第一章:山田慎也の混沌編〜失言や卑屈な言葉が壊す日常〜
第1話:愛される卑屈王の日常・社会の負け組が過ごす平日
【会社での最低限コミュニケーション】
僕は山田慎也(やまだしんや)、27歳の会社員だ。高校卒業後に入った中小企業で事務職をしている。データ入力や書類整理が主な仕事で、同期はとっくに昇進しているのに、僕はずっと一般職のまま。何の変化もない、灰色の毎日。
給料はほとんど上がらず、年収は200万円。手取りは月14万円程度で、この年齢でこの金額はヤバいの一言だ。残業代も未払いで、サービス残業が当たり前。時給換算したら最低賃金以下になってしまう。
むしろ、コンビニバイトの方が、稼げるかもしれない。
同世代の友人が昇進・昇給していく中、僕だけが取り残されている感覚。慢性的な疲労とストレスで思考力も低下している。
「年収200万円の俺なんて価値がない...」
「どうせ努力しても年収は上がらない。ブラック企業だから...」
「俺は社会の負け組だ」
そんな絶望的な思いが、頭の中をグルグルと回っている。
「おはようございます」
僕は隣の席の田村さんに挨拶をした。心の中で小さくため息をつきながら。
「おはようございます、山田さん」
田村さんは丁寧に返事をしてくれる。でも、それ以上の会話は続かない。いつものように。
僕たちは隣同士の席で、もう2年も一緒に働いている。でも、田村さんの趣味も家族構成も、僕は全く知らない。知ろうともしなかった。
田村さんも、僕のことを何も知らないだろう。知る必要もないのかもしれない。
「山田さん、よろしければ今度の歓送迎会...」
田村さんが少し躊躇がちに声をかけてくれた。その瞬間、僕の中で警報が鳴り響く。
「すみません、ちょっと予定が...」
僕は反射的に答えた。田村さんの顔がほんの少し曇るのを見逃さなかった。
田村さんは少し残念そうな表情を見せたが、すぐに作ったような笑顔で言った。
「そうですか。また今度機会があれば」
僕は軽く頷いた。胸の奥で小さな罪悪感がちくりと痛む。
内心では言い訳を重ねていた。
(自分の時間がほしいんだよな...)
(無理に参加しても話すことないし、きっと浮くだけ)
(それに、飲み代も高いし、歓送迎会はその人の分も払わないといけないからお金が勿体ない)
(手取り14万円で飲み会代なんて、本当にキツい)
(どうせ俺がいてもいなくても同じでしょ)
そして、いつものように口癖が漏れた。
「出会いもないしな」
「それに、うちの会社は9割男だから、女性との出会いもない」
「出会いがあったとしても、俺なんて恋愛対象に見られないよ...」
田村さんには聞こえない程度の小声だったが、確かに僕はそう呟いた。自分の惨めさを噛み締めるように。
はぁ、いつもどおりつまらない日常だ...。重いため息が心の底から湧き上がる。
じゃぁなんでこんな仕事をしているかだって?
僕にも分からない。ただ、楽しいこと何か起きないかな...という期待だけが、虚しく胸に残っている。
【昼休みのカフェ】
仕事から逃避したくて、僕は会社の近くの駅前カフェに向かった。足取りは重く、心も沈んだまま。
いつものように一人で。
「いらっしゃいませ」
店員さんの明るい声が聞こえた。二十代半ばくらいの女性で、名札を見ると「佐藤」と書いてある。笑顔が眩しくて、少し目を逸らしてしまう。
「アイスコーヒーをお願いします」
「こちらでお召し上がりですか?」
「はい...あの、Wi-Fi使えますか?」
「はい、パスワードはこちらに」
佐藤さんは丁寧にパスワードを教えてくれた。その親切な対応に、心が少しだけ温かくなる。
僕は席に座ってスマホを取り出した。SNSをチェックしながら、無意識に深いため息をついた。
「はぁ...」
胸の奥から湧き上がる虚無感。このまま一生こんな日々が続くのだろうか。
「何かお困りでしたか?」
佐藤さんが心配そうな表情で声をかけてくれた。その優しさが、逆に自分の惨めさを際立たせる。
「いや、ちょっと...僕、出会いがないんですよね」
佐藤さんの表情が少し困惑気味になった。でも僕は止まらない。
「...そうなんですか」
僕は続けた。一度口を開くと、堰を切ったように愚痴が溢れ出る。
「全く無くて。何処に行ってもないし」
佐藤さんは明らかに困っているようだった。でも、その優しい性格ゆえに、聞き流すこともできずにいる。
「この先もないでしょうね」
「...」
佐藤さんは何と返事したらいいのか分からないようだった。僕のネガティブな言葉に圧倒されている。
僕はそんな佐藤さんの困った表情に気づかず、自分の世界に沈み込んで愚痴を続けていた。
この店員さんもきっと、心の中で呆れているだろうな...。
でも止められない。この虚しさを誰かに聞いてもらわないと、押し潰されそうだ。
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