお盆をヒョイとレウルスが持ち上げて運ぶ。


(ふう、カップを割らずに済んだわ………レウルスがフォローしてくれて良かった)


ミアと話していたレイニーがこちらにやって来た。


「ごめん、ごめん。飲み物なんて入れたことないし、運んだりしたこともないんだろう?新人がやるべきこととは言え、無理しないでいいからね」

「いえ、さっき、レウルスさんからこれは新人の役目だと聞きました。だから、やるわ。お盆を持てる気はしないけれど、なるべくカップは割らないようにする」

「割る前提なんだね。はは」


レイニーと話していると、レウルスに呼ばれた。


「おいオリビア!オレが運んでやったのになんでそこにいる?飲み物を配れ」


飲み物を配るのはオリビアにやらせるようだ。お盆にはたくさんのカップが並んでいる。


「私も手伝ってあげるわ」


シャーロットが手伝ってくれた。ミアにはシャーロットが飲み物を渡す。


「ミア、あんた、小さい子のつもりでいつまでも甘ったれていたらダメよ。音楽で稼ぐって決めたんでしょ?」

「うん。シャーロット姉さんみたいになる」

「うふふ、可愛い子」


シャーロットがミアの頭を撫でていた。


(ミアって、シャーロットに憧れているのね)


シャーロットは言葉がキツめだが、見ていると楽団員の一人一人にきちんと接していた。的確によく人を見ていて、困っているとすぐにサッと寄って助けている。


(シャーロットのような女性ってステキね。私も飲み物くらい配れるようにしましょう)


その夜、屋敷に帰るとジーナにお茶のセットとお盆を用意させた。


「お父様、お兄様、お好きな飲み物を入れて差し上げますわ」


また奇妙なことをしだしたと、父と兄は変な顔をした。


「なぜ、そんなことを?お茶を入れるのはメイドの仕事だ」

「私は庶民の気持ちを理解するためにも、お茶を入れられるようにしたいのですわ!」


父と兄は見合わせて無言になったのだった。

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