第八夜 整形し過ぎた女
誰よりも美しくありたい…そう願う方がいらっしゃいます。
メイクの上手い方は、本当に驚く程、素晴らしく美しくなられますね。
しかし、それでは物足りなくて、整形というのに手を出す。
最初は、一重瞼を二重に…そんな所から始まるのでしょう。
そのうちに、次は鼻、唇、頬…至る所を整形するようになり、自分の元の顔が分からなくなる程に…。
そうなると、もう依存です。
もう完璧なのに、それ以上を目指し、美しさを求めていたはずが、すごい事に…なんてことも。
人間の美しさなんて、見かけではないのですけれどね。
さて、今宵は、そんな整形に関するお話でございます。
では、開幕…いや、開店。
酒を飲みながら、不思議な話、怪談話、人怖を話すBARがある。
その名を『THRILLER BAR JOKER』という。
今夜もまた、そのBARの扉を開け、一人の女がやってきた。
女は、顔もスタイルも、素晴らしかった。
しかし、何処か違和感を感じる。
「いらっしゃいませ。」
カウンターの中で、軽く会釈をしながら、女から漂う違和感に、JOKERは、眉を寄せる。
「赤ワイン。」
カウンターの席に座り、そう言った女に、先程から感じていた違和感に、JOKERは、気付いた。
女は、美しかった。
どの男でも引き寄せる魅力的な女だ。
だが、女には、表情が無かった。
いや、正確には、表情を作る事が出来ないのだ。
笑っているのか、怒っているのか…泣く時は涙が流れるので分かるだろうが、それが嬉し泣きなのか、悔し涙なのか…女の顔からは読み取れない。
「ねぇ…。私、綺麗?」
女がそう尋ねてきた。
JOKERは、ワインの入ったワイングラスをスッと、女の前に置き、こう応えた。
「そうですね…。それが整形ではなかったら、綺麗だったでしょうね。」
その言葉に、女は、フッと笑った。
多分、笑ったのだろう。
唇の端が少し上に向いた。
「…そうよね。でも、私は満足よ。私を見て、振り向かない男は、いないもの。」
「なるほど…。しかし、表情が作れないというのは、何かと不便では、ございませんか?」
女は、ワインを一口、口に含むと、ゆっくりと飲み込んだ。
「そうね。でも、もう無理なんですって。これ以上の整形は、難しいの。目と鼻を整形した所までは、良かったのだけれど。」
「何故、そこまで、整形を…?」
「好きな人に振り向いて欲しかったの。だけど、今は、そんな事は、どうでもいい。私は、もっと、美しくなりたい。」
ほとんど、表情のない顔で、女は、そう言った。
そんな女の前に、スッと顔を近付けると、JOKERは、ニヤリと笑った。
「御客様…。あなたの本当の顔は、どれですか?」
JOKERは、女の前に、鏡を置く。
鏡の中の女の顔が、まるでカメラで写真を撮っているかのように、カシャンカシャンカシャンと、変わっていく。
「な、何なのよ!?これ?!」
カシャンカシャンカシャンと変わり、最後は、目も鼻も口も、ごちゃごちゃになった顔が映し出された。
「いやっ…!!」
女は、鏡を手で払う。
鏡は、カウンターのテーブルの上から、ゆっくりと倒れ、店内の床へと落ちていく。
床に落ちた鏡は、激しい音を立て、破片を飛び散らし、砕けた。
その破片が幾つも、女の顔に突き刺さる。
「ぎゃあー!私の顔が……!顔が……!!」
女は、両手で顔を押さえ、フラフラと、店を出て行った。
それを見て、JOKERは、軽く笑みを浮かべる。
「またの御来店をお待ちしております。」
床に散らばった鏡の破片を片付けながら、JOKERは呟く。
「本当の美しさは、心なんですがね。」
THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。
ー第八夜 整形し過ぎた女 【完】ー
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