第24話 汚職警察署長デュラン・ハンセン
ヴラッドには気がかりなことがあった。
現状、二人を便利屋に匿ってはいるが、このまま裏の道へ引きずり込んでしまったいいのかという懸念があったのだ。
「今日は野暮用で出かけるから大人しくしといてくれ」
「「はーい」」
二人に便利屋を出ないように注意してからヴラッドは都市部へ向かった。
エンジンかけながら、タバコに火を着ける。
それからヴラッドはスマホでSNSをチェックし始めた。
仕事の愚痴や街で起こっている出来事からも、抜き取れる情報はたくさんあるのだ。
「今日も治安が終わってんねぇ」
カツアゲにあっただの、詐欺にあっただの、チンピラが銃を乱射しているだの、今日も治安は最悪だった。
ヴラッドはそんな街のSNS情報を一頻り見終わると、ふと目に留まった記事にスクロールさせていた指を止める。
そこには最近指名手配されたクーリンの事件に関する投稿だった。
[優しいおまわりさんだったけど、人は見かけによらないよな]
「情弱のダボカスが」
ヴラッドは不愉快そうに鼻を鳴らすとスマホの画面から目を離す。
モヤモヤした思考を振り切るように車を発進させる。
車を走らせスラム街を出ると、高層ビルが立ち並ぶ都市部へと景色が切り替わる。
都市部は、この街の中でも特に賑わっている。
人通りが多く、様々な店が建ち並び、常に人が行き交う。
その雑多な街並みを横目に、ヴラッドは慣れた様子で地下に入り車を駐車場へと車を停める。
「……ったく、面倒くせぇ」
気怠げに呟くと、エレベーターに乗り受付へと向かう。
「署長と話がある」
ヴラッドは受付で賄賂を手際よく滑り込ませると、受付係は無言で頷き、内線で上の階へ連絡を入れた。しばらくすると、奥から警察官が一人現れ、無言でヴラッドを手招きする。
ヴラッドは気怠そうに片手をひらひらと振りながら、エレベーターへ向かった。
上層階に到着すると、案内されたのは広々とした署長室だった。豪奢なデスクの向こうには、椅子にもたれながら葉巻をくゆらせる男、警察署長デュラン・ハンセンがいた。
「よぉ、便利屋。わざわざ警察に顔出すなんて珍しいじゃねぇか。何の罪だ?」
デュランはニヤリと笑いながら、葉巻を灰皿に押し付けた。
「出頭なんてコスパ悪いことするかよ。とっ捕まったとしてもあんたに賄賂渡しゃ前科なしで出れんだから」
「ははっ、違ぇねぇ」
「最近、ゴルディアス・ファミリーの動きが怪しいから情報共有に来たんだよ」
ヴラッドは適当にソファに腰を下ろしながら、さりげなく探りを入れる。
デュランは笑顔を浮かべてそれを歓迎する。
「そいつはありがてぇ。奴らはここ最近やたらときな臭い動きをしているからな」
「政府の犬どもと同じでな」
「……どこでそれを聞いた」
デュランは険しい顔つきになると、即座に拳銃を抜く。
「おっと、穏やかじゃねぇな。俺はただの便利屋だぜ? ちょっとした噂話を耳にしただけさ」
ヴラッドは両手を上げて飄々とした笑みを浮かべた。
「その〝ちょっとした噂話〟がどこまで本当か、俺が気にしないとでも思ったか?」
「そうカッカすんなって。この街で起きてることは俺にとっても他人事じゃねぇ。わからなねぇことは減らしたいだけだ」
デュランはじっとヴラッドを睨んでいたが、やがて小さく舌打ちし、拳銃をデスクに置いた。
「チッ……で、何が知りたい」
「最近ゆったりドライブができると思ったら、俺を追い回してたポリ公が指名手配されててたんでな。なんかあったのか?」
ヴラッドはあくまで軽い調子で尋ねた。
デュランは顔を顰めながら、机の引き出しからウイスキーのボトルを取り出し、グラスに注ぐ。
「……嫌なことを聞きやがる」
デュランはグラスを軽く揺らしながら、思案するように目を細めた。
「その様子じゃ、あの女はよっぽど大切にされたみたいだな」
「そりゃ、当然ってもんだ。汚職塗れの警察の〝良心〟だぜ? 明るく元気で太陽みたいな子だった。同僚達にも慕われてたってのに、今じゃ指名手配犯だ」
デュランは軽く鼻を鳴らしながら、デスクに肘をつく。
「やるせねぇな」
「上層部は発表をそのまま信じてるフリをしてるが、現場の連中は納得してねぇ。連中にとっちゃ、あの子はヒーローみたいなもんだからな」
デュランはウイスキーをひと口飲みながら、やるせない笑みを浮かべる。
「俺だって納得いってねぇさ」
「だが、立場上しょうがねぇよな。〝御上〟からの命令だ」
ヴラッドの問いに、デュランはグラスを回しながら、わずかに目を細める。
「噂話にしちゃ知りすぎだ」
「噂話さえありゃここまでわかるのが俺だ。便利屋バッドバットを今後もよろしく」
ヴラッドは軽く首を傾げ、少し考え込みながら口を開いた。
「さぁて、本題だ。政府の目的を教えてもらおうか」
「そいつはできねぇ相談だ」
デュランは再び葉巻に火を着けると、煙で肺を満たしてから口を開く。
「……これ以上、首突っ込んだら今度はお前が指名手配されるかもな?」
デュランはウイスキーをひと口飲みながら吐き捨てるように告げた。
ヴラッドはため息をつきながら立ち上がる。
「そいつはご勘弁被りたいね」
「懸命な判断だ。愚痴しか零せなくて悪いな」
「いいさ。これからもあんたとは良好な関係でいたい。愚痴ならいつでも聞くさ」
デュランは軽く手を広げて、ヴラッドを見送った。
ヴラッドはポケットに手を突っ込みながら、署長室を後にした。
「聞きたいことは聞けたしな」
ヴラッド小さく呟くと都市の喧騒へと戻り、スラムへ向けて車を走らせた。
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