第3話 「データ開封、心臓爆発。」

変身体験から3日後。

メールの件名に【旅彩ぷらざ/お写真データお届け】の文字が届いた。


見た瞬間、心臓が「ドンッ!」って変な音した。

クリックするのが怖くて、指が汗ばんでスマホの画面が反応しない。

(スマホも私の緊張感じてんの?)





開封。





……誰?

最初の一枚目、私じゃない。

黒と金の衣装、涼しい目線、きっちり揃えた姿勢。

THE・勘解由小路無花果様。





「いや、これ私?私の皮被った誰かじゃない?」


スマホの画面をピンチアウトして、まじまじと見た。

顔の輪郭、鼻筋、口角の上がり方……確かに私。

でも、目が全然違う。

「自分で自分を信じてる」目だ。





思い返せば、あの日。

メイクの仕上げで鏡を見た瞬間から、何かが変わってた。

撮影中は緊張してたはずなのに、

写真の中の私は、“自分の強さ”をちゃんと持って立ってる。





スライドしていくと、ちょっと笑ってるカットもあった。

「無花果様が笑ってる」ってだけで破壊力があるのに、

それが私の顔っていう事実が、脳に負荷をかけてくる。





一枚一枚見てるうちに、

あの時の感覚がじわっと蘇る。

武装されていく安心感、背筋を伸ばすときの快感、

カメラの前で“笑わない”選択をした自分。





正直、昔の私は写真が大嫌いだった。

撮られるたびに、

「ほらやっぱりブス」「笑い方変」って自分で思ってたから。


でも、この写真たちは――

“なりたい私”が、ちゃんとそこにいる。





気づいたら、LINEで昔からの友達に一枚送ってた。


『誰?』

――3秒後に返信がきた。


『私。』

――2秒後に既読。


『……マジで?え、すごくない?』

――5秒後。


スマホを握る手が、じんわり熱くなる。





その日の夜。

フォルダの中の「無花果様(私)」を見ながら、

ふとこんな考えが浮かんだ。


「……これ、イベントで着たらどうなるんだろ?」





あの影口の声がまだ心の奥でくすぶってる。

“あれ、痛くね?”って笑われた、あの日のままじゃ終わりたくない。


今の私は、あの時より、きっと少しだけ強い。










つづく



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