第一夜 間違われた男




 皆様、今晩は。


皆様は、痴漢を御存知ですか?


えっ?バカにするな!それぐらい知ってる!…まぁまぁ、そうお怒りにならなくても…。


別に、バカにしているわけではございません。


まぁ、痴漢の被害者は、ほとんど女性が多いですよね。


しかし、今の世の中、男性が被害を受ける事も…。


もし、あなたが痴漢の被害にあった時、あなたは、恥ずかしくて黙ってる方ですか?それとも、勇気を出して、その痴漢の手を掴み、「この人、痴漢です!」と言える方ですか?


最近は、勇気のある女性が多いですからね。


それで、無事に解決すれば、よろしいのですが…。


今宵は、そんな痴漢のお話です。


では、開幕…いやいや、開店。




不思議な話、怪談話をしながら、酒を飲むBARがある。


その名を『THRILLER BAR JOKER』という。




  THRILLER BAR JOKERの店の扉を開け、一人の男が入ってきた。


店内のカウンターの中で、グラスを磨いていたJOKERは、そちらをチラリと見ると、にこやかに微笑む。


「いらっしゃいませ。」


その声に、JOKERの方に視線を向けた男は、少し不機嫌そうな顔で、カウンターの椅子に腰を下ろした。


「全く…頭にくるな。」


男は、呟くと、ウイスキーを注文する。


酒の準備をしながら、JOKERは、口元に笑みを浮かべ尋ねる。


「何かあったのですか?」


JOKERの言葉に、男は、眉を寄せ、応えた。


「痴漢に間違われたんだ。」


「痴漢…ですか…。」


「そうだよ!俺が痴漢するかよ!」


怒鳴るように言うと、カウンターに置かれたウイスキーの入ったグラスを男は見つめ、再び、JOKERの方に視線を向けた。


「なぁ、俺って、痴漢をするように見える?」


男の問いに、JOKERは、フッと笑みを浮かべた。


「そうですね…。痴漢をするように見える…というか、出来ませんよね?」


「だろ?本当、頭にくるんだよ!」


男は思い出して腹が立ってきたのか、再び、イライラしてきたようだ。


「あの女、俺を痴漢扱いした上に、俺を見て「きゃあ〜」って悲鳴上げて、ぶっ倒れてんの。失礼にも程があるよ。」


男の話を黙ったまま、JOKERは聞いていた。


「だいたい、俺は、両腕がないんだから、痴漢したくても、出来ないんだよ!なぁ、そうだろ?」


「ええ…まぁ…。」


男の両腕は、肩の辺りから無かった。


「痴漢に間違われたのも腹立つけど、あいつ、俺を見て悲鳴上げて、倒れるんだよ。それがまた、頭に、くるの!」


その言葉に、JOKERは、クスクスと笑う。


「それは……仕方ありませんよ、御客様。」


「はぁ?何でだよ?!」


眉を寄せ、睨みつける男の方に、ニュッと顔を近付け、JOKERは、ニッと笑った。


「だって、御客様……あなた、もう死んでいるのですから。」


JOKERがそう言うと、男の額から、ツゥーと血が流れ出し、顔を赤く染めていく。


「…何だ…そうだったのか…。」


男は、力無く呟くと、立ち上がり、フラフラと、店を出て行った。


店の扉が閉まるのを見て、JOKERは、軽く会釈をする。


「またの御来店をお待ちしております。」





THRILLER BAR JOKERの夜は、まだまだ続く。






ー第一夜 間違われた男 【完】ー

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