第18話「寄せ鍋戦士団、それぞれの一日」

すみれの朝ー


午前7時、町田の安アパート。

目覚ましの音が鳴り響き、すみれはベッドの中で小さく呻いた。


「あと5分……いや、あと3分……」


その3分が地獄の始まりになることを、彼女は知っている。


慌てて起きて、メイクをして、

コンビニのパンを片手に出勤。

電車に揺られながら、ふとスマホを開くと

#寄せ鍋戦士団 のタグがまだ動いていた。


通知の中に一つ、知らない人からのコメント。


「寄せ鍋戦士団、勇気もらいました!」



小さく笑う。

現実は相変わらず地味だけど、

あの衣装を着るときだけ、

自分がちょっとだけ“ヒロイン”に戻れる気がする。



まどかの朝ー


午後1時、八王子の古いマンション。

まどかはアイロンをかけながら、洗濯物を見てぼやいた。


「白布、また減ったな……」


(※前回のコスプレでスカートを布団カバーから切り取ったため)


キッチンからは煮物の香り。

ラジオから流れるのは昭和歌謡。

彼女にとって、推し活も家事も“生活の延長”だ。


昼ごはんを食べながら、Xを開く。


「寄せ鍋戦士団のマミヤ姐さん、マジで推せる」



「姐さん、か……悪くないわね」


昔は“オタク”って隠してた。

今は、“好き”って言える。

年を重ねてようやく手に入れた、

小さな誇りだった。




あかりの朝ー


午後11時、エナジードリンクの缶が6本並ぶ机。

あかりはパソコンの前で爆笑していた。


「ヤバいwww寄せ鍋戦士団のMAD動画できてるwww」


ファンが作った動画には、

三人が戦闘ポーズでキメる瞬間が

アニメ調のエフェクト付きで流れていた。


「寄せ鍋戦士団、覚醒!」

というナレーションで締め。


「うちら、完全にコンテンツじゃん!」


キラキラのモニターに照らされながら、

あかりは満足そうにエナドリを飲み干した。

自由で、うるさくて、でも愛しい毎日。





夜。

三人のLINEグループに、すみれからメッセージが届く。


『次の合わせ、どうする?』




まどか『布、足りない』

あかり『エナドリは足りてる』

すみれ『……うん、いつも通りだね』


画面の中のスタンプが弾けた。

今日も、寄せ鍋戦士団は平和である。






つづく





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