まことのこと。

とんじる

第1話 まこからはじまる

 ボクの記憶はまこからはじまる。まこというのはネコで、ボクが2歳の頃、隣町にある松の根開墾地にある祖母のお客さんの家から貰われてきた。そんな小さい頃の記憶なんてって言う人もいるだろうが、あるんだからしかたない。


 1番古い記憶は音の記憶で、ボクは祖母の布団で眠るときに毎日祖母に聴いていた。


「あと、なんかいねだら、まこ、くる?」


「まだ、さぎだ。まこもおかあさんど寝ねばね。」

 

祖母は決まってこう答えていた。


次が映像の記憶だ。それはまこというより、まこの母猫の記憶である。ある夏の日、ボクは母の車で祖母に連れられ、松の根開墾地にあるまこの実家に行った。マコを貰いに行ったのである。祖母はまこを手提げ袋に入れ、ボクの手を引いて車に戻った。ボクが後ろを振り向くと、まこの母猫がこちらを見ていた。細っそりとした猫で、胸から脚にかけて白く耳や顔のあたりは縞三毛模様だった。その曲線は優美でボクは初めて生き物を美しいと思った。ボクはまこの母親に、だいじにするよ。めっこがる(かわいがる)からと誓った。記憶にある限りボクの初めての約束だ。


 その日、まこは段ボールに新聞紙を敷いた寝床に入れられた。


「おばあちゃん、まこどあそびで。」


「今日はまこも疲れでるがら、明日にせ。」


時々、段ボールから聞こえる音が気になったけど、ボクは祖母の布団で何して遊ぶかを思いつく限り挙げて、そのうち眠ってしまった。

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まことのこと。 とんじる @tonjirua1

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